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第七話:瓜二つな庭師


ハートフル城。


あまりにもピッタリ過ぎるネーミングだと、場内の庭を眺めながら思った。








何故私がここにいるのかと言うと。

数分ほど前キラが私を此処へ連れてくると突然立ち止まり


「此処で今しばらくお待ち下さい。私は色々と手続きをしなければなりませんので。」


最後にフワッと笑うと“何かあったら思いっきり吹いて下さい”と言って、私に小さな笛を渡した。クリスタルで出来たように透き通った色をしているホイッスルだった。


「あ、の・・・??」

「お暇なら此処に現れる男とお話しをされてみては如何でしょうか。彼は庭師の役を持っていて、とても面白い男ですので。きっと気が合うかと思いますが。」

「え・・・で、でも・・・」


知らない地で一人にされるなんて・・・不安になってキラの赤い目を見詰める。

彼はふふっと笑うと、周りを見渡すように促した。











「わあ、綺麗・・・」


赤と白のバラが咲き乱れ、美しく庭を彩っている。

そのバラの1つを間近で見てみると、小さな天道虫(てんとうむし)が茎に張り付いていて上に上に昇ろうと頑張っているみたいだ。羽にある七つの斑点の形は全てハートになっていて、私は思わずクスッと笑ってしまった。


「・・・あ、りがとう!!」


突然聞こえた声に驚いて振り向くと、キラの居た場所には白い作業着を着た青年がそれはそれは嬉しそうに笑っていた。頬は真っ赤に染まりなにやら少し恥ずかしがっている様子。ああ、さっきどもったからか。

彼はもう一度“ありがとな”というと私に握手を求めてきた。しかし私は彼の顔を見て固まってしまっていた。


少し伸びた明るい茶色の髪。髪よりも明るい茶色の瞳。薄く日焼けした肌。整った顔。そして・・・何より驚いたのは。


「―――キッド・・・??」


幼馴染の彼に瓜二つだった。









「・・・キッド??誰だよそいつ??オレは【庭師】のカベル。よろしくな!!」


にかっと歯を見せて笑うと固まる私の手を無理矢理握ってきた。


「ところでさ。あんた、だれ??」


根本的な質問をされ、私は意識を取り戻し質問に答えた。


「り、リア・・・。リア=レドナーです」

「へえー。で、お前の役は??」

「役・・・」

「おいおいッ名前と一緒に役を言うのは常識だぞ!!」


お前、田舎者か!?と叫んで彼はニコニコと愛想よく笑う。

彼はテンションの高さと容姿はキッドとそっくりだが、声がまるで違う。それに私の事を知らないようだし・・・ここがどこか分からないけど、元々いた私の国とは全く違う場所みたいだし。


とりあえず“よろしくお願いします”と言って未だに握られている手を一瞬だけ強く握り、緩く微笑んだ。

刹那、キッド・・・じゃなかった。カベルさんの顔がますます赤くなり、表情が固まった。



「・・・お前、可愛い顔してるなぁ!!危うく惚れそうになるぜッ」

「へ?あの、えっ・・・??ちょ、カベルさん!??」

「あ・・・あ、ははは!!ごめんごめん!!冗談だからっそれとお前、年いくつだ??」


彼はそう言ってから思い出したように握っていた手を離した。


「今年の冬で十六です」

「なんだ!!オレと同い年じゃねーか!!じゃあ“さん”と敬語はいらねーからな!!・・・あのさ、オレもリアって呼んでいいか??」

「も、もちろん!!」


そういって笑った瞬間、薔薇の甘い香りがきつく漂い咽てしまった。


「ちょっおい!?大丈夫か??」


カベルは咽る私の背中をポンポンと優しく叩いて、それから撫でてくれた。

優しい人・・・。

軽く感動する私に尚もなで続ける彼は“座りなぁ”と言って手を貸す。その手をとってゆっくり座ると少し楽になった。


「大丈夫・・・ありがとう、少し楽になった」

「よかったぁ!!・・・此処の薔薇、オレが世話してるんだッ」


話を聞くと庭師であるカベルはこの薔薇が植えられる頃に城に使え始めているらしい。だから、此処の薔薇はオレがずっと世話してるんだっと嬉しそうに、それでいて少し得意げに笑った。


私も釣られて微笑むと、彼は紅い薔薇を一本切って棘を取った。突然の行動に首を傾げると、カベルは一層得意げに笑って


「リア、ちょっと立って」

「え、うん」


カベルは立った私の髪を少しだけ掬う。長い髪が横に流れて風に靡いて少し邪魔に感じた。


「キレーな色してんなぁ・・・リアの髪。凄い綺麗な蜂蜜色だよな」

「やだ。そんなこと無いよっ」

「そんなことあるって!!リア、少しの間動くなよぉ」


彼は私の髪に紅い薔薇を刺した。それから落ちないようにと、どこから取り出したのか白いカチューシャを私の髪につけた。

そのときの彼の目がとても真剣で、少しだけ驚いた。


「よっし!!オッケ。もっと可愛くなった!!そのカチューシャと薔薇はプレゼントな!!」

「・・・・・・ありがとう?」

「え、疑問系!?もっと素直に“ありがとう!!カベル”って言って抱きつこうよぉ」

「いやよっそんな恥ずかしいことするわけ無いじゃない!!」


今度は私が顔を紅く染めて“バカッ”と言って俯いた。


カベルの見た目はキッドとそっくりで、私はとても楽しくなった。

今まで感じていた不安や恐怖も此処の薔薇とカベルのおかげで全て飛んでいくぐらいに。

彼は数秒押し黙った私を、特に気にする様子も無くヘラっと笑って手を差し出してきた。


「とりあえず!!これでオレとリアは友達な!!」


友達・・・。

何故だかキッドともう一度友達の約束をするようで、少し恥ずかしかったが、とても嬉しかった。私はニッコリと笑って


「ありがとう!!カベル!!改めてよろしくね」


そういって差し出された手をきつく握った。





私はただ、こちらに来て初めて出来た友達に胸を躍らせていた。

これから起こる、大変な騒動に巻き込まれるとは微塵も思っていなかった。








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