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第二十九話:眠れぬ夜


なんだか最近常にスランプな気がします。・・・もしもこの駄作を見ていただいてるお優しい方がいらっしゃいましたなら、本当に申し訳ありません!!(^_^;)








「珍しいな、リア嬢」


耳に心地よいバリトンの声に呼ばれ振り返ると、あの人。月明かりに照らされたダークブラウンの髪が風に靡いて頬のタトゥーを隠した。

ちいさく微笑んで返事をすると、切れ長のゴールドアイを更に細めたバル。


「少し久しいな。夜に会うのはあの日以来か・・・」

「そうね・・・貴方にはお世話をかけてばかりいるね」

「いや、そんなことはない。リア嬢と共にいるのはとても楽しいぞ」


刹那優しく微笑んでから黙り込むバル。そっと顔を覗き込むとゴールドアイが少しだけ不自然に揺れた。暖炉の薪がパキッと乾いた音を立てても、なかなか言葉を紡がないバルにとりあえずホットミルクを勧めてみると、小さく頷いてくれた。

キッチンにたってミルクを暖めてから少し砂糖を入れてから出すと、すごく熱いはずなのに一気に半分ぐらい飲み干した。すごい・・・。


「―――ところで。リア嬢はこんな時間にどうして起きている?もうとっくの前に日付は変わったぞ」

「・・・眠れなくて」


ここ最近ずっとそうだった。一度は眠れるのに、深夜になると目が覚めてしまうのだ。


まるで何かに怯えるように、何かを怖がるように。


浅い眠りの所為か、最近はあまり体調がよくない。明日の昼すぎには【碧の国】に着くというのに、こんなことではダメだと分かっている・・・だけど、だからといって簡単に治るわけでもなかった。


「あまり気負うな、リア嬢。壊れてしまうぞ」


バルが大きな手を私の頭に置いて私と目を合わせた。この人はいつも、優しくて暖かい。


「壊れないよ。皆を護らなきゃだから、ね」



「護るなんて言うなって。俺たちが何もできねーみたいじゃんかぁ」


突然割り込んできた声に振り向くと、カベルがいつの間にか後ろに立っていた。彼は私達が腰掛けていたソファを“よっと”といいながら飛び越えて、私の隣に座った。その手にはちゃっかりホットミルク。


“起きてたの?”と聞くと、暖炉の炎を見詰めながら“眠れねー”とだけ帰ってきた。私と一緒。


「あー・・・そういえば、はじめましてですね。えーと・・・」

「バルだ、バル=ダンプティ。城ではすれ違う程度の認識しかなかったな」

「え、そうなの??」

「だって俺ただの【庭師】だぜ?女王の側近と話なんて出来ねーよ・・・つか、言っちゃ悪いけどあんまり興味なかったんだよ」


同じ城に住んでいたのに、話したことが一度も無いというのも・・・まあ変ではないかな。ただ、少しだけ寂しいと思うのは今までが幸せだったのだろうと思う。


「ふ・・・遠目に見たことはあったが、面白い奴だな」

「ドーモ。ダンプティ様に言われると光栄ですね」

「敬語も様付けも必要ない。お前と俺はもう同士だ。此処は城でもないし、身分は関係ないだろう?」


その言葉に虚を抜かれた様な顔をしたカベルだったが、それも数瞬で“それもそーっすね”といってニカッと実に彼らしい笑みを零した。少々子供っぽくて可愛らしい笑みに、つられて私もバルも笑った。


「じゃあバルでいいよな。改めてよろしくなぁ」

「ああ。こちらもよろしく願う。ガルとも仲良くしてやってくれ」

「もちろん。で、リア」


突然振られて一瞬キョトンとしてしまったが、口元に笑みを浮かべて“ん?”と聞き返す。カベルは俯いてとんとんとカップをテーブルに叩き始めた。




「お前さ。何でもかんでも自分の所為みたいに思ってるんじゃねーの?」


「え?」

「ばーか。お前は確かに【アリス】だけどさ。全てが【アリス】から始まったわけでもねーんだぞ?お前が気にすることじゃねーよ」


わかってるよ、そんなこと。だけど【アリス】から、あの可憐な少女から始まったことも沢山あるのも真実。その彼女のチカラを受け継いだらしい私は、彼女から始まったことを終わらせないといけない。


バルが呻くような低い声でぼそぼそと呟きだした。


「・・・お前は特別すぎる存在だ。それゆえにプレッシャーを感じているのだろう?」

「無条件の愛とか、【アリス】の“チカラ”とかさ。めんどっちぃもんばっか抱え込んでんもんな」


カベルは色々な大事なことを“めんどっちぃ”の一言でサラッと片付ける。一瞬バルが顔をしかめるほどの楽観だ。


確かに、色々なプレッシャーは感じている。けれどもまだ何か違う。


「それとも、元の世界に帰りたい?えーと“キッド”だっけ?その幼馴染の奴とかに会いたいのか?」


確かに、帰りたい。それは当たり前だと思う。けれど帰ったって今更どうしようもない気がする。私は【アリス】のチカラを受け取って、世界を救う役をもっているし責任もある。全てを放り投げて帰るつもりは毛頭ない。



では、なんなのか。この不安は。この焦燥は。この飢餓は。




「焦るな、リア嬢。焦っても何も変わりはしない」


気がつけば目の前には跪いたバルがいて、私の手を取っていた。“あ、ずりぃ”とカベルの呟きが聞こえた気がしたが、気のせいだと思う。またキスでもされるのかと思えば、それは両手でそっと握りこまれた。

上目遣いの金の瞳、金のメッシュが月の燈された暖炉の炎で煌いた。


「前にも言っただろう。お前は【アリス】ではないリア=レドナーだ。【アリス】としての責務は確かにあるが、異世界からやってきたお前には荷が重過ぎるだろう。少しぐらい俺達に分けたって罰は当たらんだろう?」

「つーか、素直に分けやがれ!」


カベルが私のもう片方の手を取ってギュッと握った。バルに向けていた視線をあげると、唇を少しだけ突き出して拗ねたような顔をした彼がいた。なんで?

