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第二十二話:同属嫌悪


謎は深まるばかり。世界の秘密も明かされないままですが、根気強く待っていただければ嬉しいです・・・。








ネリダは目を見張ったまま停止した。

その反応を見てキッドの言っていたことは間違っていなかったと改めてわかった。


「・・・彼女はこの世界にいるんだね」


嬉しくて笑いそうになる顔を必死で抑える。

消えた妹、リアをまた見ることが出来る。誰よりも愛している彼女をまた抱きしめることが出来る ・・・大切な家族がここにいる!!

キッドはあからさまに嬉しそうな顔をしている。なんだか少し羨ましい。

小さく咳払いをしてやると、彼はその表情を引っ込めてネリダに向き直る。


「なあ、知ってること教えてくれよ ネリダ。俺達はリ・・・アリスの事を探してこの世界に来たんだ」


その言葉を聞いた彼女は俯く。まだ年端の行かない少女に秘め事は難しいのだろう。

小さくボソボソと口の中で何かを呟くネリダ。


「・・・アリスさま、は・・・」






「ネリダ。それ以上は言ってはならないよ」


俯いて何かを紡ごうとした言葉を威厳の含んだ声が制した。振り向くといつの間にいたのか、少年が微笑んでいた。“なっ”とキッドが声を漏らしたのが分かった。

キッドが声を発した次の瞬間に、あまり広くない部屋の壁一面に威厳を振り撒いた人々が整列して現れた。重役と思われる彼らは皆、ネリダに向かって怪訝な視線を送っているが、コバルトブルーの瞳に黒髪の少年だけは、驚愕の表情を浮かべる僕たちに軽く会釈した。


僕は彼を見た瞬間、反射的に顔を顰めてしまっていた。そして自分のとったその行動に驚いた。会った事も無いこの少年に、嫌悪感を抱いた理由が分からないのだ。

はっと息を呑む気配がして視線をネリダに戻すと、彼女は青い顔をして跪いた。


「申し訳ありません・・・クローバー様」

「悪い子だね、ネリダ。【案内人】の役割を犯してはいけないよ??」


僕の傍をすり抜けて跪く彼女の頭を撫でる。それから“大丈夫だよ”と言って微笑んだ。


「初めまして、ですかね。私がこの国の最高権威 クローバー=オータムと名乗っております。以後よろしくお願いいたしますね」


・・・否、微笑んでいるのは口だけで、目は全く笑っていない。

僕とキッドに向かってどこかゆったりとした動作で頭を下げる、クローバーと名乗る少年。リアと同じ年頃の彼は冷たい雰囲気を纏っていた。


「ラビ=レドナーさんとキッド=ラブレさんですね。事情はお察しいたします」

「・・・始めまして。王様って呼ぶべきですか??」


キッドが怪訝な表情を隠そうともせずに軽口をたたいた。彼も僕と同じ、よくわからない気持ちを感じているのだろうか。

クローバーが答える前に、ずらりと並んだ家臣たちから声が上がった。


「ぶ、無礼者!!」

「王の御前であるぞ!?跪かぬか!!」

「ネリダ、この者達は何者だ!?」


「うーわ。お約束」


キッドが半ば毒気を抜かれたように項垂れた。

確かにお約束だ。誰にも分からない様に、ふっと鼻から抜ける笑みを零してやった。刹那、凄い勢いでキッドが振り向いたのは見なかったことにしよう。


「落ち着きなさい。彼らは私達と同じ(・・・・・)なのですよ。」

「・・・同じ、とはどういうことです??」


ざわつく家臣たちを制して、不透明な意味の言葉を零した王に思わず声をかける。僕の質問には答えず、家臣の視線が突き刺さる中、居心地悪そうに身を捩っていたネリダに下がるように命じるクローバー。


「この者達とは別室で話をします。エリシュベラとニッケル以外は下がりなさい」

「しかしっ!!」

「いいですね??」



あ、わかった。


嫌悪を感じた理由は、彼が僕と同類だからだ。

クローバー=オータムの絶対零度の笑みは、家臣たちを震え上がらせるには十分な威力を発揮したのであった。





 ◇






「失礼な真似をしたことをお許し下さい。ラビさん、キッドさん」


謁見室というには少しこじんまりした雰囲気の部屋に通された僕達は、高そうな紅茶を置いて改めて挨拶をした。エリシュベラと呼ばれる女とニッケルと呼ばれた男が扉の近くに立ち、此方に意識を向けている。だが、その視線はどこか友好的なもので先刻のように観察する瞳ではなかった。


