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第二十四話:護りたいもの





目が覚めると、そこは何時かみた白い空間だった。


意識を失ったはずなのに、私は普通に立っていた。自分の異常に白い手が目の前で揺れる。


「どうしてエプロンドレス・・・??」


その声で前回とは違うとわかった。前は全く声が出なかったのだ。


私は着ている筈の無い、膝丈の青いエプロンドレスに白いロングブーツという出で立ちで佇んでいた。そして盛大にため息をついた。

今回で二度目だからか心に少し余裕があり、ゆっくりと状況判断をして辺りを見渡す。辺りといってもこの空間には何もない。床も壁も天井も、自分以外の何もかもが存在していないのだ。


あの時と同じように一歩踏み出してみるが、やはり歩いている感覚がせずもう一つため息を零した。



前回ココに来たときは、お母さんが私に危険を知らせようとしていた。

では、今回は一体なんだというのだろうか。



そのとき突然クスクスと笑い声がした。


ゾクッと背中に悪寒が走り、思わず自分の身体を抱きこむようにしてしまう。一応周りを見てみるが、当たり前のように何もない。

その間も楽しそうな笑い声は続いた。


「・・・誰??」


チェシャとは違うムカつく笑い方に、眉をひそめながら呟く。するとその声はピタッとやんで、辺りに静寂が包む。

全く無音の世界に自分の呼吸する音だけが響く感覚が妙に気持ち悪くて、私は柄にもなく大声を張り上げてしまった。


「誰なの!!?答えて!!」

「あら。貴方から訪問しといて“誰”はないんじゃない??」


後ろを振り向くと自分と同じような格好をした少女の姿。

白いエプロンドレスに赤い薔薇を刺している。自分と同じハニーブラウンの髪と・・・青い瞳。可愛らしいフンワリとした雰囲気をかもし出す顔とは裏腹に、大人っぽくクスクスとした控えめな笑み。


「・・・【アリス】」

「そうよ。私は初代【アリス】。よく分かったわね??」


少女の見た目をしているがこの人はきっと―――


「正解。私の年齢は100を超えているわ」

「・・・はあ。また、ですか」


どうせまた表情に出ていたのだろう。一瞬ムスっと唇を突き出してしまうが、すぐにそれを引っ込める。彼女がまた笑い出したのだ。


「クスクス・・・とても面白い子ね、リア。貴方が私の“チカラ”を受け継ぐ者ね??」

「どうして、名前を??」


「貴女のお母様からお聞きしていたわ」


思わず目を見張った。この人は今とんでもないことを言った。



「母さん・・・??」

「ああ。貴女は知らなかったわね」


彼女は嫌な笑みを引っ込めて大真面目な顔で言い放った。


「貴女のお母様は【アリス】の魂を持つ者だったわ。貴女の前の【アリス】よ」




母さんが・・・【アリス】だった??


じゃあ、ココで死んだ【アリス】は、母さんのこと??




私は何も無い空間に膝から崩れ落ちた。








どこか希望を持っていた。


父さんからは“母さんは死んだ”と聞かされていたが、私は知っていた。

母さんは死んだのではなく行方不明になっただけだと。


五年前・・・私はまだ11歳で、何も理解できていなかったけど。ある日真夜中に父さんが、母さんの写真を見ながら泣いているのを見てしまった。呻きながら“どこに行っちまったんだよ・・・”と言っていた言葉が忘れられないままだった。ラビ兄さんも事情を分かっているようで、私に隠れて二人で母さんを探していたのを私は知っている。



だから。母さんはどこかで生きていると信じていた。

例え私達家族を裏切っていたって、どこかで元気にしていると希望を持っていた。









「・・・ごめんなさいね。だけど、貴女は知らないといけないの」


彼女は哀しそうに目を伏せた。私は呆けた気持ちでそれを見上げた。

私と同じくらいの年の彼女は私以上に泣きそうな表情をしていた。


「遅くなったわね。私の名前はアリス=リデル。一応名乗っておくわね」


そういって無理矢理笑顔を作ってぺこりと一礼した。


どうして、貴女がそんなに哀しそうな顔をするの??

