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月燃金  作者: 下町
5/10

本日はカレー

 トオルはスーパーの中を歩いていた。青果売り場で、ニンジンを手に持って歩いている。ジャガイモの並ぶ棚の前で、足を止めた。

「男爵で良いか……。」

手を出しかけた横から、細い腕が伸びる。すぐ隣の棚から、2つジャガイモを拾い上げた。

「今日のカレーにはメークインや。」

腕にかけた籠に、ナツはころりと芋を転がした。トオルからニンジンを受け取り、それも入れる。口元で笑み、ナツはトオルを見上げた。

 籠の中には野菜だけでなく角切り肉、カレールウとカレー粉が入っている。

 本日はナツが休みなので、昼食にカレーを作る事になったのだった。


 トオルは籠の持ち手を掴み、ナツから取り上げた。身軽になったナツは何も言わず、空になった腕を腰の後ろで組む。軽やかに足を進め、次の売り場を眺めた。背中で豊かな髪がふんわりユラユラと揺れている。


 カレーの材料とトッピングに使うらしいチーズ類、それとちょっとしたお菓子を購入し歩いて帰る。

 午前の爽やかな空気の中を歩くのは、トオルにとって妙な気分だった。仕事をするようになって、午前中というのは大体寝ているか屋内に居る時間となっていた。午後か、夕方辺りに動き出すのが日常である。それが、今朝はナツに起こされて買い物に連れ出されたのだった。

 平日の昼前でも意外と人通りがあるのだな、とトオルは周りの様子を眺める。

 特に意識をしなければ、辺りを歩く人々がおかしいとは感じない。普通に通り過ぎる、日常的な風景だと思える。頭髪や、よく見れば瞳の色がカラフルなのはむしろ今まで通りなのではないだろうか? おかしいと思うのは自分だけで、ただそんな気がしている感覚に囚われているのではないだろうか。

 トオルは首を横に振った。ふうーと細長く、息を吐き出す。

「何か変だが、まぁこれはこれでスルーできるような気がしてきた。」

ぼそりと呟いて、考えにふけっている内に後ろの方を歩いていたナツを振り返った。ナツは商店街のショーウィンドウを眺めながら歩いてきている。トオルが待っているのに気付き、軽く駆け足で追いついた。

「いつの間にか、あそこの店で手作りグッズ置いててん。可愛いストラップあったんや。」

後方を指差しながら、トオルの腕に自分の腕をひっかける。

「欲しいのがあったのか?」

トオルの質問に、ナツは頭を横に振った。

「ううん、可愛いなーと思っただけ。」

あはは、と小さく声を漏らして笑った。シャボン玉の弾けたような、無邪気な笑顔だった。

 店の並ぶ通りを抜けて横断歩道を渡り、路地に入ればトオルの店に着く。ナツは両腕でトオルの左腕を抱え、トオルは反対の手に買い物袋をぶら下げている。足並みを揃えて、2人は平穏な帰り道を歩いた。

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