05 転移
まだオレはましなほうか。
そう言われれば確かにそうだけどな、確かに髪はそうだろうよ。
だがよ、こんな真っ赤な瞳とか、まるで吸血鬼だぞ。
そりゃあ、他の奴らはそれこそ、ファンタジー小説で言うところの獣人そのものだけどな。
魔力の多い奴は人間の形を保ってはいるが、瞳が赤くなるらしいな。
まあ、オレみたいな真っ赤な奴は居ないが、獣耳が無いのはオレだけだ。
環境に適応と言われれば確かにそうだけど、たった50年での変化ではあり得ないらしい。
だから金持ち連中も戻りたくないんだろう。
だからそいつらの利権を、残留の奴らが山分けして現在に至るだ。
後に産まれたオレ達は、結局はそいつらの下僕と何も変わらん。
金持ちが消えたとしても、残った奴らが金持ちになるだけで、途中参加のオレ達は関係ないって話さ。
何でも途中からと言うのは損なものだが、さすがに産まれだけはどうにも出来ない。
おっと、ここだった。
「カウンセラーお願いします」
「またですか」
「どうにも安定しないようで」
「分かりました」
確かに未来に希望は無いが、妄想の世界を現実と取り違えるってのは困る。
とっとときちんと分離させないと……そう思って健康マシンに横たわる。
このまま夢を見れば良いだけなんだが……
(そんなの魔法じゃないよ……ああ、そうだな……僕が王様でいいね……ああ、そうだな)
なんか変な夢を見た。
オレが魔皇子?
ふうっ、困ったもんだ。
カウンセラーと面談するも、調整は巧くいってはいるらしい。
ただ、頑固な妄想と言われても困るんだが、それが中々消えないとか。
時間を掛けて何とかするしかないか……参ったな。
しかし、何だな。
消えない消えないと言われてもう長いが……?
あれ、オレって何年前から仕事してたっけ?
あそこに住んでもう……かれこれ……10年? いや、そんなはずは。
オレの見た目、だって、15才の、成人の、あれ、オレ、儀式去年もやってないか?
(調整……干渉波……調整)
また変な夢を見た。
毎年成人の儀式とか、どんな夢だよ。
去年は14才で、来年は成人って思っただろ。
全く、困った妄想だな。
今朝もマシンに手を当てて、魔力を流し込んで家に帰る。
変わらぬ朝食の後は……
(やれやれ、何年やらすんだ、こんな事。こっちが黙っていれば好き勝手に調整しまくりやがって。表層意識を据えてなかったら、ああやって操って人形の如しってか、オレがやれないと思うなよ。あの時、食らった拘束も、やっとの事で解析が終わったぜ。しかしまぁ、魂の力、それに精神の力、後は身体の力、その合成した力で何とかやれそうな感じになって、今ようやく確立したぜ。これでもう、あれを食らっても対策がやれる。それに、その力を使えば、魔法だと思っていた力も遥かにパワーアップするじゃねぇか。ありゃ魔法じゃねぇな、魔法のような効果のある、何か別の力だろ。まあいい、これからはこの混ぜた力で行使してやるさ。そっちが勝手にやったんだ、こっちも勝手にやるだけさ。さて、どの世界に行きますかね、くっくっくっ)
【転移】
(な、存在が消えた? 一体、何処に? )
やっぱあれだろ。
目立つのが拙いんだろうな。
だからこうして地味に地味に……くそ、何でバレる。
くそ、対抗策は……くそ、何てパワーだよ。
混ぜた力が尽き……表層……退避……まだ足りなかったか……無念。
また変な夢を見た。
今度は魔法? 勘弁してくれよ、全くよ。
(くっくっくっ、混合に辿り付くか、中々に有望だな。だがまだまだ甘いぜ……しかし、既に管理クラスか、将来が楽しみな奴だ)