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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 2
10/29

Part 2-5 How bad is it?

230 East 21st Street Gramercy Manhattan,NYC 17:05


午後5:05 ニューヨーク市マンハッタン グラマシー区 西21番街230番地




 セシリア巡査は床に座り込みひざを横様に曲げ撃たれた右脚を見た。黒いコンバットパンツを履いているせいで、撃たれた箇所を直接見ることはかなわなかった。だがよく見ると太ももの前の一部に小指の先が入りそうな穴が開いていた。痛みぐあいからも太ももを撃たれたのには間違い無さそうだった。


 撃たれたのは足だが、次はどこを撃たれるか分かったものではなかった。セシリア巡査は左手を横の床につき右手一つでM4A1カービン銃を構えていた。彼女は自分の脚からソファーへ視線を戻した。そこに少年の姿はなかった。部屋に入ってきてソファーの後ろを確認しなかった事が悔やまれた。またソファーの陰に隠れたのだろうか?


 彼女は床に伏せてソファーの足元を眼で確かめたい欲求に駆られた。もしも見つけたら少なくとも足を撃ち返せる。それだけで少年の動きを封じられそうな気がした。だがもしいなかったら? 床に這いつくばっているところを襲われたらひとたまりもない。だが部屋には他に隠れられそうな家具はなかった。


 私がバランスを崩し倒れたときに少年は移動したのか? セシリア巡査はまたもや見落とした事が悔やまれた。彼女はどうしてもソファーの後ろに少年がいるのか確かめずにはいられなかった。意を決してセシリア巡査は引き金に指を掛けたままカービン銃の銃口をソファーの方へ向け床に寝かせ置いた。そうして這いつくばるように床へ伏せてソファーの下を覗き見た。


 少年の足が見えた。


 次の瞬間、彼女は躊躇ちゅうちょせずフルオートで発砲した。眼の前で幾つもの空薬莢が弾き上がって床に落ちてきた。七、八発撃った瞬間、トリガーを引いていた指をトリガー・ガードの外へ弾いた。少なくとも一、二発は少年の足に当たったはずだ。はずだった。確かめるようにセシリア巡査は床に片耳をつけソファーの下を覗き見た。


 その狭い隙間の先に転がったスニーカーが見え、彼女は眼を丸くした。




「やっぱり、おばさんもボクを殺すんだ」




 ゆっくりと横に視線を振り向け横目でセシリア巡査が見たのは靴下姿で床に立ち両手で拳銃を構えた少年だった。そのサプレッサーの銃口がじっと狙っていた。彼女は生唾を呑み込んだ刹那、乾いた機械音がして空薬莢がその銃の横から弾け飛んだのを眼にした直後、のけぞって床に崩れ落ちた。












「くそッ、膝蹴ひざげり一発かよゥ」


 吐き捨てアンは倒れた警察特殊部隊の男を見下ろした。もう少し骨のある奴かと思ったが期待はずれだった。こんな事なら二カ月前に相手した海兵隊のアヒルどもの方がよっぽど面白かった。


 彼女は興味を失いコートの下に右手を差し入れKSGー25ショットガンのグリップを握りしめると銃口を下にしたままコート下から引き抜いた。そうして自分の家に入り込んだゴキブリ探しを再開した。NYPDのESUの連中が何人で来てるか分からなかったが、これで倒したのは五人だった。階段を下りながら、彼女は眉間にしわを刻みため息をついた。幸いブルースチール(:NYPD制服警官の俗称)らが数人ですんでいるのはせめてもの救いだった。正面玄関からこれ以上入り込まれると、本気を出しそうだった。


「いやァ、そりゃァ、いかんだろゥ」


 呟き彼女は自重しながら階段を下りきると三階でノビていた巡査が呻きながら頭を押さえて身体を起こそうとしているところに出くわした。


「死霊みたくゥ、復活すんなァ!」


 そう言い放ち彼女はショットガンのフォアエンドで巡査の後頭部を思いっきり殴った。巡査が前のめりに床に倒れたその直後だった。短いカービンのフルオートの銃声が階上から聞こえた。だがアンは今度は心配していなかった。


 あの坊主は間違いない“おとこ”だ。カービン銃を持った大人相手にバッグで殴りかかる手合いだ。


「頑張れよゥ、坊主」


 上り階段の先へそう声を掛けアンは二階へと階段を下り始めた。彼女は表の西21番通りにESS第1分隊の別な大型車両二台が急行して入り込んで来たことを気がついていなかった。












 ESS第1分隊長のアルフォンス・マキアート警部は派遣した先遣せんけん分隊のリーダー──コスナー巡査部長が入れてきた緊急無線を本部で耳にし驚いた。


 無線は途中で切れ、その寸前数回の発砲音がスピーカーから流れたのをはっきりと耳にし、直後無線担当官に呼び掛けるよう指示したが、応答がないとわかると即座に13分署に電話し状況を尋ねた。電話は直ぐに分署長へと引き継がれた。




 分署前のテラスハウスの建物にESS隊員達が入りすでに十五分が過ぎようとしていたが、今だにその建物から銃声が散発して聞こえ、危険で巡査達を入れられないと分署長が答えた。




