第十六話:【ダム】と【三月兎】
話が飲み込めないかもしれませんが、全ては次の話に・・・なるかも??
ああ、リア・・・。
どこに行ってしまった・・・??
「ラビ」
「・・・キッド。どうした・・・こんな、夜更けに」
窓際に腰を落とした俺は真っ暗な部屋に一人俯いてテーブルに座っている青年に声をかける。ラビは一瞬身体をビクッと跳ねさせてから振り向かず俺の名を呼んだ。
その姿に胸の辺りがキュゥと締め付けられるように痛んだ。
リアが居なくなってから一週間が過ぎた。あの夜、森に行ったオレ達の目の前からリアは突然姿を消した。原因は不明。もちろん俺達だけでなくリアの父親、その他のたくさんの大人たちも一緒に探してくれた。それなのにリアは見つからない。手がかりさえも見つからなかった。だけど、ただ1ついえることは・・・
「ラビ・・・俺の所為だ・・・俺が・・・」
「キッド。もう言わないでくれ。これはお前だけの所為じゃな―――」
「違う!!」
ラビはあくまで穏やかに俺を諭した。だけど俺は大声でラビの慰めを否定する。
そう、俺の所為なんだ。俺が・・・あの夢のことをちゃんと理解していれば・・・。
「俺が・・・俺が、ちゃんとあのことを深く考えていれば、こんなことにはなっていなかったかもしれないのに・・・」
「・・・待ってキッド。話が見えない。順を追って説明してくれよ」
ラビは俺の言葉を聞くと、ゆっくりと伏せていた顔を上げて振り向いた。その顔は一週間前までとはまるで別人だった。目は、いつも俺を虐めているときのような輝きはなく、死人のような瞳をしてる。
それだけリアが大切だってことだ。なのに・・・俺は。
「キッド!!説明してくれ!!」
彼は立ち上がると、窓際に座る俺の肩を掴み前後に揺らした。
「・・・信じてくれるか??」
「ああ!!信じるさ!!だからッ・・・」
“だから・・・早く話してくれ”と言って今にも泣きそうに顔を歪める。
「俺・・・一週間くらい前からずっと変な夢を見てたんだ。森に、俺とリアとお前と三人で遊びに言って・・・俺達が目を話した隙に、リアが消えた。・・・ちょうど今回のように」
ラビは俺の言葉を聞くうちにだんだんと目の輝きを取り戻した・・・だけど、その光は絶望の光だということが、俺にはわかる。言葉を紡ごうとするラビだが、なにも出てこないようでただパクパクと口を動かすだけで声は出てこない。俺はそれをわかっていて続きを言った。
溜め込んできた想いを吐き出すように。
「リアは【アリス】って呼ばれてて・・・赤い目の変な男に拉致られてた。夢の中でリアはッ・・・助けてって叫んでた。リアは変な世界に連れて行かれて・・・新しい・・・生活を送っていて・・・」
「・・・けるな・・・ふざけないでくれよ!!」
「ふざけてこんな事いえるわけねーよ!!!」
縋る様に掴みかかってきたラビの胸倉を掴み返して負けじと声を張り上げる。泣きそうに張り詰めていたラビの目には涙があって、それは頬を伝って地面に落ちた。・・・俺より年上のはずの彼は触れれば壊れそうなくらい脆くなっていた。
だけど、俺は話すのをやめない。
止めてはいけない気がする。
「俺が見たのは、ただの夢だ。だから俺はこの不吉な夢のことを気にも留めなかった!!こんな馬鹿馬鹿しい現実起こるわけがないって!!だけど、夢は現実になってしまった・・・だからこそ、これからのことも・・・俺にはわかってるんだ!!」
「・・・わかってるって??」
ラビはやっと瞳に希望の光を燈した。目尻に溜まっていた涙を拳で乱暴に拭うと“どういうこと??”と視線を送ってくる。
俺は半ば無意識に先ほどの言葉を叫んでいた。自らが放った言葉に希望を見出して俺は言葉を紡ぐ。
「・・・仮に、俺の夢が予知夢なら。俺達は今日リアの居る世界に飛ばされることになってる。昨日の夜その夢を見たんだ。でも、そのかわり俺達はもう二度とこの世界に帰れねーかもしれない」
「リアの・・・居る世界??」
「ああ、そうだ!!お前俺が狂ったとか思うなよ!!俺はいたって正常だ!!」
信じてくれよ、ラビ。
俺はそう願いを込めて胸倉を掴む手をそっと離した。ラビは眉間に皺を寄せて目を閉じた。しかしそれも一瞬だけで彼はニヤッと意地悪く笑った。
「キッドが狂っているのはいつものことだろう??」
「・・・やっと、正気取り戻したかよ・・・」
ああ、やっぱこいつはこっちのほうがいい。死人の様なラビなんかラビじゃねー。
俺は彼と同じようにニヤッと笑う。
「・・・リアに会いたいなら、準備しろ!!」
「命令か??いい度胸だね・・・頼んだよキッド」
生まれて初めてこいつに勝ったような気がする。
「おうっまかせとけ!!」
◇
俺達は歩を進める。只管あの場所へ。
そして、目的の場所に着いた俺達は荷物を足元に下ろし周りを見渡す。
「ここ、だな」
「・・・リアが居なくなった場所??」
そう、リアが消えた場所。つまり、俺達が言い合ってた場所だ。
ラビは苦しそうに目を伏せた。
今の俺はいわゆる燕尾服というヤツを着て、頭には黒い薔薇が刺さったシルクハットをかぶっている。よく分からんが夢の中の俺はこれを着ていたからだ。リアが消えた晩、俺は家中をひっくり返す勢いでこの服とシルクハット・・・そしてある本を探し出した。
その本には・・・ちょっと狂ったことが書いてあった。だけど今の俺達にはこの本が必要なのはわかっているのだ。
「今から俺、ちょっと狂ったこと言うけど、全部聞き流してくれよな」
目の前の青年は静かに頷いた。
俺は月を見上げる。
持ってきた本を開いてそこに書かれたことを言う・・・否、叫ぶ。
「今ここに【トゥーイドル・ダム】と【三月兎】が帰る!!扉を開き、我等を迎えよ。蒼い世界は我等を欲す。我等は蒼い世界を欲す。我等は己の魂に誓い国と【アリス】を護る!!先の住民よ扉を開けよ!!」
俺は叫び終わると荷物を手に取り、また月を見上げる。ラビは静かに月を見上げて唇を噛み締めていた。
そのまま五分ほどじっと月を見詰めていると変な気分になってきた。
・・・ぐるぐると少しだけ欠けた月が回っているような錯覚さえしてきた。
―――【トゥーイドル・ダム】と【三月兎】の魂の記憶と覚悟、確かに読み取った。
突然頭に響いてきた声に驚き反応しようとしたが、声を上げる前に俺の頭は正常に働かなくなってしまった。
ああ・・・成功??かな。
暗くなる視界に煌々と輝く月が写った。
お帰り
【ダム】と【三月兎】
やっと、帰って来れたね
さあ
おいで
【アリス】が待ってるよ