第三十四話:気付かないフリ
「ね、聞いてた?」
―――聞いてる。ったく 知りたくもなかったってのに、こんなこと。
リア部屋の扉を背に自らの胸のうちの彼に問うてみた。本来、この体の持ち主である彼は不服そうに答えたが声はおれ以外の誰にも聞こえはしない。深層心理の更に奥に鉄格子で囲まれて閉じ込められた彼の姿は目を閉じたおれにしか見えない。
檻の中に閉じ込められた、もう一人のおれの姿。表に出ているときとは少し違う口調。
「ごめんってぇ。あまりにもキミがぐずぐずしてるからぁ」
―――大好きな大好きなアノコに、調べたいから魔法をかける?ふざけてるね。そんなことは二度とごめんだ。
「だから言ってくれるのを待つ?おれみたいに後悔されても困るんだよねぇ」
そういうと彼は檻からするりと手を滑り落とした。おれの記憶を共有するキミは、あの時のおれの気持ちもよくわかるはずだ。だから、二度とそんなことはしないように追い討ちをかけておこう。
キミに消えられては、おれが困る。
「キミならわかってたでしょー?ここに異質な存在がいたことも、それがリィに何かを吹き込んだことも。おれとは違って・・・気配には敏感なんだからねぇ」
―――アンタの所為でもあるんだけど?
だよねぇ、と応えてクスリと笑う。ああ自分と対話するおれはなんて滑稽なんだろう。一人で喋って一人で答える。もうサイッコーに変態的。
そのとき、突然シエルの名を呼ばれた。それも結構至近距離から。
「・・・わぉ!【森トカゲ】じゃん。さっすがぁ!ずっと近くにいたんだね」
「シエル・・・ではないな。誰だお前は」
流石にわかるかぁ。オーラなんて見えなくても、瞳を見ればわかるよね。
そうだ。いっそのことこの目を抉り出してしまおうか。そうすれば、リィと白兎しかわからなくなるだろう。大好きな人だけがおれ達のことを見分けてくれるなんて!
すぅと瞳に伸びた指を綺麗な指が止めた。【森トカゲ】じゃないね。
「いいかげんにしてください。チェシャ。」
「白兎ぃ。おひさぁ!」
「目を潰そうとしていたでしょう?それはシエルの体です。」
えーおれの言葉は無視なわけ?
目を合わせてやろうと彼の方を向くが、彼は目を閉じていた。っちぇー。
おれの能力の一つ。目を合わせることで相手を少しだけ狂わせることができる。それは思考だったり、体の自由だったりまちまち。それでも絶対的な力に従わせられるのはさぞかし気分が悪いだろう。・・・最も魔力が強いやつと【アリス】には効かないけど。
白兎は魔力が強いから効かないんだけど、ちっちゃい時にかけられたことがあるからそれ以来目を合わせてもらっていない。
あ、そうか!目を潰しちゃったらこの能力使えないじゃんー。ばっかだぁ。
「キラ、コイツはなんだ?シエルではないのでしょう?」
「ええ。コレは【チェシャ猫】の魂です。」
「・・・ああ。なるほど」
リィのこともあって警戒してたんだねぇ。
目の前に在るはずの【森トカゲ】。姿は今のところ認識できていない。
それが【森トカゲ】の能力。向こうから“見せる”というコンタクトを取らなければこちらは彼女を認識することが出来ない。暗殺向きの能力・・・そのくせ騎士だって言うんだから滑稽だよねぇ。
すぅっと目の前に色づいてゆく彼女をニヤニヤと笑みを貼り付けて眺めた。うん、初代から能力は衰えてないみたいだね。よかったよかった。
「私としたことが失念していた。【チェシャ猫】はそういう存在だったわね」
「そのまま忘れててもよかったのにぃ。そうしたらもう少し面白い登場が出来たかもしれないのに」
「貴方の面白いは“変態的”という意味でしょう。」
おっと、いつにもまして白兎はご機嫌斜め・・・というより感情が薄い。言葉に抑揚が全然ない。
「結構こたえてるみたいだねぇ、白兎くーん。そんなに【アリス】に手を出されたことが悔しい?」
「・・・当たり前です。俺は、リアを護れなかった・・・。」
「違うってぇ。おれが聞きたいのはそれじゃないよ」
どういうことだ、と言いたげに目を細める二人。ああもうサイッコーにおもしろい展開っ!
意気揚々と彼らにとっては禁句であろう言葉を吐き捨てる。
「ねえ、キミ達が護りたかったのは【リア】?それとも【アリス】?」
二人して体を固まらせた。ブリキの人形のような不自然な動きで、此方を少し睨む。
あームカつくなぁ。自覚してなかったの?・・・それとも自分は違うとでも思いたかったわけ?
