第八話:役の意味
「えっ!お前、役持ってねぇの??」
カベルは天と地がひっくり返ったみたいな表情をした。
「ええ・・・。そもそも【役】っていうものは何処でもらえるものなの??」
「決まってるっハート様から貰うんだ!!」
それからゆっくりと説明をしてくれた。
そもそも【役】っていうものは初まりは、この世界が出来たときに限られた人々に与えられたものなんだ。何代か過ぎたころにはその【役】は消えていたけど、赤の国だけは変化しながらもずっとこの制度を扱ってたんだ。
【役】ってのはこの赤の国に奉仕するための・・・うーん、なんだろ、職業っていうか・・・。そういう国に恩返しするために貰った名前みたいなもんなんだよ。住まわせてもらう代わりに仕事をしろって事だな。だから俺は此処で庭師をしてるんだ。
まあ、それも200年位前の話なんだけどな。
うーん、それ以降は・・・魔物を狩るためにそれぞれ【役】にあった武器を与えたんだ。しかも、もともとは赤の国しかなかったこの制度はこの世界の国全土に浸透してきた。どういうことか、わかるか?
シャドウ。あいつ等がいるからだ。
あいつ等は俺達を襲う化け物だ。野放しにしていいもんじゃないから、討伐命令が下されたんだ。
でもシャドウは・・・減るどころか増え続けている。このままでは街にもシャドウが進入してくるかもしれない。そうなったら、他国を巻き込んだ戦争になるかもしんねーんだ。
だからそれぞれの任務を遂行させていくんだ。迫ってきてる、そのときのために。
「・・・あ、悪い!!暗い話はナシだなっ!!」
「え、あ。そうね・・・」
一瞬暗い雰囲気になったが、カベルがその空気を壊してくれた。
“薔薇整えるからリアもみとけよぉ!!”と言って、器用に薔薇を整え始めた彼。キッドを思い出してクスっと笑うとカベルは振り向いて“何がおもしろいんだよー”と笑った。
「ずっと昔の話。キッ―――友達が私の育てていた花を倒した時のことを思い出して。私は別にいいよって言ってるのに、兄さんが凄く怒ってね。そのコのことボコボコにしちゃったの」
「うわぁ・・・兄貴、過激だな」
「ふふっ。確かにそうだね。でね、その子が私に土下座して言うの。“この花は俺が責任もって育てなおすから!!娘さんを俺に下さい!!一生大切に愛しますっ”って。それから、不器用なのに必死になってお花を育て直してる所思い出して・・・」
「・・・なんかソイツ。馬鹿??」
呆れたように目を細めるカベル。その子にちょっと被ったって言ったら怒るかな??
「アリスっ!!」
そういって後ろから飛びつくように抱きつかれた。低くて甘い声。
「キラ・・・??」
「時兎様っ!!?」
「アリスっ!!女王様が此処に住んでいいってお許しを下さいました。」
さっきのクールな彼とは打って変わって子供のようにはしゃぐ青年。顔に熱が集中するのが分かったけど本当の兎のようにピョンピョンと飛び跳ねるキラをそのままに、私は目の前にいるカベルを見て冷静になった。
って言うか、カベルの顔。凄い強張ってる・・・。
「と、時兎様・・・。【アリス】って・・・まさか」
「カベル。」
キラに抱きつかれたままなので私は彼の表情を見ることが出来ない。だけど、冷たい空気が流れたかのように空気が凍り付いたのが分かった。
アリス。
キラは私の事をはっきりとそう呼んでいる。
「アリスって・・・なんですか??」
未だに抱きついているキラにそっと問いかける。聞いちゃいけない気もしたけど、聞かないと分からない。
キラは私を解放して、瞳を閉じた。それから数分黙り込んだが、暫くして心なしか寂しそうな顔で微笑んだ。
「・・・あとで、ご説明いたします。とにかく・・・ハート女王が貴女をお待ちしております。謁見の間へ急ぎましょう。」
歩き出す私達の後ろでカベルが深く頭を下げた。
「どうして・・・。くそっ・・・リア・・・ッ」
蒼白になった顔を隠すように。