03 商売
城に直接取引する事にした。
これで取りっぱぐれる事はない。
例の第3皇子のほうにも流れるようにして、皆は当たり前のように高い串肉を堪能する。
やはりどうにも香辛料が珍しいようで、感情的には満足をして、金額のところで誤魔化しているだけだ。
今度は毎日2万本で金貨千枚袋4袋の契約。
しかも、お城の中での取引になっている。
サムには金貨千枚袋を1つ渡して、商売の儲けと思わせてある。
後は好きにしろ。
城の中の厨房の奥、そこに金貨の袋を入れると串肉が出る。
まあ、オレが潜んでいるんだけどね。
お盆のような容器に金貨袋を入れて奥に入れると、金貨袋の変わりに串肉が乗っているだけだ。
1食1万本なので、朝2袋、夜2袋と交換に来る。
どうやら串肉の味は城内全ての者に好評のようで、価格以外は納得している。
そして価格は暗示で誤魔化していると。
皆は朝から串肉を食べ、余ると騎士団のほうに流れていく。
なので1日2万本の串肉は、城内外でキレイに食べ尽くされる事になる。
そして夜の王族の料理は、串肉の肉を使った料理となり、自然に消費されていった。
オレの事は在庫と認識されており、発覚しても捕縛には来ない。
ただ、金の流れが止まるだけだ。
今回はどれぐらいやれるかと思っていたら、やはり200日で発覚した。
そうなれば城から消えるだけだ。
相当に資金が目減りしたようだが、戦争に消えると思えば安いものだろう。
減らないねぇ……
南の国での商いはこれまでと、今度は西の国に行ってみる。
どうやら隷属勇者達は、やはりレベリングの毎日のようで、まだまだレベルも低い様子。
やっぱりいきなりは無理だったようだ。
まあ、知った事ではないがな。
それにしても、食事がどうにも貧しいと思ったら、城から資金が消えたせいだった。
可哀想なので串肉の差し入れをしておく。
香ばしくて美味い串肉に対し、食欲が大いに刺激されたのか、必死で食っている。
軽く満腹情報を消してやると、何串も食べている様子。
男も女も腹を膨らませて、無理矢理に口に詰め込んで。
涙を流して必死に食っている。
隷属勇者とその一行は、全員が腹をパンパンにして、口に肉を詰め込んだまま動かない。
生きてはいるようだけど、当分動けないだろう。
まあ、暗示は解いてやるからな。
(うう、どうしてこんなに……苦しい……うっ……もったいねぇ……ああ、トイレに行きたいのに動けない)
☆
総勢50人で300串、1人6本か、知れてるな。
もっとも、1人12キロの肉を食った計算になるから、大食いには違いないが。
西の国でも王宮に暗示で毎日3万本の串肉を売りつける。
毎日金貨千枚袋を6袋で交換になる取引。
宝物庫の金貨袋が毎日減るが、暗示で誤魔化すから気付かない。
今度は監査も暗示で誤魔化しておいた。
217日で金貨袋が尽き、取引は終わりになる。
たくさん貯めておいたようだけど、戦争に使うなら無駄だから、串肉で食っちまえという訳だ。
651万本で66枠減った、やれやれ。
さあ、次は東の国だ。
☆
結局、北の国でも200日余り、毎日5万本の消費で1千万本の売り上げ。
きな臭い国の順にやったんだけど、そろそろ戦争の準備は整ったかねぇ。
金以外整っても戦争にはなるまいが、これでどういう事になるか……
そんなオレは中の国でのんびりと屋台をやっていたりする。
実はこの中の国、周囲を断崖絶壁に囲まれた天然の要害。
おいそれと攻められないこの国の特産、それを得ようと4つの国は交易をする。
実はこの国、中央にでかい木があり、その果実が凄まじく美味だとか。
まさに天上の果実と呼ばれ、数ヶ月は腐らないという。
なので王の口に入る事になり、1口ですっかり味の虜になったとか。
1個金貨100枚と言われても欲しいようで、毎年各国に数個ずつ出され、それと交換で小麦やら何やらを手に入れているらしい。
でもな、そんなに美味いとは思えないその果実。
確かに珍しい味ではあるようだけど、そんなに美味いかねぇ。
そりゃ確かに数ヶ月は腐らないだろうよ。
てかそれ、果実じゃないだろ。
そいつは普通、チョコレートと呼ばれるものだ。
木の中にはおっさんみたいなのが居て、時々姿が消えるとなれば、向こうで買物をしているんだろう。
やれやれ、異世界交易の世界なのか?
ううむ、勇者召喚の話かと思えば、異世界交易の話なのか。
どうにもよく分からない世界のようだけど、チョコレートなら要らんぞ。
もっと珍しい果実かと思ったのに、残念だな……
ここでは肉が貴重品のようで、巷の相場で見ると、串肉なら銀貨5枚で売れそうだ。
香辛料も貴重品のようで、銀貨5枚なら安いぐらいかな?
