第四話:その森って・・・。後編
前編の続きです。
「ねえ・・・キッド、兄さん」
「どうしたの??リア」
「あぁ??何だよ、怖いのか??」
「や、そーじゃなくて・・・もう暗くなってきたよ。帰らない??」
楽しそうにズンズン進んでいくキッドに私は遠慮するように小さく呟くと、彼は
「バァァァカ!夜になんねーとあの火の玉はみれねぇって!!!」
と唾を飛ばす勢いで叫んできた。
うん・・・分かってたけど・・・。どうせ、言っても無駄って分かってたけど・・・。
「でも、これ以上は危―――」
ない・・・と続けたのに、その言葉はラビ兄さんの鉄槌をあびたキッドの耳には届かなかった。
地面に倒れこんだ彼を革靴で踏みつけながらはき捨てるように絶対零度の言葉を投げかける兄さん。
「・・・・・・・リアを危険な目にはあわせないといったはずだよ、馬鹿。行きたきゃお前だけで逝け」
「ちょっとまて!!俺だけかよ!!」
踏みつけられながらも必死に突っ込むキッド。
しかし一人だけというところに気をとられて本来突っ込むべき漢字の間違いをスルーしてしまった。(突っ込みキャラとしては失格であると思う)
ラビは小さくため息を付いて足をどけた。
しかし、彼はそのまましゃがみ込みキッドの少し伸びた明るい茶色の髪を鷲づかみにして冷たい笑みを向けた。
「この森は夜になると危険なのは、重々承知だよね??」
「知ってるけど・・・あれは絶対感動するから!!!」
「はあ、夜まで帰らないつもりで誘ったんだね・・・ッたく・・・。リア、こんなバカに付き合うのがダメだった・・・帰ろ・・・・・・・・・・・う??」
振り向いたその先には少女は存在せず、ただ冷たい風が吹きぬけるだけだった。
「「り・・・・・・・リアァァァ!!!」」
二人分の絶叫が響いたのは数秒経ってからだった。
「あれ、兄さん??キッド??」
一寸先は闇。
自分の手さえ見えないほど深く、濃い闇。
ここは、どこ??森??
「兄さん!!?キッド!!どこ??・・・どこに行ったの??」
やだッどうして二人とはぐれちゃったの??
さっきまでキッドが虐められてるとこ見てたのに。
こんな瞬間的に移動なんて出来ないはずなのに。
え・・・え??本当にどうして??
―――アリス。
「え??」
声がして振り向く。
しかしそこには闇しかない。
アリス・・・?
今、確かにアリスって聞こえた・・・。
微かな物音が聞こえて耳を澄ましてみる。謡うような声が微風に乗って耳に届き、目を見開く。
確かに聞こえる。
―――アリス、おいで、おいで。君の世界はこっちだよ。
アリスの・・・世界??
アリスってなに??人の名前なの??
―――君の世界が待ってるよ。月が満ちる今日は何の日??
君の新しい道が開くときだよ。アリス♪
ふと先ほどと何かが違うことに気が付いて、上を見上げると真っ赤な満月がぽっかりと浮かんでいた。
切り取られたような月はただ広い闇に浮かぶだけ。異様な光景、だけど・・・不思議と懐かしいのは、何故?
気が付けば私の周りだけは明るく照らされていた。
「さあ、こっちですアリス。貴女の世界は此方です。」
近くで聞こえた声にビクッと肩を強張らせる。
誰・・・??さっきの歌声とは違う低い声。
振り向くと、さっきまで誰も居なかったのに、青年がひっそりと立っていた。
「来てください。アリス。貴女は俺達に必要です。」
その声を聞いた瞬間、私は目の前がまた暗くなった。
―――どう、して???
アリスって・・・なに??
最後に見えた赤い瞳に私は母さんの一言を思い出した。
―――私、馬鹿だわ
――――母さんは言ったじゃない。
赤い瞳に気をつけなさい、と。