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31番目の妃*38

 次の間に王マクロンが入る。その後ろにはフェリアだ。二人は、集められた者に一瞥もくれず総会会場へと入っていった。ビンズは次の間に留まった。ガロンも次の間に入り、ビンズの横で待機している。


 会場のざわめきは王の登場で静まる。しかし、王の後に続いたフェリアを確認すると、前回同様に不穏な空気が流れた。前回と違うのは、死斑病が終結したことで貴族らに余裕ができたことだ。恐怖が取り除かれ、貴族らの力のほこ先は、前回追及できなかったフェリアの立場の言及に及んだ。


「王様、なぜ王妃の席に……31番目のお妃様がお座りなのでしょうか?」


「我の総会開始の宣言もなく、言葉を発するとは、お前が王にでもなったつもりか?! ならば、さっさとここに座れ!」


 マクロンは立ち上がった。フェリアも立ち上がる。発言をした貴族は縮み上がり額を床につけた。『滅相もありません』とひれ伏す。


「緊急貴族総会を開始する! 終結した死斑病についてが議題だ。それ以外は議題にない。わかったか?」


 マクロンは、ひれ伏す貴族の頭に声を落とした。マクロンの威圧に貴族らは、一旦フェリアのことには口を閉ざした。だが、時期がきたら発するであろう。その機会を虎視眈々と狙うはずだ。たかが、領主の妹には屈してたまるかとの思いがある。前回、フェリアにやられたままでは、貴族のプライドが許さぬのだろう。


「王様、毒を依頼した者は判明したのでしょうか? 森林火災を起こした者も判明しましたでしょうか?」


 ブッチーニ侯爵がマクロンの意を汲み発した。マクロンはあえて軽く笑みながら頷いて見せた。それに貴族らは目を開く。その笑みの意味は、侯爵よくぞ我の意を汲み言ったと示したものだ。ブッチーニ侯爵は、マクロンの笑みに胸に手を当て、軽く膝を折りながら頭を下げた。流れるような二人のやり取りに、貴族らは抜きん出た侯爵に追い付こうと、一連の首謀者についてを口にした。皆、首謀者は極刑にすべきだと発している。


 次の間では、その貴族らの発言を聞き、サブリナが顔の色を無くした。


「発病者とガロンをここへ」


 マクロンは、貴族らの雑多な発言を手を上げて制してそう言った。次の間からガロンと発病者の男らが入ってくる。貴族らは、サーッと一気に引いた。完治したとて、伝染病を患った者らだ。その証したる斑点もうっすらと残っている。だが、死斑病の発病者と言われねばきっとわからぬ程度の斑点だ。


「ガロン、説明を」


「カロディア領主弟ガロンと申します。ダナンにおける死斑病の対処をさせていただきました。また、発病の原因についても調査いたしました。


まずは裏社会では有名な『紫色の小瓶』という毒についてお話しさせていただきます。火災後の森林に発生する毒沼がその原料になります。それを濾過して死に至らしめる紫色の毒ができます。その毒の精製過程で何らかの作用があり、死斑病が発症します。森林火災後の毒沼を通った騎士様らに発症せず、毒の精製を行った者に発症したことから、原因は毒の精製とみて間違いありません」


 そこで、ガロンは一旦言葉を止めて一呼吸する。それから続けた。


「次に、対処に関してです。前カロディア領主は、この死斑病の対処方法を研究しておりました。一般的に知られているタロの生葉が効くことの他、ダダの薬草入りのタロの芋煮が、死斑病の予防に良いことを長年の研究で得ていました。カロディア領は月に一度芋煮会を開き、その予防をしておりました」


 そこで、貴族らが声をあげる。


「予防法を隠匿しておったのか?!」


 ガロンは声をあげた貴族を見て、言葉を続けた。


「死斑病に効くという眉唾ものの情報は、たくさん流れております。自邸にとじこもっておいでの貴族様らも、これらに手を出したようで、各地域の薬草領に予防にもならぬ薬草やら何やらの取り引きを申し出たようですね。知り合いの薬草問屋たちも困っておいででしたよ。効かない薬草を出すことの抵抗感、その薬草は他の病で効能があるのに、それを奪われる。効かないと責められるかもしれない。


