02 召喚
好き勝手に動いています。
おいおい、これって勇者転生物だったのかよ。
仕方が無い、オレが行ってやるからお前はここで平穏に暮らせ。
じゃあな……
(ううむ、譲り受けたのは良いが、何とも変な事になったのぅ……じゃが、確かに存在は送ったのじゃからして、あやつはあのままでも良かろうの)
さて、身体をどうするかだが、あの身体、使っても良いのかねぇ。
《よく参られた……ここは、何処ですか……おぬし、勇者召喚になったのは分かっておるかの……足元の光、あれが……うむ、それでの、希望の特典を付けてやろうの。さて、何が良いかの……保留で良いですか……何じゃと……現地で不足を感じた時に、必要で足されるようにしたいです……ううむ、そういうのはさすがにの……なら、完全隠蔽能力とかありますか……それで良いのじゃな……はい、それでお願いします……うむ、なればそれを授けようの》
(変わっておるの。普通なればアイテムボックスやら、魔法の才能やらを求めるものじゃが、隠蔽を望むとはの……まあ良い、こやつはあくまでも脇役じゃ)
さて、誘致は良いが、精神体で何も言わなかったな。
このままだと人間には見えんが、何も言わなかったって事は問題無いんだろう。
ふむ、他にも居るのか、成程な。
3人勇者におまけが1人の構図か。
だが、おまけは精神体だから姿は見えないと。
だからあたかもおまけなしで話が進むか。
それは良いんだが、どいつもこいつも真っ赤なオーラってどうなってんだ、こりゃ。
おいおい、その首輪、嵌めるな、おい。
やれやれ、守護の首輪とか、素直に信じて隷属化されてやんの。
隷属勇者の出来上がりは良いが、戦争の駒にするのが趣旨なのか。
どうにも変な事になっちまったな。
「ふっふっふっ、今回の勇者も安易じゃったの」
「はっ、これで世界は我らのものですな」
「よし、まずは予定通り、南の国からじゃ」
「ははっ……おい、勇者共、とっとと準備をしろ」
「「分かりました」」
いやいや、中々に奴隷やってんな。
それは良いが、レベル1じゃ戦いにならんと思うぞ。
それにしても、完全隠蔽能力は良いが、どの程度の効果があるものかねぇ。
とりあえずレベル1で一般人のステータスにしておくか。
おっと、外で身体に入らないとな。
そのままふよふよと移動するのは良いが、このままと言うのも何だな。
勝手に呼び付けた訳だし、意趣返しをしても構わんよな。
意趣返しと言えば宝物庫。
中のアイテムは全部、ボックスの中に場所替えだ。
資金も大量にあるようだし、全部もらっとこうか。
まあ、これで金が足りなくなって民に無理を言うようなら、民も爆発するかも知れんし。
別にどうでも良いが、そういうストーリーも面白い。
レジスタンスに資金提供とか、そういう使い道もあるかも知れんと。
ほお、金貨千枚の袋が、なんとまあ大量にあるんだな。
戦争の為に集めたのだとは思うが、680袋もあったぞ。
銀貨もいただくとして、銅貨はこの際、放置で良いか。
後は武器の類も色々もらっておくから、後は好きにするといい。
城外で……そして身体に入る。
いやぁ、久しぶりだな、この身体も。
隠蔽必須ってのが何とも言えんが、やはり自分の身体に入ると違うな。
城下で色々探るも、やはり魔王の話は一切聞かない。
きな臭いだの、戦争がどうのこうの、そういう話ばかりだ。
大手の商会で暗示全開、串肉1本銀貨2枚の取引。
1本食わせると絶賛したので、その味だけしか気にしないように暗示。
価格を気にしないから儲けになると、それしか思わず大量に売れた。
金貨35500枚で串肉を買うと言われた。
17万7500本納品……焼いてある串肉だから、とっとと食えよ。
さてもうこの国にも用は無い。
飛翔魔法で隣の国
とりあえず、串肉屋でもするか、クククッ。
とんでもない量だからな、減らさないとボックスの容量がヤバいんだよな。
さすがに数百年の集大成というところか。
「いらっしゃい、串肉はいかが」
手続きを終えたらすぐに始められる屋台。
