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序章






ここは・・・・・・どこ??


真っ白な空間。何処を見回しても白しか見えない。有ると認識できる物が自分の身以外一つもない。


確か私は、昼食を食べ終えたあと本を読んでいたはず。

試しに二、三歩足を踏み出してみるが歩いている感触がしない。


何・・・ここ。すごく恐い・・・。









「―――リア。危ないわ」


突然声がして、警戒していた私は勢い良く振り返った。


優しくて甘い香りが微かに鼻腔を掠める。

それはとても懐かしくて、安心する・・・あの人独特の――――。




「ああ、リア・・・おいで」


母さんが手を差し延べていた。


穏やかな笑みを浮かべた彼女の瞳は、美しいエメラルドグリーン。私はあまりの懐かしさに鼻の奥がつんと痛くなった。やだ、あんなに優しかった母さんの前で泣きたくない。

零れる前に握った手で拭い取ると母さんは一瞬困ったような顔をして、それからそっと頭を撫でてくれた。



「リア、逃げなさい。そこは・・・そこはとても危険なの。あなたには特に・・・」


―――き、けん??どうして、そんな事を言うの??


ラビ兄さんもキッドも父さんもいるよ。危なくなんかないよ??




言いたいのに声が出ない。思わず喉を押さえると母さんが、その手を自分のそれで包み込んだ。



その手はゾッとするくらい冷たかった。血の通っていない白い手は小刻みに震えていて。少し叩けば脆く崩れ去ってしまいそうで。

ゆっくり顔を上げると、母さんはさっきとは全く違う、今にも張り裂けそうな微笑みを浮かべた。




「本当は、こんな事を言いたくはないのよ。でも、リア・・・あなただけでも逃げなさい。早く、遠い所へ逃げて」



逃げる??何から??






「逃げなさい―――。満――の夜―――――――さぎの迎えから―――」



母さん??声が、聞こえないよ・・・。

翡翠のような瞳が不安定に揺れた。


鈍いといわれる私でも、終わりを物語っているのがわかった。



母さん!!いやだッ――行っちゃやだよ!!


冷たい手を強く握ったけど母さんはそれをそっと外した。彼女は最後に刹那、名残惜しそうに手を延ばしかけたが思い止まり、その手を降ろした母の姿。



待って!待ってよ、せめて・・・愛してるって言いたいのに!!


でも相変わらず声は出なくて、私は言葉の代わりにずっと我慢してきた涙を零した。









「リア――赤い目―――――気をつけ―――愛してるわ」











 ◇





「―――母さんッ」




やっと声が出た・・・けど。

見慣れた部屋。白とオレンジで統一された家具がいちいち目に痛い。




「ッ・・・夢・・・」





大きくため息を着いてカーテンを開けると外は真っ暗だった。

たぶん、三時くらいだと思ってベッドから降りる。


駄目、夢が鮮明すぎて眠れない。


ひどいね・・・いまさら出てくるなんて。




階段を下りてキッチンへ行き、水を飲んだ。冷たい水が喉を通り、体を潤す。まだ秋とは言え少し肌寒くて、掛けてあったガウンを手に取り羽織った。

ふうっと息を吐き出し深呼吸。1分も続けると少しだけ落ち着いて考えることが出来るようになるだろう。



「・・・赤い、目??」



赤い目だなんて・・・兎じゃあるまいし・・・ファンタジー過ぎる。


そうとう母さんに依存してるのかな・・・わたし。

やだなぁ・・・忘れたつもりだったのに。




ふと無駄に大きい窓の外を見ると、少しだけ欠けた月が不気味に光っていた。

あと少しで満ちる月。明日くらいには満月になるかな。




























     満ちる月の日

   

        僕らのアリスが帰ってくる日



       ああアリス








        早く逢いたい

































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