「香辛料で焼いた串肉~銀貨5枚~」
香辛料と肉で反応し、そこらの商人の注意を引く。
串からバラけさせ、更に細切れにした試食をそこらに回す。
試しに食う奴は皆、目の色が変わる訳で。
「こりゃ美味い。香辛料もバッチリ効いているし、食った事もねぇ肉だが、これはなんて肉だ」
「おい、これ、銀貨5枚と言ったな。どれだけある?」
「いくらでもありますよ」
「よし、100、いや、200本だ」
「こっちも200本だ」
暗示全開、買い尽くせ~
ああ、もう串肉屋、やれなくなっちまったな。
まさかあんなに一気に売れるとは。
金貨100枚の客が数十人の後、千枚袋持参の奴が数十人の後、中央の木の番人から大量購入の申し出が……
毎日、2000本で1年間分の前払いだと、金貨千枚袋を360袋置いて帰りやがった。
まあそれは毎日取りに来るらしいから任せておこうか。
ああ、暇だなぁ……
☆
朝、串肉2000本渡した後、通りをぶらぶらと冷やかす日々。
目新しい品も特に無く、適当に食って寝るだけの……太りそうな毎日。
まあ、別に太りはしないが。
あんまり暇なので魔導具製作に気が向いて、色々な開発を始める。
小魔石が大量にあるから、それを使えば良いだけだ。
1年で7枠ぐらい減り、最初のページも半分ぐらいは減った感じ。
それでもまだまだ串肉は大量にある訳で……
金貨千枚の袋が枠の半分ぐらいになっている。
買物をしないと減らないが、欲しいものが無いというのが何とも言えん。
それにしてもここ、間借りしているんだけど、毎日串肉1本が家賃だ。
月に銀貨300枚計算だから、中々にのんびりした住まいだ。
高級宿感覚で借りて、風呂もあるからのんびりしているんだけど、このままで良いのかねぇ。
これからどうなるのかなんて知らないけど、誘致した奴はどんなつもりでオレを……
気が向いたら魔導具作り、また気が向いたら串肉売りと、のんびりと数年が過ぎた。
下界ではすっかり隷属勇者が暴れ回り、東の国の版図が広がっている。
だけど中の国はそんな事は関係無く、のんびりまったりと過ごしている。
そんなのんびりな日も遂に終わる時が来た。
東の国が中の国に宣戦布告をしたのだ。
攻められるのが嫌なら、天上の果実を供出せよってセコイよな。
唯一の交易品をタダで寄こせの申し出に、さすがに断る王宮。
そして隷属勇者3名は、中の国の外れに飛来した。
やあ、飛べるのか、成程な。
中々の魔力のようだけど、それ、貰って良いよな。
精神体となって近付き、3人から魔力を全て貰っておいた。
途端に立ちくらみのようにふらつく勇者達に対し、中の国の精鋭達が襲い掛かる。
マナ切れの隷属勇者達は、類稀なる力で翻弄しようとしているが、肝心の魔力が無いからジリ貧となる。
散々打ち据えられて捕らえられ、投獄される事になる。
魔封檻というのは、中では魔法が使えない。
まあ、それは魔力を吸う檻なんだけど……
売った魔封檻、使ってくれているようで、それは何よりだ。
魔法の使える盗賊対策で、金貨1500枚で売れた魔導具。
原価は聞くな、安いから。
檻の床に【枯渇】の魔法を設置してあるだけの檻だ。
中に入った者は、その身の魔力を放出してしまうだけだ。
オレは精神体でそこに行き、飛散した魔力を吸収して楽しむと。
檻の番人に暗示で成り代わり、毎日魔力を吸収する。
隷属の首輪がある限り、うっかり出す訳にもいかない。
試しに【風刃】で首輪を斬ってみた。
抵抗無く斬れたのは良いんだけど、防護策無しなのかよ。
気付いた勇者達は、出してくれと喧しい。
よし、暗示で中の国に忠誠を誓わそうかね。
暗示なら首輪なんて使わなくても問題無い。
頭の中に深く深く浸透し、当たり前に感じるようになるだけだ。
人はそれを洗脳と言う。
さあ、中の国の為に、下界の者達を殺して殺して殺しまくれ。
一同は頷いたので、檻から転送しておく。
そして逃げたぞ~……
さて、檻の番人の役は返すから、後はよろしくな。
そいつが責任を取らされたかどうかは、オレの知るところにはない。
そんな訳でまた、串肉売りと魔導具作りの日々となる。
その頃、下界ではジェノサイドが起こっていた。
手当たり次第に殺しまくる勇者達。
善人も女子供も見境なく、手を真っ赤に染める勇者達。
いやはや、ちょっと調整間違えたかな。
軽くモンスターと思わせる暗示なんだけど。
仕方ない。暗示を解いてあっちの世界に転送してやろうな。
戻った彼らは真っ赤な手と身体にとまどい、周囲の住民に通報される。
記憶に無いとは言いつつも、全身血みどろの彼らを解放する訳にもいかず……
しかも、彼らはまた別の世界からの誘致だったらしく、戸籍の無い彼らの運命やいかに。
毎日調子良く、魔導具作りと散歩をやっていると、急に身体が動かなくなる。
何かの干渉と魔反を試みるも、どうにも種類が違うような……
解析……解析……解析……