1本銀貨2枚と言うのは、換算だと2000円相当らしいな。
握りこぶしの肉が5つのうえ、香辛料で焼いているんだ。
1塊400円と考えれば、それは決して高くない。
「おいおい、銀貨2枚は高くねぇか」
「この量で高いと言われましても」
「いや、問題は味だろう」
「それならば尚更、見るだけで判断されましても」
「ほお、言ったな。よし、1本買おうか」
「毎度あり」
(エルビス様、そのようなくず肉など・・むおっ・・城での食事とは比べ物になりませぬ・・何を言うか、これ程の味、城でも食した事は無いわ・・何ですと)
お付きの人も1本買い、揃って黙々と食っている。
(これは驚きました……そうであろ……はい、まさかここまで味だとは……城の料理もこれぐらい美味ければな……そうですな……よし、決めたぞ。こやつをオレの専属料理人にする……これは栄達ですな、さぞかし喜ぶ事でござりましょう……うむ、そうであろう)
いや、そんな事、無いから。
身代わり君、後はよろしく。
隣の屋台のおっさんに意識誘導し、おっさんはご機嫌で誘致されていった。
あんなヤバい国には居られないと、とっとと他国で始めた串肉屋。
僅か2本で辞める訳にはいかないんだよ、悪いな若様。
なんせ99999本を1枠として、400枠が1ページ、それが32ページもあるんだからよ、とっとと処分しないとボックスの邪魔だからな。
あの頃はもう、在庫の肉の処分の事しか頭になかったけど、まだあるんだよ魔物肉。
数百年の集大成の処分には、やはり数百年掛かるってのが証明された。
なのであらかた串肉になりはしたものの、その串肉の量が半端無いと。
あの世界でも色々な物資を詰め込んだせいで、串肉の枠が欲しくなったんだ。
だから10ページは減らしたいと思ってるから、誘致をされる予定は無いからな。
「さあ、串肉はいかが。美味なる串肉、香辛料使った美味しい串肉」
お、香辛料で反応したか、よしよし、まあ食ってみろ。
絶賛、絶賛、また絶賛。
客が引っ切り無しにやって来る。
まあもう焼いてある肉だから、網の上に乗せたらそのまま売っても問題無い。
銀貨2枚で飛ぶように売れていく串肉は、出す端から手が伸びる。
銅貨を小鉢に放り込んで、串肉を掴む手は良いが、そいつはちょいとな。
「おっと、銅貨でこいつは止めて欲しいな」
「サム、てめぇ、またやってんのか」
「おいおい、オレは銀貨を入れたぜ」
「お前の銀貨ってのは黒いのか。ほれ、そいつがそうだろ」
「言い掛かりだ」
おっと、後ろのガキにはアストラルバインド。精神拘束魔法で動けないと。
自分を目立たせて子分に窃盗させようってのが実にセコイね。
まあもう食っちまったようだから仕方が無いが、次は無いと思えよ。
痺れたように動かないガキを摘み、魔法を解いて投げ付ける。
「連係プレイも良いが、泥棒のそれは感心しない。次は無いぞ」
「へっ、意外とやるじゃねぇか。おい、帰るぞ」
「失敗しちゃったね」
「ほれ、串肉だ」
やれやれ、貧民対策をしてない国か、この国も大した事は無さそうだ。
隣の国は勇者召喚で隷属化、こっちの国は貧民を放置ってか。
これで魔王が居なければとんだ人騒がせって事になるんだがな。
「串肉~香辛料使った串肉~」
☆
初日、串肉430本売れて銀貨860枚獲得。
偽装カバンを肩に担ぎ、屋台を閉めてまた明日。
そのまま貧民街のあいつらの元に……
「よぉ、串肉が余ったんだが、食わないか」
「施しのつもりか」
「捨てるつもりだ」
「なら、勝手に捨てちまえよ」
一角に桶を並べて串肉をつらつらと20本ずつ5つ。
「捨てたからな」
「な、どっからそんなに……そいつ、拡張カバンかよ」
「やらんぞ」
「へん、要らねぇぜ」
「サム、食べていい?」
「ああ、好きにしろ」
「ねぇ、サム」
「いいんじゃねぇか」
「わーい」
何処に居たのか、小さいのがつらつらとやって来て、串肉を掴んで食い始める。
ふむ、こいつらに供給すれば無くなるか。
