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31番目の妃*37

 ガロンの報告を聞いたマクロンとビンズは、すぐに行動する。いち早くフェリア邸へと足を運んだ。


 あの毒のお茶会の内情は知っている。誰が毒を調達したかもだ。荒事の後の毒のお茶会。フェリアの機転で全て事は内密におさまっていたが、死斑病の原因が毒の精製であったのなら、おさめておくわけにはいかない。公にせねばならない。


 マクロンとビンズは険しい顔で足を進めた。公爵家をどのように処遇するか、事は妃辞退でおさめられないだろう。死斑病の原因が明らかになり、それは各国のみならず民にも伝えられる。そのとき、ダナンでそれを行ったのは誰だという声が出よう。さらには、森林火災の原因追及へも話は進むのだ。それはダナンに止まらず、死斑病が今まで広まった地域にも及ぶ。誰が毒を作ったか。各国が犯人捜しと、犠牲者の有無も調査されよう。その時に発覚する事実に激震が走るかもしれない。マクロンがそう考えを繰り広げる背後で、ビンズもまた同じように考えているのか、こめかみを押さえていた。




***


 フェリアは突如訪れたマクロンにビックリするも、その表情の険しさに一瞬で身構える。それは、重臣や長老、騎士らも同じであった。


「フェリア、少しばかり良いか?」


 本来、31日ではない日に王が邸に来ることはできないが、事の重大性はマクロンとビンズからうかがわれ、長老らはしきたりを口にせずフェリアを促した。


「少しばかり二人で話をする。死斑病の原因についてだ。立会人はビンズとガロンである。良いか?」


 長老らに、マクロンは問うたのだ。もちろん、長老らは快諾した。四人がフェリア邸に入る。邪魔せぬように、担当騎士以外はフェリア邸を退いた。行き先は仕事場である。王の様子から今後起こりうる何かに備えるために、現状の仕事にとりかかるのだ。穀潰しの貴族らは、自邸に引きこもっている。だからこそ、今王城で働いている者らは、王の信頼する者らである。王マクロンは、女の園には疎かったが、自身の磐石な足場はできているのだ。これこそマクロンが、隣国の妃や傀儡妃を必要としない体制であった。




「フェリア、『紫色の小瓶』を出してくれ」


 ガロンは邸に入るや否や、すぐにフェリアに言った。毒は、死斑病を発症することはないが、ガロンは大事な妹フェリアがそれを持っている危険性を避けたかったのだ。死斑病より怖い死をもたらす毒であるからだ。


 ガロンがなぜ『紫色の小瓶』を知っているのかと、フェリアは思った。それが視線に現れ、フェリアはちらりとマクロンを見た。マクロンは頷く。マクロンもガロンの言葉に同意だと頷いたのだからと、フェリアは野営箱からそれを取り出した。それをテーブルに置いた。


 それから、ガロンによって死斑病の原因が明かされた。次に、ビンズからこの死斑病の原因が各国に伝えられることを告げられる。内密にしてきた毒が公になると。そして、マクロンの番だ。マクロンは、フェリアを真っ直ぐに見つけて言った。


「公爵家には、我が弟が在籍している」


 それだけで、フェリアは事の重大性を瞬時に理解した。公になれば、サブリナが毒によってフェリアを亡きものにしようとしたことは曲解され、サブリナが王弟のために王を毒殺しようとしたことにされるだろう。王弟を王にするために。公爵家を後見とする王弟の反逆であると。


「反逆罪ですか?」


 フェリアの頭の回転の早さにビンズは脱帽した。『誰が毒を作るよう命じたか』それはサブリナであっても、公爵家の意とされる。公爵家に在籍している王弟とされる。そう言わずしてフェリアは理解したからだ。


「自邸に引きこもっている貴族らは、一気に喚くだろう。死斑病発生時において働きもしない自身の行いをうやむやにするには、いい餌になる。全ての悪は我が弟だと喚けばいいのだからな。それを断罪し、我によくやったと認めさせれば、愚者どもの立場は安泰だ」


