第十一話:哀しい昔話
グロイ部分があります。
苦手な方は飛ばしてください。
昔、むかーし。
“俺”には大好きな女の子がいたんだ。
・・・惚気だなんて野暮ったいこと言わないでよ??
みんながそのコのこと好きだったんだから、仕方ないことだったんだ。
とにかく、そのコ・・・。
・・・そのコじゃ分かりにくいね。
うーんと・・・じゃあ、仮にアリアだとしよう。
国中のみんながアリアのこと愛して、求めてた。
皆がアリアを欲しがった。
自分が死ぬまでアリアに一緒に居て欲しい。
もし自分が消えるならいっそアリアの手で・・・。
皆そう願っていたんだ。
ああ、誤解しないで。
その皆の中には“俺”はいない。
“俺”は昔も今も皆とはちょっと違った存在だったから。
それに“俺”は“俺”だけど俺じゃないから。
今はリア一筋だからねっ♪
あ、ごめんごめん。冗談だから。
そんなに困った顔しないで。虐めたくなっちゃうじゃん。
白兎ぃ、そんなに睨まなくてもいーじゃん。
ほいほい、続きね。
もちろんアリアは一人しかいないから、皆アリアを取り合ってたんだよ。
始めはただ、ちょっと喧嘩するぐらいだったんだけど。
だんだんエスカレートしてきてさぁ。
武器を持ち出して戦争並みに戦いだしたんだよ。
クスッ馬鹿だよね。
アリアは嘆き、哀しんだ。
優しいコだったから、自分の所為で誰かが傷つくのが嫌だったんだよ。
だから、アリアは狂って自殺を図ったんだ。
自分でナイフ取り出してお腹をグサッとね。
だけど、途中で止めたんだ。
気付いちゃったから。
アリアが泣くと、皆が泣いた。
アリアが笑うと、皆が笑った。
アリアが悲しむと、皆が悲しんだ。
アリアが怒ると、皆が怒った。
アリアが怪我すると、皆が怪我をした。
もう、わかるよね??
アリアが死んじゃうと、皆死んじゃうんだよ。
もう国はアリアを中心に回ってたんだ。
アリアはそれまで以上に狂った。
んで、毎日毎日考えたんだ。
どうすれば、皆争わずに、皆死なずに出来るんだろうって。
そして、ある日思いついた。
それはあまりにも歪んでいた。
彼女はナイフを持って来て、自分の体の一部を切っていったんだ。
まず左手の指から順番に、掌、腕、肩。
作業が終わったときにはアリアは左腕と右足を失っていた。
んで、それをペンダントに入れて皆に一つずつ渡したんだ。
矛盾してるけどコレならきっと皆納得するだろうから、って。
きっと誰も自分を傷つけたりしないって。
皆はやっと目が覚めた。
そして、愛しい少女が血まみれになって笑っているのを見て、
皆嘆いた。
当たり前だよね。
大切で、気が狂うほど愛しい人が肉体を千切ってまで自分たちを止めたんだ。
皆争いを止めた。
でも、皆の心には消えない傷と歪みが残った。
結局そのコの行動は正しかったかどうかは分からない。
そのコがその後どうなったかは、何故か皆知らないんだ。
ああそういえば。
それからだったかな。
国の周りに黒い化け物が出始めたのは。
皆の傷とゆがみをそのまんま形にしたみたいだった。
皆は恐れた。
自分も何時か“化け物”になってしまうのではないかと。
はい、おーわり。
白兎ぃ。
やっぱコノコは【アリス】であってるよ。
入って大丈夫。
「―――ッ。え、ええ。分かりました。アリス、此方に・・・。」
長い昔話が終わったあと、いつの間にか私の後ろに回りこんでいたキラが言った。振り向くと酷く傷ついた顔をしていた。
私は何故かぼうっとする頭で哀しすぎる物語りだと思っていた。
歪みが悲しみを生み、その悲しみがまた歪みを生んで連鎖する。
なんて・・・哀しすぎる。
私は泣きそうな彼の目を見てそっと頷いた。
今は彼の心には触れないほうがいい。私はそう直感的に感じ取っていた。
キラは私の手を握って足を踏み出した。刹那何処からともなくギッと嫌な音がして目の前に扉が現れた。・・・もうなんでもありなのね。
私は半ば諦めて、キラの後に続いて扉に入った。
待ってたよ。【アリス】。
運命の少女。
君が来るのをずーっと。
最後にシエルが呟いた言葉がいつまでも耳に残った。