1 少年は異世界へ
"お前は父上、そして母上から愛されてなどいなかったのだよ"
"その醜い顔を、誰が愛せるというのだ"
"お前は一生疎まれながら生き続けるといい"
"――その呪いは、生涯解けることはないだろう!"
"なんとおぞましい"
"悪魔の子だ"
"近寄るな"
"火炙りにしろ"
あの男さえ居なければ。俺に呪いを掛けたあいつさえいなければ。
俺の復讐相手は一人だった。しかし、日が経つにつれターゲットはこの村の住人達になっていた。
顔が他人と少し違うだけで、まるで醜悪で、おぞましい何者かを見るような目つきをする奴等全員に、憤怒の炎が燃え上がった。
絶対に許さない。全員残らず殺してやる。
俺を縛り付けて石を投げ付けた奴等、俺の家族を取り込んで居場所を奪ったあの男、それを嗤いながら嘲った子供達。
一人残らず殺してやる。
そう心に決めた翌日、恐ろしく大きな地震が起こり、村は全壊した。奇跡的に生き延びた俺は、阿鼻叫喚のこの村を見てほくそ笑む。
「ざまあみろ」
意識せずとも上がる口角にまた愉快な気持ちになっていると、誰かのうめき声がどこからか聞こえる。視線を下げれば、瓦礫の下敷きとなった住人が、一生懸命手を伸ばしているのが目に入った。
「た、たすけて」
瞬間、顔が一気に強張る。昨日まで虐げられていた俺がいくらわめいても、誰も助けてはくれなかった。反対に、そんな俺が滑稽だ、と笑う始末であった。こいつもその内の一人であったはずだ。
俺は無言でその手を踏み付けた。踵でぐりぐりと圧をかけると、ぱきぱきと手の甲の骨が折れるような、心地よい音が広がる。
「ふふ」
ああ、遂に壊れてしまったのかもしれない。本能的に感じる。かつての俺からは想像もできないだろう。
鈍い悲鳴も、しばらくすれば潰えるものだ。最後に大きく痙攣したかと思えば、その後一切動かなくなった。
俺は感謝した。初めて神に感謝を捧げた。
地震で崩れた教会の前に跪き、手を組んで主に祈る。
「国と力と栄光は、永遠にあなたのものです」
アーメン、と言い終わると同時に、折れた十字架に影がさした。頭を上げれば、目に入ったのは無表情で、何処か神秘的な雰囲気を醸し出した男。警戒心を全面に出すと、その男はおもむろに口を開いた。
「随分熱心な少年だな」
それにしても酷い有様だ、と続ける男に、俺は立ち上がって後ずさる。そうしなければいけない気がしたからだ。
「まあ少年。……いや、"ナノくん"と言った方が良いのだろうか」
「何故俺の名を知っている」
何者なのだ、こいつは。何処から来たのだ。目的は何だ。
「僕はギャラクシアと言います。異世界から来ました。君を雇うためにね」
「……雇う?」
心を読んだこと、異世界から来たとかいう非現実的な発言にも突っ込みを入れたかったのは山々だが、聞くだけ無駄と考える。俺には到底理解できない次元の話だろうから。
「……そう、だから僕についてきてくれるかい。言っておくけど……ナノくんに拒否権は無いからね」
怪しい笑みを男――ギャラクシアが浮かべたかと思えば、肩に手を置かれた。そこまでは覚えている。
次に目が覚めたのは、俺の想像を遥か超えた街だった。