思い出した
話を聞いたイルは、しばらく考え込んでいた。下を見て、上を向いて、口をへの字に歪める。下げられるだけ口の端を下げて、ん~~~と声を伸ばした。
「分からないなあ~。」
トオルが湯呑みで水を飲んでいる様子を観察し、自分の前にあるミルクピッチャーに手を伸ばす。両手でんっしょ、と持ち上げて口をつけた。鍋で水を飲んでいるかのようだ。
すぐに口を離し、ミルクピッチャーを置く。
「とにかく、その、事故? 大きな車にぶつかった、んですよね。そこがポイントかな。」
顎を手の甲で拭いながら、ふうと息を吐く。しかし、その後も首をかしげている。
トオルはその様子を眺めつつ、机に肘をついた。
「しかし、普通なら死んでいるよな……。運が良くても重症だ。」
体の浮いた瞬間の感覚が、うっすらと蘇る。何が起きたかサッパリ分からないあの時の、衝撃。
イルはトオルの表情を見上げていた。
「ふーん、そういうものなんですね。」
確認するように、ゆっくりと言葉を続ける。
「事故で、世界のスイッチが入ったりとかはしない?」
「ない。そのスイッチがあるのかなんなのか理解できないが。多分、そういった事は、ない。」
即座に否定しつつ、トオルは意味を汲んで首を横に振った。
「大型の車と人間がぶつかったら……。」
実感が湧かないが、そこまで口にしてぞっとした。身震いを1つして、唐突に気付いた。
「そういえば、石。あの時になくなったな。」
自分の右手の平を広げてみる。信号の変わるのを待つ間、眺めていた赤い石。ただの石ではないと直感で仕入れたものの、どのような物だったのかも分からず仕舞いだ。
「石?」
イルが身を乗り出している。あの時に石を持っていたのだと、トオルは身振りを交えた。大きさと形を示し、月のような模様のあった赤い石だと付け加える。
間が開く。イルの目線が揺らぎ、トオルの指を追う。目を閉じる。眉間に皺を寄せる。
ぱっとまぶたを開いた。
「それ、それがきっかけなのかも!」
背中の羽もぱっと開き、飛び跳ねた。すぐに体の動きを止め、腕組みをする。口の中でぶつぶつと呟き始めた。
「……でも、だとしたらどうしてアレが……それに、そうそう開いたりしないはず……。」
トオルの視線に気付いて、チラと上を見る。イルはまた、その場に座った。
「んん、多分その石。あっちの世界のモノです。モノというか、鍵というか。なんでこっちにあったのかはわかんないんですけど。」
ふう、と一息はさむ。
「僕達も、多分、それを探していた。」