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第十三話:役与式と蒼いペンダント






 アリス


    ああ  愛しいアリス



  この“時”を どれほど待ち望んだか








  アリス   



    君は やっと【アリス】に成れるね



   やっと

    僕たちに【アリス】が帰ってくるんだね





    嬉しいよ

          アリス





















大理石の床に三つの足音が響く。静か過ぎる空間だと思っていたら突然ボーンと鐘の音がした。


「やっ!なに??」

「リアーそんな怯えなくていいよ。これ【時兎】の時計の音だから」


反射的に上げた声にシエルは優しく返してくれた。私がシエルの言った言葉について質問をしようと口を開いたが“もうそろそろですよ。”と言うキラの声がして引っ込んでしまう

彼はそっと笑って私の頭を撫でた。

その瞬間シエルの手によってその手は叩き落とされてしまったようで、彼らはムッとした空気と共にまた睨み合う。


「も、もうそろそろって・・・女王様の所ですよね??」


また喧嘩が始まりそうだったので急いで声をかけると、キラはシエルから視線を逸らせてニッコリと微笑む。


「ええ。あまり緊張なさらないで下さい。貴女は貴女のままでいいのですからね。」

「は、はい・・・」

「あ。ほら扉が見えてきましたよ。」


そう言ってすっと私をエスコートする。

ふと足音が足りない気がして隣を見ると先ほどまでいたシエルは消えていた。周りを見渡してみても彼の姿は見当たらない。キョロキョロと周りを見渡す私をクスッと上品に笑ってから“大丈夫ですよ。”と耳元で囁くように言った。


「猫は先に【女王】の元へ行っただけですので、安心なさってください。それよりも、準備はよろしいですか??」


シエルに気を取られていた私にそう問いかけてキラは扉に手を掛ける。私がそっと頷いたのを確認してからゆっくり、じれったいほどゆっくりと開けていく。







「アリスッ!!!!」


扉に足を踏み入れた瞬間誰かに抱きつかれた。後ろに倒れそうになるのをグッと踏ん張った瞬間、キラが“なっ女王様!!”と叫んで私を支えてくれた。

って・・・女王!!?


下に目線を向けると長い赤み掛かった明るい茶髪が揺れていた。彼女は“アリス!!本当にアリスなのね”と叫んでむちゃくちゃに抱きついてくる。

凄く高い声。私よりも・・・年下??


「じょおーさま。そろそろ放さないと【アリス】の顔が見れないよぉ」


シエルの声がして顔を上げると、彼は前方の玉座に凭れ掛かって、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。


「シエルさん!!」

「え、未だにさん付け??呼び捨てていいからね。それより、ほらじょおーさまアリスが困ってるよ」

「え!!?あらッゴメンナサイっ!!私ったら・・・」


女王は勢いよく私から離れると間髪居れずに頭を下げた。それからゆっくり髪を掻き揚げながら顔を上げていく。


「はじめまして、【アリス】。私はハート=スプリング。役は【女王】よ」


緩く巻かれた茶髪の上に乗っている小さくて美しいティアラがキラリと輝いていて。女王というより姫といったほうがいいくらい幼い少女の口元が妖艶に弧を描く。

春のような薄いピンク色の瞳。真っ白な肌と頬にさすほのかな赤み。ハートと名乗った彼女は、真っ赤でところどころに白くハートがかたどられている綺麗なドレスを身にまとって、細い杖を持ち、小さな体で精一杯胸を張っていた。


「女王・・・さま??」

「ええ。私がこの国の最高権威よ」


ハートは呟くようにそう言ってドレスの端を持って小さくお辞儀をした。様になっているのがまた、可愛い。


「リア。このお方がハート女王様です。まだ13歳とお若いですが、年齢に添わず素晴らしい実力と功績を持ったお方です。」

「ふふ、キラったら・・・そこまで褒めなくていいのよ?」

「いえ、全てが事実でございますよ。」


キラも口元に薄く微笑みを浮かべ、女王を褒め称えた。先程とはまた違う空気に圧倒されそうになりながらリアは“初めまして”と言ってハートと同じように礼をした。


「私は――」

「分かってるわ。リア=レドナーでしょ。そんなに畏まらないでいいのよ、リア」


そういって彼女は私の手を引いてコツコツと足音を響かせて玉座の前まで歩いていく。私は手を引かれるまま歩き出す。


「リア。早速だけど貴女に役を与えるわ」


玉座の前まで私を引いていくと“リアはここにいてね”といってウインクを飛ばした。・・・かわいいと思ったのは私だけではないだろう。


ハートは玉座に座るとパチンと指を鳴らした。

先程まで私達四人しか居なかったのにざっと私達を取り囲むように人が現れた。ざわざわと声が聞こえるたび、ビクッと身体を揺らしているといつの間にかキラが隣に居て


「大丈夫です。魔法で移動してきただけですので。」


と笑って正面に跪いた。


「リア。貴女も・・・。」

「あ、はい」


私がキラに習って跪くと同時にハートが身体に見合わぬ大きな声で“静粛に!!”と叫んだ。その一声でざわざわしていたのがピタっと止まった。


「これよりリア=レドナーの役与式を行う。その方準備はよろしいか」

「は、はい・・・」

「よろしい!!」


さっきとは全然違う口調と雰囲気。緊張しながらも返事を返すと彼女はフッと微笑んだ。それからまた表情を引き締めて言葉を紡ぎだす。


「【門番】、この方【アリス】の魂で間違いないのであるな」


シエルは恭しく一礼しながらよく通る声で言った。


「間違いありません。【門番】の役にかけて」

「よろしい!!」


ハート・・・否【女王】はばんっと杖を床に打ちつけ叫ぶ。


「よって【女王】の命によりリア=レドナーに【アリス】の役を与える!!」


杖の先から光が飛び出し、それが私の前へとふよふよと飛んでくる。


「リア両手で受け止めてください。」


私は少しビックリしたけど、キラの指示に従ってその光を両手で受け取った。瞬間それは眩しく発光し、そしてゆっくりと引いていく。

そして、それは蒼いペンダントへと姿を変えていた。












この瞬間


私は【アリス】に成った。










もう。




後戻りは許されない。








「「お帰り・・・僕らのアリス」」




シエルとキラが声をそろえて呟いた。














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