「私の事はローバと。私のほうが年下なのですから、そこは遠慮しないで頂きたい」

「わかっ―――りました。ローバ・・・軽口叩いてすんません」

「敬語は必要ありません。私の口調は癖なので、ご容赦願いますね??」


キッドも警戒心が解けたのか、打ち解けた様子で紅茶を飲んだ。


「うわっ・・・なにこれっ うっま!!」

「キッド、二度と飲めないようにしてあげようか??」

「すんませんラビ様!!」


優しく声をかけてやると、彼はテーブルに頭をこすり付けた。あー楽し。

クローバーはクスクスと愉しそうに笑っている。


「異世界から参られたのですよね。でしたらこの国のことはご存知なのでは??」

「いや、全く・・・。さっき少しネリダに教えてもらった程度の知識だよ」

「ああ、じゃあこの世界の成り立ちと、法はご存知ですね」


頷いてみせると彼は微笑んだ顔を急に引き締めた。一瞬で変わる空気に扉の傍の二人がガタッと物音を立てたが、テーブルを囲む僕たちは微動だにしなかった。


重い空気。空気が薄くなったように呼吸がしにくくなる。忘れかけていた頭痛が復活し、脈打ってだんだん頭が重くなる。


チラリとキッドを盗み見ると、意外にも涼しげに紅茶を飲んでいる。


わーこの空気、彼には伝わらないのかな??


暫くその重い空気が続いたが、ふっとクローバーが笑うと消えた。


「流石ですね。私の魔力に耐えられるとは思いませんでした」

「あ??魔力!??」

「・・・本当になにも感じていなかったんだね」


はっと短く息を吐き出す。キッドをバカにしたわけではなく、単に呼吸が苦しかったのだ。

クスクスと笑うクロ−バーは“素晴らしいことです”と言って流してしまった。


「この世界には魔法というものが存在します。この世界にいる者は多かれ少なかれ魔力を持っております」


この言葉を元いた世界で聞いていたら問答無用で叩きのめしただろう。そうしてきた理由は主にリアに意味の分からない輩を近づけさせないためだが。

だが、実際にありえないことをこの身で体験した。信じるしかないだろう。


キッドを見ると彼も此方を向いていたようで、目があった。その目もやはり僕と同じ気持ちだということを鮮明に表していた。


「ご理解いただけたようですね」


その気持ちが彼にも伝わったのか、クローバーが言った。


「私は魔力が強く、対抗できる魔力がなければ意識を失ってしまうのです。普段は意識して魔力を閉じていますのでご心配なく」

「試されていた、ということなんだね・・・」

「ええ 申し訳ありません。しかし・・・やはりあなた方は不思議だ。この世界を知らないと言うのに、この世界や魔力に対しての耐性を持っている」


そういうと、扉に立っていたエリシュベラを呼んだ。彼女は足音を立てずに彼の傍に寄ると跪いた。


「エリシュベラ・・・【門番】の検査を彼らに」

「はっ!!」


彼女は短く返事をすると立ち上がり僕たちの後ろに回った。


「ラビさん、キッドさん。失礼ですが、あなた方に魔法をかけさせて頂きます」

「・・・何をするんだい??」

「【役】を調べさせていただきます。彼女の役は【門番】 他人の【役】を調べる魔法を得意としております」


振り向くと、ニッコリと人懐っこそうに笑ったエリシュベラ。


「私の事はリーシュとお呼び下さい。身体に触れますがよろしいですか??」


鈴の鳴るような清らかな声で笑う彼女は僕らの返事を聞く前に頭に触れた。

瞬間頭痛が耐えきれないほど酷くなった。叫び声を上げそうになった唇を噛み締めて耐える。


脈打つ頭に暖かいものが流れ込む。クローバーの言っていた魔力といった物だろうか・・・。






『ラビ』


脳内に響く僕を呼ぶ声。

懐かしさを感じる声に、思わず目を見開く。



「・・・ぐっあ!?あっ・・・」



隣で苦しそうなキッドの息遣いが聞こえる。



「!!?エリシュベラッ」


クローバーのあせった声。






記憶が流れ込む。






―――ダレの記憶??



     僕の、記憶。






   【三月兎】の、記憶・・・??




「あ゛、あ゛ああぁ!!わあああああ!!!?」



驚いたリーシュがパッと手を離したが、流れ込む記憶は止まらなかった。



見たこともないはずの城。薔薇に囲まれた家、道。会ったことの無いはずの人々の笑顔、泣き顔、怒った顔。僕を呼ぶ声。


鮮明に思い出される愛しい顔。




蒼い瞳。ハニーブラウンの長い髪。

エプロンドレスを翻しながら、笑顔で走り寄ってくる少女。








「ア、リス・・・??」




呟いた声を最後に冷たい床が目の前に迫ったのを感じた。





















      僕は




         この世界の住民・・・??







      なぜ??






             どういうこと??












       ああ




        リアは無事だろうか??




       ごめんね リア



      もう少し待ってて






     必ず

        迎えに行くから



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