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04 配置

  

 

(超越者の扱いもろくに出来んとは、嘆かわしい。しかもオレのせいだと?……仕方が無いのですよ。そういう者達しか居ないのですから……情けねぇな)







暗い空から一条の光が差す。

そしてそういう光はあちこちで発生し、分厚い雲はいくらかその圧力を減らしたようだった。

それがこの星の春の到来……


水の惑星と呼ばれていたこの星は、今では氷の惑星と呼ばれている。

かつては、そう、かつては水の豊かな惑星として、リゾート地にもなっていた。

それが僅か50年で極寒の地へと変わったのだ。


それはある天体ショーから始まった。

巨大な隕石が恒星と衝突するという、第三者からすれば壮大な天体ショー。

ただし、その恒星を持つ星系の住民にとって、危機以外の何物でもなかった。


リゾート客と金持ち連中が逃げ出したその星では、残された者達がじっとそれを見つめていた。

学者の話ではこの惑星も飲み込まれてしまうだろうと……

しかし、そうはならなかった。

何が原因だったのかは今も分かってないが、その隕石は粉砕したのだ。


だがそれで何が起きたか。


粉砕した粉が惑星の周囲を取り囲み、分厚い雲を形成してしまったのだ。

結果、長い長い……いや、厳寒の惑星になってしまったのだ。

分厚い雲は電波も貫通せず、連絡は途絶した。

つまり、他星系との連絡も遮断されたのだ。

逃げ出した者達が戻ろうにも、周囲の粉砕元隕石の残骸が邪魔をする。


どのみち連絡も取れないからと、爆弾で取り払おうという計画になった。

その結果、爆弾は粉砕隕石の破片に反応し、かなり手前で爆発した。

だがそれで短いなりにも春が来るようになったのだから、惑星にとっては悪い話ではなかった。

1年周期で光の通る隙間が僅かに出来るようになった事で、他星系との連絡が回復したからだ。


しかし、リゾート客や金持ち連中は戻らなかった。


かつてのリゾート地は長い冬と短い春を持つ、変わった惑星になりはした。

だがそれぐらいならまだ、天体ショーの結果を見に来るぐらいはしそうなもの。

実際、調査団は到来したが、早々に逃げて帰ったのだ。

それはその星の存在達が、すっかり様変わりしていたからだ。

僅か50年の事なのに、彼らはもはや人類とは呼べない存在に変化していたからだ。


たった50年であり得ない変化。


もし、自分達も戻れば僅かの年月でああなるかも知れないと、彼らは利権を手放した。

そしてその星は彼らの生態を調べる研究星として、長く星団国家の所有物となっていたのだった。


     ☆


まぶたの外が明るい。

いや、まぶたなど、意識するのは久しぶりな気がする。

探査が可能になってからと……え、使えない?


う……


何が使えないって?

やれやれ、また変な夢を見たようだな。

どうにも最近、変な夢ばかり見て困る。

またカウンセラーの世話にならんといかんのか。


さて、今日も大地に魔力の恵みを……ってか。

まるでファンタジー小説のようだな。

この科学の時代に魔力など……しかしこの星ではそういう風になっちまったんだから仕方がないってか。

この星が特異な星になってから生まれたオレ達には、もはや当たり前の環境だけどな。

それでも外の世界にとっては夢と空想のファンタジーな星らしい。


ただ、この世界で50年居たとしても、オレ達みたいにはならないらしい。

だからそのうちまた金持ち連中が観光に来れば、もっとこの星も豊かになるんだろうけどな。


「おい、起きたか、ハロン、とっとと魔力撒いてくれ」

「ああ、もうじき行く」


魔力伝播装置に両手を付いて、魔力を大地に注ぎこむ。

オレは生まれつき、どういう訳だか魔力がやたら多いらしい。

だから救世主などと言われて……ちっとも嬉しくないけどな。

毎日毎日、こうして大地に魔力を注ぐ、言わば畑の番人だ。

その代わり、食い物には不自由しない。

通常、何ヶ月も掛かる麦の育成が、僅か数日ってのがこの農法の利点。

その燃料とも言える魔力の注ぎ手には、食料は優先的に配られる。

そんな訳で、朝飯前の魔力注ぎの後は、優雅な朝食が待っていると。


「今朝は普通にお召し上がりになりますか」

「ああ、頼む」


屋敷と言うべきか、でかいカプセルと言うべきか。

オレの専用の住まいには専属のメイドが居る。

こいつも選抜されてここで働いているはずであり、色恋とは無縁なのも当然の話だ。

だからオレにそんな相手は……いや、居ない訳じゃないんだ。

ただ、政府が管理してんだよな。

魔力の多い奴は国の管理下にあって、勝手に結婚はおろか、性交も禁止ってよ。

全く、どんな物にも利権は発生するんだなとつくづく思うよ。

確かに飯は食い放題で給料も多いが、星に縛られた人生に何の意味がある。


シャワーを浴びて朝食を食べる。


どうにも朝から肉と言うのも何だけど、どうにも肉食になってしまったようだ。

なった?はぁぁ、どうにもいかんな。

妄想と現実の区別が付かなくなったら終わりだぞ。

オレは元から肉食じゃないか。


朝食の串肉、2串も食べると満腹になる。

後はエールを1杯、少々のサラダ、それで終わりだ。

朝はそれだけだが、串肉が美味いから気に入っている。

さて、牧場にも魔力を注がないとな。

牧場と言ってもやはりカプセルの中だ。

今は確かに春だが、もうじきまた長い冬が来る。

この星の魔力農法とでも呼ぶべき方法ならば、厳寒の中でも作物は育つ。

もちろん、カプセルの中での育成だけど。

ただ、僅かでも日が当たると栄養価が増すらしく、短い春の日は毎日毎日魔力を注ぐ。

また冬になれば毎週ぐらいになるんだろうけどな。


朝飯前に畑、食ったら牧場、それで昼間でのんびりして、昼食後にまた畑、そして牧場。

そうして1日が終わって夕食、そして眠ると。

毎日毎日その繰り返しの人生を強いられて、それで救世主と呼ばれて嬉しいかっての。

好きな相手も作れず、性交すら管理されて、まるで機械のように毎日毎日……

オレは一体何時までこんな事をしていれば良いのか。


誰か教えてくれよ……



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