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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 3
12/29

Part 3-2 You move,you die

230 East 21st Street Gramercy Manhattan,NYC 17:20


午後5:20 ニューヨーク市マンハッタン グラマシー区 西21番街230番地




 ESS隊員のハンス巡査は篭城ろうじょうされているテラスハウスに隣接する建物の五階から窓伝いに廊下に入り込んだ。窓は先遣隊せんけんたいの隊員の誰かが割って開けたと思われ、侵入は容易だった。彼ら五人はガスマスクを装着したまま一人が廊下の見張りに立ち、二人一組で各部屋を調べて回った。


 ハンス巡査とアルバート巡査の二人はカービン銃を構えたまま、まずドアのないぎ取られた様な跡の残った部屋から調べた。


 短い廊下を通り中に入るとわずかな家具しかないリビングだった。


 彼はすぐに横手のフローリングの床に血痕を見つけ、アルバート巡査の腕を叩いて無言で教えた。血の跡は、量こそ少ないが引きった様な血筋が開いたままの部屋に繋がっていた。


 ハンス巡査はそっと壁の角からその血筋の続く部屋を覗き驚いた。床に自分らと同じ装備の者が横向に倒れていた。それだけでなく見える範疇はんちゅうの壁に銃器がぎっしりと並んでいる。彼は素早くその武器庫の様な部屋の死角を確認しながら中に入り片(ひざ)を床につき倒れている者の顔を確かめるとセシリア巡査だった。彼は自分のマスクをぎ取りセシリア巡査の肩を揺すった。


「しっかりしろ、セシリア! 何があった?」


 すぐに彼女が気を取り戻し朦朧もうろうとしながら顔をしかめた。


「撃たれたの──太ももと肩を──子供──スタジアムジャンパーを着た──七歳ぐらい」


 ハンス巡査には意味が分からなかった。撃たれたのが、セシリアだけなのか、子供も撃たれたのか。


「その子供はどこだ? 子供も撃たれたのか?」


 しばらくセシリアが浅い息をついて、返事をしなかったが、ハンス巡査は辛抱強く彼女が答えるのを待った。


「──ちがう──わ。──子供がサイレンサーの付いた拳銃で──用心して──油断ならない──」




 その時だった。彼の肩越しに覗き込んでいたアルバート巡査が、ハンス巡査の背中にもたれ掛かり驚いてハンス巡査は顔を振り向けた。


「しっ、尻を──」


「あぁ? どけ、アルバート」


 抗議した直後、ハンス巡査ははっきりとフローリングの床にカートリッジが落ちたブラス特有の高い金属音を耳にして、右肩に走った激痛にうめいた。


 彼はアルバート巡査の右脇の間から、ソファーの後ろに立ちダブルハンドで銃を構える少年を眼にし、撃たれた右肩を押して右手で床に置いたカービン銃をつかもうとした。その手のひらをものの見事に撃ち抜かれ、彼はパニックになった。










 その自分らと同じ装備の何者かが、ヘッドギアーの後ろに長いブロンドの髪をさらしていなかったら、レオナード巡査は見抜けなかった。それだけではない。右肩の後ろにスリングで四挺ものKSGの様なショットガンを吊り下げている。


 だが、こんなESS隊員がいるものかと、彼は声を掛けた瞬間に気がつきカービン銃を振り上げながら命じた。


「貴様、誰だ!? 除装しろ!」


 相手が右手に握ったM4A1の銃口を天井に向けながら、投降する意志を見せかけた刹那、左手首のスナップ一つで彼の方へと何かを放り出した。


 何だ、と彼が銃口を向けたまま自分の足元に転がったそれを見た瞬間、数十個のフラッシュライトを浴びせられた様な真っ白い輝きが走り白い闇に視界を奪われ、同時にショットガンの銃声よりも大きな爆轟が連続し始めた。


 その途端に彼の背後で叫び声やうめき声が連なり、一瞬、カービンの連射音が間奏曲となった。


 爆轟と閃光が交互に繰り返す間に、M4A1カービン銃を振り向けて背後に回り込んだその何者かを撃とうと眼を凝らしたレオナード巡査が、ガスマスクの合わせガラスのレンズ越しになんとか白くかすむ目で見たのは、自分に向けられて振り上げられたカービン銃のストック後端だった。


 構える間もなく顔面をマスク越しに強打され、レオナード巡査は意識が飛び後頭部から床に倒れた。












 閃光手榴弾の破砕する音とフルオートのカービン銃の銃声を耳にして、マキアート警部はDEAの捜査官の元に一人のESS隊員を残し、五人の部下を引き連れ階段を駆け上がった。二階の廊下を駆け抜け、奥の階段近くまで来ると、廊下に六人ものESS隊員が倒れていた。手分けし、息を探ると皆が無事だったが、完全に意識を失っていた。


 マキアート警部は篭城ろうじょうする何者かが恐ろしく手際のよい相手だと認めざる得なかったが、仮にそいつがあの元ATFの女捜査官だとしてもここまでやれるのかと懐疑的になった。ATFは全米官庁でももっとも訓練が厳しくFBI以上だと言われているが、ここまでくるともう軍の特殊部隊兵並みの行いだった。いいや、古参兵──手練れだ。


 彼は傍にいる五人の部下に全周囲の警戒を最大限に行う様に命じ、同時に各人が視界の外に離れないように言い含めた。












 微かなうめき声を耳にした五階廊下を見張っていたスコット巡査は、直後人が倒れる様な音も耳にした。彼はどこからだと廊下を歩き、彼は扉のないその部屋の前で立ち止まった。そうしてハンスとアルバートの二人が入ったその部屋からもの音がしない事に気がついた。


 二人も入って音一つ立てないことがあるものかと、スコット巡査はカービン銃を肩付けし射撃モードをフルオートにするとトリガーに指を乗せダットサイトの視界に神経を集中しながら部屋へと入り込んだ。彼はゆっくりと足を運び音を立てないように短い廊下を抜けると、彼とは別な向きに銃口を向け拳銃を構える年端もゆかない少年をソファーの先に捉えた。


「銃をソファーに下ろせ! さもないと死ぬ事になるぞ!」


 突然、部屋に入り込んだ大人から大型の銃を向けられ、大声で命令された少年はビクついて彼の方を見た。


「銃を下ろせと言っただろ! 撃つぞ!」


 彼の二度目の警告に少年がゆっくりとソファーのクッションの上に銃を下ろした。スコット巡査はその銃を見て眉根を寄せた。ただの拳銃じゃない。サイレンサーが付いた22口径のルガー製の銃だった。


「坊主、両手を見えるように上げたまま、そのまま壁に向き手を広げて顔の高さに壁へ手をつけ!」


 彼がそう命じた直後、神経質な声が聞こえた。


「気をつけてスコット。その子、油断ならないから」


 部屋のどこかから聞こえてきたのが、間違いなく同僚のセシリアのものだった。


 彼が視線をダットサイトから外し、眼を横へ振り向けたその刹那、少年が振り向きソファーの背もたれ越しに身を乗り出して銃へ手を伸ばした。


 視界の右端に動きを感じたスコット巡査は警告する間もなく引き金を絞ってしまった。













☆付録解説☆

☆1【You move,you die!】動いたら死ぬぞ(動くな!)。"Don't move !"という直接的な言い方があるのに英語圏では文化の違いで(宗教的な相違もあるのですが)この様に相手の立場からの言い方をしばしば用います。同じ様な見方の異なる表現に日本では『立ち入り禁止』とありますが、アメリカでは"STAY OUTSIDE"『この外にいなさい』と表現されているのをよく見かけます。


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