表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 3
11/29

Part 3-1 YOU! What do you want to do?

230 East 21st Street Gramercy Manhattan,NYC 17:10


午後5:10 ニューヨーク市マンハッタン グラマシー区 西21番街230番地




 ブラッカム警部がグロック17オートマチック・ハンドガンのトリガーを引ききり、フロントサイトの先に廊下の暗がりで大きすぎる火焔が膨れ上がり、9ミリパラベラムのホローポイントが高速で飛び出したのを彼は目で捉えることはかなわなかった。




 だが目の前の女が後頭部に衝撃を受け、前に顔を振り下ろしながら脳髄のうずいを撒き散らす瞬間を見た。


 彼は見た気がしたのだった。




 火焔が膨れ上がりきる直前にそのメイドが長髪のブロンドを壁に届きそうなほど振り回し、顔の輪郭を残像として引きずりブロンドのカーテンを広げたまま一気に顔を斜め下に揺り動かした。


 広がったブロンドの長い髪が、一点に吸い込まれるように引っ張られ一気に集まるとむちのように一度跳ねて女を追いかけた。


 ブラッカム警部はその動きを正確に見切るどころか、流れさえ追いきれずに、何かが迫ってくる異様な圧迫感だけに恐怖が爆発した。




 大リーガーの恐ろしく切れのいいシュートの様に、青から宝石のアメシストの色合いに変化し続ける双眼が、幾つもの幻影を中間に残しながら、一度落ちカーブを描き立ち上がり寸秒で彼の目前で停止した。その頭の後ろで一度浮き上がって広がったブロンドの髪が落ちてゆく間、彼はその女の虹彩がゆっくりと縦長に伸び始め上下の頂点が形作られるのを左右の目を寄せて見入ってしまっていた。同時に女の瞳が青から赤みを増すにつれて、女が彼の胸の前で何をしているかなどまったく理解していなかった。女はベストのベルトにショットガンのストックを支えさせ右手をフォアエンドのバーチカルグリップに握り替えるなりそれを下げ切り殺傷能力のない発砲されてないビーンバッグ・シェルをストック下から勢い良く弾き出すのと同時に、左手でコートのポケットからスラッグ弾を一つ抜き出し素早くエジェクションポートに押し込みフォアエンドを引き上げた。


 ショットガンの銃口をあごの下に押しつけられて初めてブラッカム警部は事態を理解し、脳髄をまき散らすのは自分なのだと朧気おぼろげにひらめいた瞬間、失禁しスラックスの股を濡らし始めた。


 生唾を呑み込む事も出来ずに、震えながら見つめる先にとても人のものとは思えない赤紫の暗黒が呑み込もうと構えていた。




 次の一瞬、いきなり彼の横を金髪の長髪が流れると同時に彼の前にある開いたままの扉がドラムの様な轟音を放ちながら彼へと迫った。それを彼は拳銃を握った手で押さえ返した直後、彼の横の廊下の壁に奥へ追う様に弾痕が走り、カービン銃のフルオートの銃声が廊下をおおくした。


「撃つな! オフィサー(:捜査官)だ! DEAだ!」


 女がいなくなった安心感から泣きそうになり、叫びながら彼はドアの端から左手の偽のバッヂを横へ突き出した。直ぐに三人のESS隊員が彼の傍に駆け寄り、マスクを着けた顔で混乱し続ける顔を覗き込んだ。


「撃たれたか!?」


 問われて彼は震えながらかぶり振り、説明した。


「違う! 足はあのメイドに──黒コートを着た金髪のメイドに撃たれたんだ! 奴は凶悪手配犯だ!」


「捜査官、君はあのアン・プリストリを追っていたのか!?」


 そのマスクの特殊部隊員に言われ、彼は初めてあの化け物の様なメイドの名を知ったが、それで震えが治まるわけではなかった。












 金色の髪を真後ろに流し駆けながらアンは振り向きもせず追ってくるのが四人だと理解していた。




 ESUの兵士らを子供の所へ導くわけにはゆかなかった。彼女は奥の階段から二階へ駆け上がり、廊下の方へ駆け込むと目的のドアを一つ開き放ち、その陰に身を溶け込ませた。通りが急速にかげり照明を外してある廊下は人の顔すら近づかなければ判別出来ないほど暗くなっていた。