 マキアート警部は即座に待機状態にあった二分隊十四人に出動命令を下し、自ら先頭のトラック5に乗り込んだ。彼は移動中、万が一の事態に備え、ブロンクスの第3、第4分隊にも応援要請を出しそれぞれの責任者から承諾を受けた。その二分隊から遅れて十四人の特殊部隊員が駆けつけると分かったが、警部は先遣せんけん隊の安否を心配し、増援の到着を待たずして十分で通りに臨場した直後、即座に重武装で下車させテラスハウスへ突入する準備を始めた。


「──の五人は隣の建物上階の窓伝いに篭城ろうじょう被疑者の占拠するテラスハウスへ侵攻。上階から下へ向け制圧。残りは私と共に一階正面から制圧にかかる。全員、ガスマスクを常時着用し、手持ちの閃光手榴弾をすべて使うつもりでいけ。被疑者以外の住人を見つけたなら、即座に安全確保し退去させ、被疑者を孤立化。単独とは限らないので十分に用心してかかれ」


 隊員達の視線に気づき振り向いたマキアート警部の前に数枚のコピー用紙を手にした私服の中年男が立っていた。


「すみません。作戦準備中に。13分署殺人課のマクファーソンです。これを見てください。あのテラスハウスのオーナーに連絡を入れようとしてとんでもない事が発覚したんです」


 そう言ってその刑事を名乗った男がマキアート警部に数枚のコピー用紙を手渡した。




 その用紙はICPOの手配書コピーだった。アン・プリストリという女性。容疑を見るとなんと国際手配中の殺人容疑が掛けられている。




 マキアート警部はその手配書の内容に眼を通すにつれて顔をこわばらせた。


 13分署の眼前に居を構える女が、実は元、ATF捜査官で、身分証に使われていたと想われる写真が添付されていた。その美貌びぼうの容姿から容疑が信じられなかった。その女は大量虐殺容疑で手配されていた。


「この女がテラスハウスに篭城ろうじょうして銃撃を繰り返している確証は? オーナーなんだろう?」


 マキアート警部が13分署の刑事に尋ねたがマクファーソン刑事は困惑げに返事をした。


「不動産登記から調べたので持ち主には間違いがないが、同性同名の可能性もある。銃撃が始まって一時間ほどだが、女を見かけた者がうちの署にいない。手配書との照合は行われていないんだ。現時点でうちの六人の制服警官が中に入ったはずだが一人も出て来ていない」


 マキアート警部は嫌な予感にさいなまれ彼は時間をおかずして決断した。


 予定通りそのまま五人が隣の建物上階から、十人が正面玄関から突入する事にした。


 マキアート警部は全員に手配書の写真を見せ、抵抗の如何いかんに関わらず、まず、撃てと隊員達に命じて配置につかせた。


 彼はM4A1カービン銃を構えたまま十人の先頭に立ちテラスハウスの入り口を目指しながら冬の暗くなりだした通りに不吉なものを感じていた。




 その女、大量虐殺とは──いったい何人を殺めたというのだ?












 アンに片脚の向こうずねを撃ち抜かれている悪徳刑事のブラッカム警部は最初のESS隊員らがテラスハウスに入り込んだ後に足を引きずりながら一階の廊下に入り込んだ。




 だが、彼は玄関前で催涙弾を暴発させたESS隊員らの混乱した様を見て五階に上がる勇気をなくしてしまった。彼は階段下の物置の開いたままの扉の陰で座り込み待つことにした。ESS隊員達が子供を確保して避難させようとしたら、すかさずDEAのバッジを見せ見受けをするつもりだった。




 しばらく待つ間に数回のショットガンからの発砲音を耳にし、間をあけてアサルトライフルの短いフルオートの射撃音を耳にした。


 それから静かになり階段を誰かが下りてくるのを辛抱強く待った。


 五分たたずにゆっくりと誰かが階段を踏んできた。


 ブラッカム警部は左手に偽物のバッヂを握りしめ右手でグロック17をホルスターから引き抜き立ち上がった。


 声は相手を確かめてから掛けるつもりだった。もしもあのサイボーグ・メイドだったら、容赦なく撃つつもりだった。下りてきた何者かは最後の階段から足を離しきしむ音が止むと彼はドアの陰からそっと顔を覗かせた。


 目にした玄関からの短い通路に長髪のブロンドの女が後ろ姿で立っていた。右手にショットガンを下げている。




 ブラッカム警部は目をこわばらせながら銃口を振り上げ女の後頭部へ向け引き金を引き切った。













☆付録解説☆

☆1【How bad is it?】深刻なのか?


☆2【ICPO】(/International Criminal Police Organization/インターポール)。国際刑事警察機構です。フランスに本部を持つ国際犯罪の捜査機構です。世界を対象に捜査する国際警察の様ですが、そのような組織ではなく、各国政府に捜査逮捕権を任せ連絡など調整組織として活動しています。ルパ○Ⅲ世の銭形警部の様な国際的に逮捕して廻る職員はいません。


☆3:【ATF】(/Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives)。現在のBATFEでアメリカ司法省管轄の捜査組織です。ATFとは、州を跨いで無許可取引をする物品(アルコール・タバコ・火器)と関係者を取り締まっていた性質上まだ同組織が財務省管轄だったころの略称で、現在もLE(:法執行機関)関係者の年配の方はこう呼びますしBoJ(:司法省)関連の政府サイトでもATFと表記され広報の配布物でも同様です。現在は爆発物も取締り対象になっていますが、この他に不法ディーラーが重複している性質上、麻薬の取り引き取締りもDEA(:麻薬取締り局)と連携し行っています。



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