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31番目の妃⑧

 マクロンは機嫌がいい。実に機嫌がいい。ビンズの進言で、妃のふるい落としが始まったからのだ。問題を起こした妃は随時報告され、長老会議でそれが発表される。


 申し分ない位であっても、容姿がずば抜けて良くても、……王が気に入っても、資質のない者を王妃には据えられない。そんな至極当たり前のことではあるが、このダナン国では王妃選びのしきたりによってそれが蔑ろにされてきた感は否めない。というか、31人も揃えばそれなりの者が王妃となってきたのだ。資質とやらを鑑みなくとも選ばれてきたと言えよう。


 しかし、時が過ぎれば形骸化されていく王妃選びと、変わりゆく中身。昔は1~31のお妃様はそれなりに素晴らしい資質の者が集められたであろうが、今や体裁や欲望野望の者らが集ってしまっているのだ。


 マクロンはこの妃選びをしきたりだと諦めていたが、今これを改善すれば今後の王の苦悩を緩和できるのだと気づき、おおいに会議でなたを振った。


「1、5、6は辞退。15、20は資格がない。まあ、王妃としてはだがな。後は……12、24、30は召し上げられたのは親のごり押しだろう。私に、令嬢らは泣いて訴えていたぞ。婚約者がいたのに切り離されたとな。ついでに言っておく。2の気位が高いニコリとも笑わぬ姫は論外だ。表情を変えぬことを美徳とする国から来たからであろうが、このダナンにおいて、民に笑みを向けぬ王妃ではやっていけぬ」


 マクロンは長老に睨みきかせながら、次々に言い放っていく。31の妃らの半分はふるい落としとなったのだ。本来なら、三ヶ月の交流期間後に決めることが、マクロンの大なたでどんどん進んでいく。マクロンの機嫌は上々だ。


「では、内々にお妃様らに告げていきましょう。承知くだされば、王様との直の交流はなくし、二ヶ月後に……いえもう一ヶ月半後ですな。お妃様候補に選ばれた名誉を掲げ、去っていただきましょう。承知なきお妃様に関しては、王様申し訳ありませんが、しきたりに従い交流をお願いいたします。失敗の挽回の機会を与えるのも王の器でございましょうから」


 と、長老は締めた。マクロンは小さく舌打ちした。あの15、20の妃は承知しないだろうと予測して。


「では、二度の失敗があれば強制辞退だ。一度は機会を与えよう」


 長老の反論を聞くことなく、マクロンは立ち上がった。会議は解散となった。


 その後、執務室に戻ったマクロンはビンズをよんだ。今後の報告に関して密命を出すために。


「担当騎士らに報告させる。いつも警護している者こそ、妃の本質や資質、器の力量を知ることができるはずだ。密命であるぞ。私は騎士らの目を信じている。妃らには気づかれぬなよ。まあ、気づかれたとて、その後の行動でさえも報告させろ。金を積む者もいるかもしれんな」


 マクロンは歪んだ笑みをビンズに向けた。ビンズはため息を吐いた。マクロンは肝心なことを蔑ろにしている。


「お妃様も人間です。どんな性格であれ、あなた様に気に入られようと頑張っている者たちです。都合上○番のお妃様とお呼びしておりますが、皆名前があるのです。生身の人間なのです。心があるのです。あなた様は、今自身の辛い現状を打破するために尽力し過ぎて、見なくてはならぬもの、感じなくてはならぬもの、想いを馳せねばならぬものに気づいておりません。


選ぶのはあなた様の生涯の伴侶です。あなた様はその伴侶を番号でお呼びするおつもりですか? 心を寄せ合う努力をなさってください。……お辛い状況は前回の進言と、今回の会議でなくなったものと考えます。これ以上のお妃様へのなたふりは、あなた様を愚王にさせますよ」


 マクロンとビンズの間で沈黙の時が流れた。先に動いたのはマクロンである。立上がりビンズの前へと進む。


「流石『烈火団』の団長だ」


 マクロンはビンズの肩に手を置いた。ポンポンと叩く。


「すまん。いつも私を正気に戻すのはお前だな。長老が言わんとしていたことだろ? そうだな……本当にそうだ」


 マクロンは自身の傲慢さを自嘲した。ビンズはそんなマクロンにホッと一息ついた。ここからが、妃選びの本番である。マクロンの心がやさぐれたままでは、たち行かなくなるのだ。


 ビンズはふとフェリアを思い出す。あのお妃様も、マクロンとは違った意味で心の土台ができていないのではないかと。いや、土台以前の問題で、唯一マクロンに会っていないのだ。始まりたくとも始まっていないお妃様である。ビンズは眉を寄せて、渋い顔になった。元々フェリアは帰りたがっていたと思い出して……



***


「へっぷし」


 フェリアはくしゃみをした。鼻をひゅっとこする。鼻水は出ていない。


「何だろ、寒気がするわ」


 その呟きにゾッドが反応した。


「フェリア様、どうぞ邸にお入りください。後は私たちが片付けておきますので」


 フェリアはうーんと唸って考えた。たまにはいいかと考える。農機具をゾッドに渡し、邸に向かった。


 邸の中でフェリアは暖炉に火をつける。いく分厚いと思われる服に着替え、薬草茶を淹れた。


「ちょっと疲れたのかな」


 リカッロの野営箱から丸薬を取り出すと、フェリアは鼻を摘まんで一気に飲み込んだ。すぐに薬草茶を飲む。それでも悶絶した。この滋養強壮丸薬の臭いこと臭いこと……


 フェリアはしばし悶絶したのち、ベッドに倒れるように吸い込まれていった。やはり、慣れぬ土地での開墾に疲労が蓄積していたようだ。夕飯も食べることなく、フェリア眠りこける。


 外では三人の騎士が心配そうに邸を見守り、朝がくるのを寝ずに待つことになった。侍女がいない不便さが際立った夜だった。

次話6/7(水)更新予定です。

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