まあ、そんなわけでこの予防法をその眉唾ものの中に入れることは危険でした。ダダの薬草はカロディア領の特産です。一貴族手に委ねるなどできませんから。カロディアは来るべき時のためにタロ芋と、ダダの薬草を備蓄しておりました。死斑病が発生したら、必ずタロの薬草の仕入れがあるはずですから。それに合わせてカロディアは死斑病の発生地に赴き、対処するのです。今まで何度もそう行ってきました。それにより、この予防法は確固たるに値する予防法であると結論づけました。……しかし、その報告ができなかった。その調査をし、対処法を研究していた前カロディア領主は、事故で亡くなったのです。事故であったか? 原因がわかった今では、その事故死に疑問が残ります。もしかしたら、毒の精製が原因と突き止めた前領主が、毒の精製に関わった者に狙われた結果の事故かもしれません」


 ガロンは貴族らを見回した後、マクロンに視線を向けた。顔色の悪い貴族らが数人いる。先の眉唾もののことか、後の毒のことでの顔色の悪さかはわからない。


「あい、わかった。では、発病者よ、我の問いに答えよ」


 発病者の男らは、床に頭を擦り付けている。


「毒の精製は素人であるか?」


「はっ、はいぃ!」


 その答えにガロンの眉が少し動く。マクロンの問いの意図がわかったからだ。


「玄人の精製と素人の精製で何らかの違いがあるかもしれん。もしくは、玄人であっても、その精製で死斑病を発病しているかもしれんな。表に情報が出てこないことが、死斑病の対処ができなかった原因だ。


さて、さらに訊く。誰に頼まれた?」


 マクロンの問いに男らは、震える声ですみませんすみませんと何度も発した。


「さっさと言わぬか!」


 貴族らが怒声を男らに降らせた。その貴族に王マクロンは一睨みする。それにより、貴族らはまた口をつぐんだ。


「すみません……すみません……王城からの依頼、王城から裏の依頼が……」


 その発言に一瞬静まったが、ヒュッと息を吸い込む音とともに、またもや貴族らが騒ぎはじめた。


「王城に相応しくない者を排除するためと……ダナン国存続のための毒であると……」


 男らが上擦った声を紡いだ。


「なんと! 王城の誰かを狙ったというか?! して、依頼主は誰なのだ?!」


 貴族らは、また声を荒げた。男らは少しばかり顔を上げ、マクロンを拝む。その口がゆっくり依頼主を発した。


「公爵……家の、侍女に……頼まれました」


 総会場は、いっそうのどよめきが起こった。そして、この場にいるはずの公爵がいないことも、貴族らの口をさらに活発にさせる。


『なんと、公爵家が?』

『では、この死斑病の原因は公爵家に?』

『毒は何のためか?』

『待て、公爵家の侍女とは……もしやお妃様の?』

『いや、公爵家には王弟様もご在所されてるぞ』

『その毒は、王城で使われる予定だったのか?』

『……では、王様が狙われている?!』


 貴族の到達した答えは予想通りであった。


「もしや、王様にお妃を使って毒を盛ろうと画策されたのか?!」


 一際大きな声が総会場内に流れた。


「なるほど、面白い発想であるな。では、本人に訊こうではないか? 公爵と11番目の妃をこれへ喚べ」


 公爵とサブリナが入ってきた。貴族らの視線が鋭い。毅然と立たねばならぬのに、サブリナは身を縮こませてうつむいている。公爵は、サブリナとは違い威厳然とした佇まいで王マクロンと対峙した。その視線がちらりとフェリアに移る。フェリアは、扇子を開き視線を遮った。フェリアとマクロンの企てを見破られぬためである。


「次の間で聞こえていただろう。さて、訊こうか。毒の依頼は公爵か?」


 公爵は口を開けない。いや、この場に来てもなお迷っている。サブリナを見捨てるか、王弟に罪をかぶってもらうか。しかし、どちらでも公爵家は廃されよう。


「なるほど、口を開けぬか。では、11番目の元妃に訊こうではないか」


 マクロンはうつむくサブリナを射抜いた。


「公爵家の侍女の依頼と、先ほど聞いた。王城からの裏の依頼であると。つまり、妃の侍女である。その侍女がまさか誰の命令もなく毒の依頼を出すわけがない。11番目の元妃よ、誰の命令だ?」


 サブリナの体が跳ねた。王マクロンの問いは、サブリナにとって剣であろう。加えて貴族らにさらし出された今の立場は、吊し上げのようだ。また、父である公爵はサブリナを助けることが難しい。サブリナはガタガタと震えだした。

次話明日更新予定です。

夏休みに入ったため、更新時間がずれます。

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