第二十八話:魔法の授業!後編
こほん、と咳払いをしたキラが改めて説明をしなおす。どこまでも先生キャラを貫こうとしているキラに少し笑いそうになったのは、多分ばれてないと思う・・・。
シエルはそんな私を見てニヤニヤしてるけど。
「・・・魔法はこの世界で生きるために必要な力です。そして、俺達の武器です。武術と共に嗜むべき存在であり、絶対的な力を持っています。魔法を扱う術に長ければ世間的にも戦闘的にも優位な位置に立つことが出来ます。」
「例えば俺や白兎みたいなやつだねぇ」
「魔力レベルと魔法レベルは共に1〜10までで表されます。一般的な国民のレベルは大体3位で、レベル2もあれば生活に支障はでません。国直属の魔法騎士ともなると5〜7、女王様はレベル9です。ちなみに俺はレベル8です。」
「俺は9ねぇ〜。何気に国内三位だよ」
鼻で笑うシエルに一瞬睨みをきかしてから向き直るキラ。ライバル心強いなぁ。
「ねえ、魔力はどうやってわかるの?」
「魔水晶という道具を使います。これですね。」
キラはごそごそと後ろにあった袋から掌サイズの水晶を取り出す。
「普通の状態ですとなんの変哲も無い水晶ですが『チェック』と唱えると」
「あッ色が変わった!」
水に絵の具を落としたように、透明だった水晶は綺麗な藍色に変わった。
「レベル1から順番に緑、黄、オレンジ、ピンク、赤、紫、青、藍、黒、白と識別されます。」
その説明を聞きながらも藍色に発光する水晶に見入っていると、またしてもシエルは鼻で笑った。そしてキラの手元から水晶を奪った。
「『チェック』」
藍色だった水晶は彼の手に渡ると無色にかわり、言葉と共に黒色に変化した。尻尾が自慢げにユラユラとゆれて、それをみたキラがハサミを探しだした。
「わ、私もやってみていいかな!?」
また喧嘩しそうだったので先にそう言ってみた。キラがハサミをしまって“どうぞ”と笑った。ナイフに手をかけていたシエルはくるっと表情を変えて向き直った。
「はいリア。気をつけてね、意外と重いから」
「ありがと」
シエルから水晶を受け取る。私の手に渡った瞬間に黒色だった水晶は無色透明に戻った。
「・・・『チェック』」
何色に変わるだろう。緑色だったらちょっとショックだな。
ワクワクしながら数秒見詰める。水晶は滲むように透明から・・・緑色に変化した。
ガクッと肩をおとすと水晶が色を変えた。黄色に変わったそれを見詰めてキラに視線を送るが彼も戸惑ったように水晶を見詰めたままだった。そうしていると、水晶はオレンジに変わり、ピンク、赤、紫、青、藍、黒、白とゆっくり変化していき、最後には無色透明に戻った。
首をかしげてもう一度“『チェック』”と唱える。しかし、水晶はさっきと同じようにどんどん色を変えてまた透明に戻ってしまう。
「・・・キラ、シエル・・・」
「・・・・・・・・・・・これは。」
「・・・壊れた??」
三人で戸惑っていると、ピシッと何かが割れる音がして水晶が粉々に砕けた。指をすり抜けて落ちていく水晶の残骸を呆然と見詰める。全てが床に落ちたときにやっと硬直が解けて三人で顔を見合わせる。
「・・・どういうことなの?」
「・・・どういうことなのでしょうか?」
「・・・・・・なんか・・・これ知ってる気がする」
二人してシエルに視線を向けると彼は顎に手を当てて“うーん”と唸って顔を伏せた。そして数分そうした後、突然パッと顔を上げた。彼の口から飛び出した言葉は・・・
「初代アリス!!」
「「え??」」
「思い出した!初代アリスも水晶壊したんだった。チェシャが言ってた!!」
アリス・・・が?
あの白い空間で会った可憐な少女を思い出す。何度も思い出すうちに、胸のうちが締め付けられるように切なくなるのは何故だろう?
思わずキュッと胸元を握り締めていた。
「・・・持っているけど持っていない。アリスは何時でもそんな存在だったと言われています。」
「っていうことは、リアの魔力もそんな感じ?」
赤い目を伏せたキラ。暗い色の灯った瞳の真意を確かめることは出来そうに無かった。まだ、触れてはいけないのだと、本能的に告げていたのだった。
「・・・君は、アリスの力を貰った?リア」
見上げると真摯な瞳。吸い込まれそうなラピスラズリの目が何の表情もない私の顔を映していた。人形のような顔をしている私に戸惑ったようにシエルは眉根を寄せる。
私が、貰った力・・・。
「【キュア】・・・そう。【キュア】の“チカラ”。確かに貰った・・・アリスの、力」
零れ落ちた言葉。目の前の二人は揃って首をかしげた。
「・・・【キュア】、ですか・・・。聞いたことも無いですね。」
「俺も、魔法は専門分野だけど・・・。そんな魔法は無いと思う・・・」
「もしかしたら、アリス独自の魔法ですかね?」
従者席からガルが声だけ参加してきた。
「彼女は魔法の才能は無かったらしいのですが、魔法を作る才には秀でていらっしゃったようです。魔力を使わずして自らの余りある“チカラ”を魔法として変換する技術を見つけたのでしょう」
“推測の域を出ませんがね”と言ってガルは馬車を止めた。
今日は此処で止まるようだ。この後少しだけ外に出て実戦訓練をするのが日課となりつつある。
「今日は、ここまでにしましょう。」
キラのその一言で魔法の学習時間は終了した。
バラバラと外に出て行く皆をみても、私はまだ立ち上がれずにいた。
確かにここに有るのに無い―――。
この世界で生きる力でもあり、同時に戦う力にもなるモノ。
護るためにも要になる・・・チカラ。
そっと立ち上がってキラとシエルの後を追った。彼らは馬車の入り口で待っていてくれた。
その姿を見て、強く思った。
絶対、手に入れたい。あらゆるものから、皆を護りたいから。
悟られないようにそっと二人に微笑みかけた。