 マクロンは苦々しく吐き捨てた。静かな時が流れる。どうこの局面を乗り切るかと、皆が頭を働かせた。


「マクロン様、私の妃選びの試験は合格でしょうか? 『毒のお茶会のさばき方』ですよね」


 フェリアの発言の意図にマクロンは素早く気づき、ニマリと笑った。まだビンズもガロンも答えに達していない。


「合格だ」


 マクロンは立ち上がる。フェリアも続いた。慌ててビンズとガロンも立ち上がった。


「王妃たるもの、後宮の洗礼たるミミズ箱から、荒事、果ては毒のお茶会まで、一人で処理できねば我は認めぬ。『本物を用意しろ』と我が言ったのだ」


「ええ、マクロン様。女官長の嫌がらせから、侯爵家の横暴、最後に公爵家からの最終試験、マクロン様からの全ての試練を私は合格したのですね」


 マクロンとフェリアの会話によって、ビンズもガロンも答えに達する。


「王様、私は先に根回しにまわります」


 ビンズはすぐ行動に移った。先にフェリア邸を後にした重臣や長老らに告げるためだ。


「王様、私は男らに伝えてきましょう」


 ガロンもまた動いた。


 舞台は、緊急貴族総会へと移る……




***


 死斑病の終息宣言が発生から三週間後に出された。引きこもり貴族らは、王城へと参内しマクロンに挨拶をする。何の役にも立たなかったくせに、貴族らは口々に言うのは『町で民に安心するように言い回っていたら、王城へ来ることもままならず、民と共に戦っていました』とのことらしい。なんと面の皮が厚いことかと、マクロンは言い訳がましい口上を聞きながら、内心毒づいていた。


「王様、カロディアのみダダの薬草を独占しているのは由々しき問題です。どうか、王様のお力で僻地の領主から貴重な薬草を納めるようご命令くださいませ」


 あろうことか、カロディアの尽力で死斑病を抑えたにも関わらず、貴族らはそこをついてきた。どの口が言っているのだ? と聞き返したいほどだ。


「会議にかける」


 マクロンはどの貴族の上奏も、ただひと言そう答え続けた。


 そして、発生から四週間もすれば、王城はいつものように、役立たずな貴族らも仕事をするため揃うようになった。


 そのタイミングでマクロンは死斑病の原因を公にした。マクロンが明かしたのは、死斑病の原因だけだ。あえてその原因たる毒が誰の命令で作られたのかは、発表していない。その毒がどう使われたかもだ。よって、想像通り、貴族らは犯人捜しに躍起になる。毒を作るために森に火が放たれたのか、毒はどこに誰に使われたのか、毒は誰の命令で作られたのかと、王マクロンに捜査徹底を進言し、自らも手伝うと名乗り出る。自分を売り込む格好の餌に貴族らは群がった。発病者を吊し上げること、その解明に自分がと手をあげた。


 事は予定通りに進む。


「緊急貴族総会を開く! よって、全ての貴族は王城に参内せよ!」


 マクロンは発したのだった。




***


 総会の次の間には、公爵とサブリナ、女官長と侍女、最初に発病した男らが集められた。


 この面々の意味することを、皆理解している。顔色は皆蒼白だ。特に、公爵は体全身に力を入れて立っている。サブリナが行ったことは聞いている。それがもたらす危険性は、十分に理解している。言わねばならぬのは、『王弟の関与はない』ただそれだけだ。王に聞き入れてもらわねばと、充血した目を瞬きもせず総会の扉に向けていた。


 サブリナに至っては、どこにあの威厳が消えたのかというほど、身を小さく縮ませている。死斑病の原因は、サブリナが依頼した毒の精製である。知ったときの衝撃は腰を抜かすほどだった。だが、さらにサブリナの身を小さくさせたのは、父である公爵から告げられたことだ。


『王弟様の後見である我が公爵家の妃候補の娘が、毒を手にして何を狙ったか』


 サブリナは、一瞬何を言われたか理解しなかった。ただ、あの田舎者の妃と、気位の高い姫妃を陥れようと画策しただけである。まさか、死斑病の原因を作るなど思ってもいないし、毒はフェリアの手の内にある。毒は使われていないのだ。何が問題なのかと、首を捻った。


『嫉妬心にかられ、まさかここまで頭の回転が落ちるとはな。あの毒の依頼はお前だ。お前の依頼は公爵家の依頼だ。公爵家の依頼は……王弟様の依頼とされよう。妃候補のお前が王弟様のためその毒をどう使うと邪推される? 死斑病の原因が毒でなければ、公にはならなかったであろうが、王様も彼の妃様もふせていたからな。だから、妃を辞退し頭を下げたのだ。だが、公になった。大半の貴族らはこぞって毒の依頼者を吊し上げるだろう。王様は、全てを公にするはずだ』


 サブリナはその答えにたどり着き、父である公爵に泣きすがった。私を見捨てないでくださいと。サブリナだけに責を取らせることしか逃げ道はない。正直に全てを告白し、公爵家も王弟も関与していないと言う以外に公爵家は助からない。公爵は、泣きすがるサブリナを無言で見つめるだけであった。


 そして、今日この場に呼ばれ全てを理解する。役者は揃っているのだから。断罪総会のはじまりであろうと。

次話明日更新予定です。

残り話数は、おまけを入れて5話となります。

完結までお楽しみくださいませ。

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