カナンと視線
――最近、妙な視線を感じる。
カナンは後ろを振り返った。
何もいない。気のせいだったのか。
……だけど近頃感じる視線は気のせいではないと思う。
時々、視界の隅に黒っぽいものが見えることがある。視線を向けると何もないのだが、絶対、気のせいではない。
カナンは足を早めた。妙な視線が気になって、苛立っていた。
それに最近、獲物の掛かりが悪い。
まだ冬はきていないというのに、罠に掛かる獲物が極端に減っている。
イライラしながら歩いていたのが悪かったのか、カナンは木の根に足を取られて転んでしまった。
(ついてない……)
カナンはため息を吐いて立ち上がった。途端に足首に痛みが走る。
「いた……っ」
カナンはその場に蹲った。まったく、ついてない。
その時、またあの視線を感じた。
カナンが気付かないふりをして蹲っていると、何かの気配がそろりそろりと近付いて来た。
カナンがバッと振り返ると、そこには慌てて逃げる黒い影が。
しかし、今度はその正体が分かった。
(ドラゴン……?)
数日前、罠に掛かっていたドラゴンの姿によく似ていた。
いつもの視線はあのドラゴンのものなのか……?
しかし、小型のドラゴンが人間を襲うなんて聞いたことがないし、それに襲うつもりならとっくに襲われているだろう。
いったい、あのドラゴンは何のつもりでカナンを見ていたのか。
足首の痛みも忘れて、彼女は首を捻った。
その視線の先の木の陰から、黒いものがこちらを覗いているのが見えた。