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第十八話:招待状は紫の瞳と共に・前半





ある日の朝、目覚めると隣に黒髪の青年が眠っていたらどうしますか?



「・・・?・・・ふぇ??・・・え・・・」

「ん・・・・・・・ぁあ・・・おはよリア」


しかもそのヒトはほっぺたにキスを落としてきます。


「・・・き・・・」


「??」


「き・・・やァァァァーーーーー!!!」





私ならまず絶叫するしかないでしょう。
















「し、シ、シエ、ル??」

「リアうるさいよー」


耳に指を突っ込んでうるさいとアピールするシエル。でも正直私はそれ所じゃなくて。

な、なんでこのヒトが私のベッドに・・・。


「なんでってぇ。昨日会えなかったから寂しかった、に決まってるじゃん」

「ちょっ!な、んで!??」

「そんな感じの顔してた」


アメジストの瞳をキュッと楽しそうに細めて、笑うシエル。その綺麗な笑い顔が今はどうしてか少し憎らしい。私の出来る限りきつく睨むと、彼は“そんな顔しないでよぉ”と言ってくる。


「かぁわいい顔。虐めたくなっちゃうじゃん♪」

「可愛くなんか無い!!」


プイと視線を斜め下に逸らすと彼はあははーと笑って私の頭を撫でる。

っていつまで布団の中に二人でいるんだろ。


ガバッと起き上がると腰を長い腕で捕らえられてベッドに引き戻された。危うくまた叫びそうになったけど、その前にシエルが大きな手で口を覆ってきた。


「んー・・・も、少し」

「ッ!!す、少しじゃない!!!」


もがいたけどさすが男の人ってだけあって力が強い。痛くは無いけど全然放してくれない。それどころか、肩口に顔を埋めてきた。


「あぁリアの香りー」

「・・・も、放して・・・」


ぐいっと頭を押すと、やっとしぶしぶ身体を放してくれた。


「良い抱き枕だったのにー」


熱が集まった顔がどうしようもなく恥ずかしい。けど、ぐっと怒りをこめて睨むと流石に彼もちょっと反省したようで。


「ごめんって。あまりにも可愛い顔して寝てるから、ついつい・・・」

「・・・いつから居たの??」


“え、三十分くらい前??”という彼に盛大にため息をつく。

この人は本当に・・・軽いというか、見境が無いというか・・・。誰に対してもこうなのだろうか。


「・・・なにか用があったんじゃないんですかぁ??」

「お、鋭いね。そうだよぉ。招待状届けにきたんだ」


招待状??


小首をかしげてシエルを見やると、彼はそっと視線を逸らした。


「リア、その顔は止めたほうが良い。発情期にはきついから」

「・・・馬鹿」


一発軽く・・・いや結構本気で肩を殴る。もちろんグーで。彼は一瞬痛そうに身を縮こまらせてから殴られた箇所を摩る。


フンと鼻で笑ってやってからやっとベッドから降りた。


「で、招待状って私にですか??」

「そうだよー。海辺のお茶会のやつー」


そういって差し出された白い封筒を受け取ると、そこにはしっかりと“DEAR ALICE”と書いてあった。まぎれもなく私宛だとわかった。

この国に来てまだ三日目なのに、どうして私宛の招待状なんて届くのかしら・・・。

シエルに問いかけると以外にもあっさりと“当たり前でしょ”と返ってきた。


「【アリス】がこの城にいるってことは既に全国民に知ってるから。本当はもっといっぱい招待状とか来てるけど、信用無いものばっかだしほとんどシャットダウンしてるんだ」

「海辺のお茶会は信用あるんですね」


シエルはうんうんと何度も頷く。その目はやはり楽しそうに細められたまま。

なんだかそれが少し気になるんだけど・・・。


招待状を開くと開始時刻はちょうど一ヵ月後となっていた。



でも私、暢気にお茶会なんて行ってていいのかな。

【アリス】の役割はカベルに聞いたけど、どうもまだ他に役割があるようだし。あのシャドウって化け物のことも、まだ何かわからないまま。疑問が沢山あるのだが誰も答えてはくれない。

頼みの綱であるカベルやキラは忙しくてあんまり話せないみたいだし・・・。


ちら、と目の前の青年を見やると彼は“どしたのー??”と言って頭を撫でてきた。


「シエル・・・聞きたいことがあるのだけど」

「俺でよければ答えるけど、俺あんま喋れないんだよね」


楽しそうに細めていた瞳を一瞬見開いて、また笑う。・・・この人はずっと笑っているような気がする。


「シャドウってもののこと。【アリス】の役割のこと。ついでに【チェシャ猫】の役割のことも。あと、シエルやキラ、【ハンプティー・ダンプティー】のつけている【S】と書かれたこのバッチのこと」