漸く現実を理解した頭で思った。スカイブルーの瞳からは零れ落ちそうな涙が溜まっていて、アリスはそれを落とすまいと必死で耐えている。


「な、かないで」

「・・・リア??」


口から零れ落ちた言葉。止めることが出来ない。


「貴女は、泣かないで。貴女の所為じゃない。この世界がおかしいの」


アリスは呆然と私を見詰める。その表情からは戸惑いが伺えて、私は思わずクスっと笑ってしまった。ますます彼女は戸惑う。

初めに感じたムカつきは気がつけば完全に消えていた。今は会ったことも無い彼女のことを誰よりも信じれると思えた。


「私が・・・この世界を変えないといけない。【アリス】の役はきっとそういう役目。私が、この狂った世界を変える。魂に呪縛された世界を、きっと変えてみせる」


漠然と、だけど強烈に思う決意。座り込んだままだった私は、ゆっくりと立ち上がりアリスを見詰める。お互いに絡んだ視線が何も言わずとも私の決意を伝えてくれる。


アリスは一瞬だけ泣きそうな顔をして微笑んだ。

そして、とても小さな声で“ありがとう”と呟いた。


「貴女に、私の“チカラ”を託すわ」


彼女はそういって私の手をとった。


「だけど、今の私が貴女に渡せる“チカラ”はもう少ないの。他の“チカラ”はこの世界に散らばってしまった。貴女を待ちすぎたのね、きっと」


アリスは上品に笑ってからぎゅっと私の手を握り、顔を寄せて額同士をくっつけた。暖かい体温がほのかに感じられて、私は一瞬泣きそうになった。


「リア、まずはこの世界に散らばった“チカラ”を集めて。私も残った力で協力するわ」


あまりにも近すぎる距離で彼女を見ると、もう泣きそうな顔をしていなかった。哀しそうな、それでいて優しい表情で私の目を見詰めていた。


「ねえリア??私、貴女のことが好きになったわ。だってこんなにも貴女は素敵なんだもの」

「アリス・・・??」

「私の魂を受け取ったのが貴女でよかった」


彼女はそっと瞳を閉じた。私と同じ、だけど全然違う瞳が見えなくなって一瞬残念に思ってしまった。私も彼女に見習って目を閉じた。


「私が貴女に渡せるのは【キュア】のチカラのみ。貴女にこのチカラを授けます」


触れ合った額から暖かい何かが流れ込む。コレが彼女の言う“チカラ”なのだろう。


「ありがとう・・・アリス」


小さく零したお礼は貴女に届いただろうか。




















 ◇




「―――ん・・・ぅ・・・キ、ラ??」

「・・・リア、大丈夫ですか??」


起きるとまず、私に与えられていた部屋の天井が見えた。それから手に暖かい感触を感じ、隣を見るとキラが心配そうに私の顔を覗き込んだ。右手はしっかりと彼の両手と繋がれていて、暖かかった。


「だいじょうぶ・・・だと、思う」

「無理しないで下さい・・・」


とりあえず起き上がろうとすると、彼がそれを止めた。私はやっぱり少し辛かったので素直にそれに従った。


「ねえ、キラ・・・私―――」

「ええ。分かっております・・・旅立たれるのですか??」


私の言いたいことが伝わったようで、彼は目を伏せた。長い睫が赤い瞳を隠した。


「俺も・・・ついていきます。ずっと貴女をお守りいたしますから」

「えっ!?でも、お城の仕事とかは・・・」

「そんなものはどうでもいいんです。俺は貴女を護るために存在しているのですから」


彼はそういって微笑んで、【S】の文字が描かれたバッチを外した。


「このバッチは【シバリエ】の意味があるんです。貴女を護る、貴女の為の騎士です」

「シバリエ・・・」

「このバッチをつけている者は、何があっても貴女の味方です」


彼はそっと私の手を取って、手の甲に口付けた。あまりにも自然すぎて、止めることが出来ずに私はただ呆然とそれを見詰める。


「何があっても、護ります。だから一緒に行かせてください」


顔を上げたキラの目には譲らない想いだけが込められていて、私は少し迷ってから頷いた。

瞬間彼の顔は嬉しそうにほころんだ。


「・・・よろしくお願いします。だけど、無理はしないで」


「貴女がそう望むのならば」





















    さあ

          一緒に旅に出よう










      世界を壊し




        世界を護る







      アリスの力を取り戻すために










      



 

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