バルが一瞬鼻から抜ける笑みを零した。


「俺は、護られるのなんかごめんだかんな。男が女に護られるばっかになんのはダサイじゃん?お前が俺を護るっていうんなら俺もお前を護るからなっ」


あ、俺ちょっとかっこいいこと言った。と言ってへへへと照れくさそうに笑ったカベルに少々呆れたため息を零したバル。だけど“同感だな”と言って、やっぱり手の甲にキスを落とした。


「お前はお前の護りたい物を護ればいい。だから、俺は・・・否、俺達はそのお前を全てをかけて護る。いい案だと思わないか?」

「・・・それなら私も全てをかけるわ。貴方たちや、この呪われた世界を救うために」

「だから気負うなと言っただろう。俺達はお前を護るので“当たり前”なのだ。だが、お前は・・・」


続くはずの言葉を緩く頭を振って否定する。握られた両の手に二人の体温を感じながら、目を閉じた。




「私は―――」




暖炉の薪がまた乾いた音を立てた。


「皆を愛してるから」


息を呑む二人にそっと微笑みかけた。


「私、貴方たちが好きよ。【アリス】の魂の記憶の所為もあるだろうけど、皆すごく愛しいの。だから、護りたい。愛しい人のために全てをかけるのは“当たり前”でしょ?」

「・・・ああ、そうだな」

「無理なんてしてないし、無理じゃない。私はこの世界のことはまだよくわからないけれど、すごく好きになれそうな気がするの」


あ、だめだ。

急に・・・意識が、



「・・・嬉しいこといってくれんなぁ、このコは・・・」


カベルの声が最後に聞こえた気がした。










 ◇




「・・・気張りすぎなんだよな、リアは・・・」


自らの腕に抱かれてから、ベッドに寝かされた小柄な少女。顔に掛かった蜂蜜色の長い髪をさらりと落としてやると、白い肌が艶かしく月光に照らされた。・・・こんな事してる場合じゃねっての。


「愛してるだってさ。はずいこと言ってくれんなぁコイツは」

「おそらくもう限界だったのだろう。疲れもストレスも溜まっているし、その上眠れなかったのだ。半分夢見心地だったのではないのか?」

「つーか、バル。何気に【サウンドスリーピング】かけてたろ。なっかなか効かなかったけどな。フランの魔法の所為か」


刹那悪戯が見つかった子供のような表情を浮かべたバル。


「・・・やはりバレていたか」


ったりまえだっつの。

って言ってやりたいけど、そうでもなかったりするから我慢。あれがわかったのは覚醒したおかげだったから。昔の俺なら確実に一緒に寝てた。


窓に視線をむける青年。つられるように覗いてみると、そこには風に吹き荒れる赤黒いモノが見えた。


「次から次へと・・・。リア嬢にはまだ気付かれてはいまいな?」


大きなため息をこぼしながら“多分な”と零して視線を眠る少女に向けた。


「今頃は外のヤツラは時兎様とフランが粗方片してるとは思うけどな。リアに【不可聴】と【不可視】の魔法は・・・ああ、ヒート様がかけてるな」


外から大きな咆哮が響いてきた。ヤツラのものだ。

もう一度外に目を向けると、ニヤニヤと楽しそうに色々な魔法で殺していくシエルの姿と素早い動きをしているキラ。

キラにいたっては、銀色の髪やスーツなどは元の面影など全くなくなるくらい、赤く光沢を帯びていた。彼は見え隠れする恍惚の感情を必死で押し殺したような違和感のある表情を浮かべていた。


毎晩・・・否、一日中休み無く攻撃をしかけてくる【シャドウ】達は交代で殲滅している。その分リアと話をできる時間は少なくなるが、このグロッキーな場面を純粋なこのコに見せるわけにはいかない。

ただ、それも時間の問題だ。今俺達がしていることは、所詮は無駄ということか。


「フランなんてマジすげぇよ。昼間なんて従者席でニールとノーラ動かしながら片手間で殲滅してやがった」

「お前もまあまあ見ものだったぞ?覚醒したての【トゥーイドル・ディー】の魔法」

「まだまだ・・・記憶じゃもっとちゃんとできてたのに。流石に【庭師】程度の魔法レベルとは違うってことね・・・」


返り血を浴びないようにするので一杯一杯だった。無残に転がったヤツラの大半は他の誰かがトドメを射したものだった。




「なあ、リア。俺達ってこんなに汚れてるんだぜ?」


眠る少女の頬に手を宛がったが、静かな寝息を立てるリアの頬をそっと撫でて、すぐにその手をどけた。


「それでも―――」












お前は俺達を愛してくれるのか?

















    何も知らない少女は



               ただ昏々と眠り続ける








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