どのみち金は要らんが、屋台が面白そうだからやっただけ。
それなら廃屋の一角で毎日供給してやる手もあるか。
そうと決まれば廃屋を物色し、良さそうなヤサを確保。
そこらの奴に暗示で串肉配給を当たり前に認識させる。
そして翌日から串肉を取りに来るサム……でかい容器に50本。
毎日50本なら5年で1枠が消えるか。
やれやれ、こりゃ当分消えねぇぞ。
あれ、商売にしてんのか。
まあなぁ、代わりに売っても別に構わんよ。
香辛料使った料理とか、こんな内陸じゃ滅多に無いだろうから、高く売れるだろ。
精々、儲けて皆に食わせてやるんだな。
(さあさあ、香辛料たっぷりの串肉だぁ、銀貨2枚だぜぇ……おいおい、そいつはアコギだろ・・香辛料がいくらすると思ってんだ……それはそうだがよ……こいつは美味いぜ……そこまで言うなら貸してみろ……銀貨2枚……ほれ……毎度あり~……そのような肉など……ほお、これは美味い……)
お、全部売れたのか。儲けたな……それは良いが、卸先を言うのかよ。
まあ、言わないと殺されそうな雰囲気ってのもあるしな。
「頼もうか」
「何でしょう」
「串肉を所望する」
「銀貨2枚ですが」
「たくさん買うのでな、負けてはくれぬか」
「1本銀貨2枚」
「銀貨1枚にならぬか」
「香辛料抜きで焼けば銀貨1枚」
「うぬぬ、それは痛いの」
「たくさん買えば安くなる」
「おお、それだ」
「1万本だと銀貨19900枚、どうだ、100枚引きだぞ」
「もっと安くなるか」
「10万本だと1000枚引いてやる」
「金貨1000枚引くためには?」
「100万本買えばいい」
「本気で100万本、あると言うのだな」
「先に金だぞ」
「良いだろう。だが、金を出して串肉の無い時、覚悟は良いな」
「良いともさ」
暗示は優秀だねぇ。
すっかり売買勝負になっちまって。
さあ、金貨千枚の袋、199袋持って来い。
代わりに100万本くれてやる。
それで11枠減ってくれるからありがたい。
荷車に布を敷いたようなのがたくさん来る。
金貨袋は全て接収し、串肉をドンドン載せていく。
10枠で99万9999本の串肉。
隣の枠から1本載せて、はい終わりっと。
結局、その若様は串肉100万本を持ち帰った。
それは良いが、焼いてある串肉だから、とっとと食わないと腐るぞ。
どうやら城内や騎士団への差し入れになったようで、総勢数万の者達に食い尽くされたようだ。
おや、余ったのは塩漬けにしてんのか。
まあなぁ、そうすりゃ長持ちするだろうけど、風味は終わるぞ。
串肉は騎士団に好評だったようで、金額の懸念を暗示で消してやると、早速発注してくる。
それから騎士団本部へ売りに行く事になり、毎日1万本の納品をする事になる。
毎日1人2本の串肉……金貨2千枚の税金の無駄遣い。
結局、サム達に50本、騎士団に1万本の納品は毎日続いた。
さすがにこれだけの量ともなると、10日で1枠のいきおいで減っていく。
サムにも追加に串を渡し、順調に枠を削る日々となる。
サムも巷で串肉を売り、その売り上げでチビ達を食わせている様子。
数百の串肉の売り上げは、そのままそっくり収益になるから、今は余裕だろうな。
オレが消えるまでそうやって、楽をしていればいい。
のんびり世界情勢を見学しながら半年余り、200日での売り上げは金貨千枚袋にして400袋
高いようだけど、暗示込みだから平常運転での取引となっている。
金貨千枚袋はボックスの中にあり、今日も串肉をお届けに……終わりか。
監査登場で我に変えるか。
残念、もう串肉売りも終わりだな。
(まさか予算を串肉で食い潰すとはな……参ったな、そんな額になっていたとは……ともかく、そんな贅沢はこれで終わりです……分かりました)
やれやれ、200日で21枠消費か。
若様で11枠、今回で21枠……中々減らないな。
次は何処に暗示で売りつけようか。
半年ぐらいはバレないようだし、クククッ。
そしてまたサムに地味に串肉を渡す日々に戻り、売り先を探す事になる。
見つけた……