カナンと求愛
「あの贈り物はお詫びってこと?」
「違う。食べ物を贈るのは竜族の求愛行動だ」
「もしも私が受け取らなかったら?」
「受け取るまで続けた」
「……」
それは嫌がらせだろうとカナンは思った。
しかし、そもそもなぜラトが自分を見初めたのか分からない。
「なんで、私が良かったの?」
「初めて見た時に、おまえが番だと分かった」
「見ただけで分かるものなの?」
「分かる」
ラトは胸を張って答えた。
竜族の勘というやつだろうかと、カナンは納得した。
「でも、間違えることもあるんじゃない?」
「そんなことはない!」
「絶対?」
「絶対だ!」
そこまで言い切られてしまっては、返す言葉がない。
とにかく、ラトをここに引き止めようと、カナンは考えを巡らせた。
「ラト。とりあえず今日のところは家に泊まっていってよ」
「……竜珠を渡してからでないと、オリオルに行きたくないか?」
「……うん。不安だからね」
「そうか……。じゃあ今夜、竜珠をやる」
「え!? そんなに急がなくても……」
「駄目だ。ここに居たら、おまえは人間の男に求愛されるだろう」
「何言ってんの。人間の男は私になんて興味ないよ」
「……おまえが気付いてないだけだ」
そう言われても、カナンには心当たりはまるでなかった。
村の少年たちが話しかけてくるようになったことは、カナンにとっては求愛とは関係ないことだだった。
両親が死んでから、会話するのは町に行った時ばかりで、村の人たちからの好意というものにはカナンはひどく鈍感になっていたのだ。
――その後、カナンはラトの滞在期間を三日に延ばすことには成功したが、それ以上は無理だったので諦めた。
こうしてカナンは、突然決まった嫁入りの準備に追われることになるのだった。