 彼女が身を潜め息を殺した瞬間、八つのコンバットブーツが廊下を踏み鳴らす音が響いた。だが開き死角を生み出しているドアに気づき、足音は一瞬で消えた。ささやき合う声すら聞こえず、特殊部隊員らは次の行動を読ませない魂胆こんたんなのだと、アンは新たに起きることを読み切っていた。




 直後、廊下に複数の轟音が始まりドアの表面に幾つもの弾痕が重なり合い広がった。


 圧延鋼鈑を張りつけているドアを押さえ堪えながら、確認もせず発砲してきた事により、彼女は、彼らが投降すら考慮にないのだと分かると、一番弾数の少ないショットガンにつかみ直し、一気にフォアエンドを前後させ続け一つのチェンバーと二本のチューブラーマガジンから残っていた十六発のビーンズバック弾を排莢はいきょうし、出し切ると即座に八個のスラッグ弾をエジェクションポートから押し込んだ。




 連中が十分に強度のあるプレートに護られている事を信じ、アンはドアから身を離すと、ドアへ向けショットガンを発砲し始めた。スラッグ弾は圧延鋼鈑に指三本が入りそうな大穴を残し貫通するとドアの表面で沢山の木(くず)を撒き散らし飛び越し特殊部隊員らに襲い掛かった。


 うめき声と人の倒れる音が重なり合い、またカービン銃の射撃音が始まったが、今度は一挺だった。


 その音の反響からアンはドアの付け根ぎりぎりにショットガンを寄せ壁伝いに弾丸が飛翔するように残った二発を発砲した。




 一瞬でカービン銃の銃撃は止み、人がうめき倒れる音を耳にして、彼女はゆっくりとドアの陰から歩き出るとショットガンに新たなスラッグ弾を装填しながら階段の方へ歩いた。廊下と階段際に四人のガスマスクを着けた男女がノビていた。


 一人の男はプレートキャリアーの防弾プレートが耐えきれずに粉砕したのか、胸骨の直ぐ下から血を流していた。アンはキャリアーをはぎぎ取り戦闘服の胸に染み広がる血の量を確認した。だが大した量でなく、命に心配はなかった。


 立ち上がり、わずかな間彼女は倒れたESUの警官達を冷めた眼つきで見つめていて、急に一人の上背のある男の装備を外し始めると、コンバットブーツと戦闘服を脱がしに掛かった。


 そうして数分でぎ取った服と装備を身につけガスマスクを顔に着け、右肩後ろに二挺のショットガンをスリングでぶら下げ、下着姿になった男を扉の開いたままの部屋に引きずると、戻ったアンは床に転がったM4A1カービン銃を拾い上げ登り階段に向かった。




 数段、足を掛けた所で、玄関に近い階段を上って二階の廊下を歩いてきた三人の特殊部隊員がM4A1カービン銃を肩付けしたまま三人が倒れている場所に来て銃口を下ろすと一人がアンの後ろ姿に声を掛けた。


「大丈夫か!? 状況は?」


 マスクで声がくぐもっていたが、アンは好都合だと思った。


「ダメだァ。三人気絶させられたァ。一人は肋骨ろっこつが折れているかもしれないィ。俺は先に上を調べるゥ」


 その三人のうち二人が倒れた隊員らを介抱し始めると、アンに声を掛けた男性隊員はいきなりカービン銃を肩付けし、彼女に照準するなり誰何すいかした。


「貴様、誰だ!? 除装しろ!」


 アンは右腕のひじを曲げカービン銃を天井に向け身体の前に回した左手でプレートキャリアーのベルトにセーフティーピンのリングでぶら下がった閃光手榴弾を静かに引き抜きレバーを握る指をゆっくりと広げた。















☆付録解説☆

☆1【YOU! What do you want to do?】おい! どうするんだ!

☆2【ホローポイント】(/Hollow-point bullet)。弾丸の先端部分進行方向に穴(すり鉢状や奥長の真っ直ぐな)の開いたものです。これは弾頭の持つ慣性エネルギーをより多く効率的に被弾対象に転換する為のもので、接触した直後、弾頭のマッシュルーム(キノコ形状、Petal(/ペタル:花弁)化ともいいます)化する事を助け正面からの接触面積拡大化を狙いとしています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