―――今、言うの?もう少し放って置いてやればよかったものを。
シエルが檻の中から非難をするように言葉を発した。なんだ、キミもわかってたんだぁ。
「今だから言うけどね。違うでしょ?」
「・・・なぜ。」
「キミ達が見てるのは、護りたいと思ってるのは、いっつも【アリス】でしょー?それは【リア=レドナー】じゃない。キミ達は、いつも―――」
「黙れ!!!」
激昂したのは二人とは違う声。
つぃっとそちらに顔を向ければズンズンと足音を響かせながら【トゥーイドル・ディー】がやってきた。声は彼のものか。
「俺は!リアを信じてる!【アリス】じゃない!」
「へえ、根拠はあるの?」
魔力が少しずつ吸い取られていくのがわかる。それは微々たるものだけど、覚醒したてだと言うのには上出来だ。
【トゥーイドル兄弟】の能力は吸収。一人では能力は薄いけど、二人揃えば強い。能力を押さえ切れてないということは、少し我を忘れてる感じだね。
「先代も、その前も・・・初代だって【アリス】に真名を教えていなかった!!だけど俺は他でもない【リア】に俺の命を預けた!!」
「へえ、そうだったんだぁ!」
ディーはアリスに嫉妬してたからねぇ。ダムはアリスが大好きで、ディーもアリスが好きだったから二人はいつもライバル。だけど、ディーはダムも好きだったし、ダムはディーも好きだった。お互いがお互いに嫉妬して、お互いがアリスに嫉妬してた。
まあ真実を知ってるのはおれだけだけど!!いっつもニヤニヤしながらいがみ合うけど仲のいい二人をからかってたっけ。
おっと、周りがピリピリしだしてきちゃった。いいじゃん思い出に浸らせてくれたってぇ。
「じゃーあぁなんで【リア=レドナー】に真実を教えなかったのぉ?」
息の詰まる音が三つ・・・いや、四つ。
背中から感じる息遣いの音には気付かないフリをしてあげよう。
「そ、それは・・・」
「リアを悲しませたくなかったから。それだけです。」
あーあ言っちゃった。一番ムカつく言葉だね、それ。
「だったらあんた達は最低だね」
真実を何一つ知らずに放り込まれたおとぎの国で、それでもなお自分達を愛せだなんて。
「ルールに縛られたあんた達は、一番大切にするべき者を忘れてない?盲目的になって見えてないんじゃないのぉ?」
「・・・縛られてなんか・・・いない。忘れても、いないっ!!」
かろうじて返事が出来たのは白兎だけ。後はもうおれの魔力に当てられて声さえ出ない。
初代【チェシャ猫】の魔力は痛いでしょ?生まれたてのひよっこどもが調子に乗れるような軽い重圧なんかじゃない。リィの方に行かないようにはしてるけど、大丈夫かなぁ。
「気付いてないわけがないでしょ、コレばっかりは。白兎・・・【役】は失ってもコレだけは覚えときなよ」
硬直する彼の銀の髪を一掬い。現れた形のいい耳に唇を寄せる。
「あんた達はいつか。自分達で愛しい【アリス】を壊す」
そう、一度おれ達がしたようにね。
ああアリス。
愛しい愛しい小さな彼女。
おれはキミを救えなかった。
闇に失墜してくキミを、護れなかった。
キミの虚空の瞳を、おれは死んでも忘れられなかった。
「忘れないでね。あの昔話は本当の話だからね」
トン、と地を蹴って魔法を行使。残された彼らがどんな表情をしているのか、少しだけ興味あるけど別にいいや。手に取るようにわかるから。
・・・別に彼らがどれだけ傷つこうと知ったこっちゃないし。
―――ねえリア、どうか俺達を見捨てないで。
檻の中で項垂れるシエルが小さく呟いた言葉が少し胸に痛かっただけ。
どうもー!【愛すべき、貴方たちへ】を見てくださってありがとうございますぅ!五十嵐ですぅ!
さて、今回のゲストは【白銀の赤兎】(本編でまともに使われたことのない役)でお馴染みのキラさんでぇす!
キラ「・・・どうもこんにちわ。」
あー・・・本編の落ち込みは此処へ持ち込まないでね(ハート
キラ「はい・・・。」
さて、突然ですが題名を変更しましたぁ!ちょっと混乱された方っ・・・ごめんなさい。
長いんで此処では“貴方たちへ”にしますねぇ。
キラ「色々ありますが何とか三十話は突破しております。ただでさシリアスが多くて面倒くせぇのに更に面倒くせぇって思っていらっしゃる方もさぞかし多いことでしょうねぇ。」
う゛っ!コンニャロ、元に戻ったと思ったら急に強気に・・・。
えー・・・駄目作者でほんとうに申し訳ありませんが、こんな駄作でも根気強く見ていただけると幸いです!
キラ「さて、次回予告と行きますか。まあ作者が適当に言ってるだけで、全然予告ではありませんがね。」
・・・キラさん!ちょっとは自重して下さい!!!(泣
今度こそ明るくなることを祈って!!さてさてバルさん、そろそろ活躍してくださいよ?の巻・・・かな、うん・・・。だと思うな・・・。
キラ「自信喪失しないで下さいよ。」
・・・つ、次もがんばりますぅ。。。