他にも聞きたいことは山ほどあるが、一気に聞いても答えてくれなさそうな気がした。・・・直感だけど。

シエルはうーんと唸ってから、人差し指を立てて答えてくれた。


「まず一つ目。知っての通り黒い化け物は通称【シャドウ】って言って、なんで生まれたかは不明。生息地は世界中何処にでもいる。完全に殺さないと何度でも蘇って、人を襲ってくる。食料は人の心・・・ていうか精神だね。襲われた人たちは無気力症のようなものになって、最終的に死ぬ。レベル別されていて一番弱いレベルoneからだんだん強くなって今のところレベルsixまで観測されてる」

「・・・なんで生まれたかわからないの??」

「うん。だって気がついたらこの世界にいたからね。前の『アリアの話』覚えてるでしょ??みんなアリアが消えたことのほうが重要だったんだ」


前に女王様に会う前にシエルがしてた話。

そういえばそこに出てきた蒼いペンダントってもしかして私の持ってるこれ・・・??


ベッドサイドの机の上に置かれたペンダントをまじまじ見詰めると、シエルはにっと口角を上げた。


「次ね。俺は【チェシャ猫】だから【アリス】の役割は話せない。俺じゃない誰かなら答えてくれると思うよ。【チャシャ猫】の役割は惑わしと救い。他にも沢山あるけどいずれ分かるよ」

「惑わしと救い・・・」

「そう。【俺】はいつだってフワフワ漂う雲みたいなものだから」


そういって彼は私の頭をそっと優しい手つきで撫でた。キラと同じか少し低いくらいの身長のシエルを見上げると、その顔はどこか泣き出しそうな顔をしていた。

その顔があのときのキラとダブって、思わず声を上げていた。



「ねえ。どうして貴方も、そんなに哀しそうな顔をするの??」


シエルは一瞬度肝を抜かれたような顔をした。私の頭を撫で付けていた手を止めて、目をいっぱいに見開いて。彼のアメジストの瞳は童謡の色を隠しきれて居ない。

長い沈黙があったけど、私はずっとシエルの返事を待っていた。しばらくすると掠れた小さな声が耳に届いた。


「・・・ど、して??」

「え??」

「アリス・・・君が・・・」


今度はこっちが驚いた。

彼は私の目を見てしっかり“アリス”と呼んだ。


「アリス・・・おれ、ずっと待ってた。チェシャ、待ってた、のに」


シエルのアメジストの瞳の色が、変わっていく。暗く、深い紫へと変わっていく。


「おれ、おれ・・・」


シエルだけど、シエルじゃない。

怖くて体が震えだすのが分かった。頭に載せられたままの彼の手は異常に強張っていた。まるで何かに抵抗しているように。


ああ、ダメだ。


「し、える??」

「ああ、ありすの声。・・・かわんないね、ありす・・・まってたんだよ」



こわい。

シエルじゃない・・・この人は、ダレ??









そのとき扉が勢いよく開いた。

振り向くより早く黒い何かが私の横をすり抜けた。


「ハンプティー。チェシャ猫を」

「わかっております。スプリング様」


高い声が二つ。完全に振り向くと人形のような綺麗な顔を困惑したように歪ませた女王が居た。彼女はコツコツと足音を響かせながら私に近づくと薄く微笑んだ。


「リア、大丈夫??」

「女王様・・・」

「シエル、しっかりしなさい。【チェシャ猫】の魂に負けてどうするの」


そういってハンプティーと呼ばれた少年に羽交い絞めにされている、シエルの頬を杖で突いた。シエルはされるがままになっている。

その瞳はまだ濃い紫色で、その瞳は私の目をしっかり捉えた。


「や、君がアリス??」

「・・・だれ」


女王が振り向いて“だめよ。リア、話してはいけない”と私を止める。けれど、話さないといけないような変な危機感が胸を掠めて、私は話すのをやめない。


「貴方は、だれ??」


彼はクツクツと笑う。その笑い顔はシエルとは全く違う。




「ねえ、答えて」

















          視線をまげてはいけないよ


             


              目を合わせたが最後


         意思を曲げてはいけない


             


           じゃないと


              猫に囚われちゃうよ




          気をつけてね

                    アリス



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