つまりどういう事なのか
長らく放置してすみません……。1年以上書きかけのままでした。
店の奥の部屋で、トオルとナツは確認していた。トオルは髪と目の色に加えて、顔立ちが以前と若干変わっている。しかし、ナツは髪と眼の色以外には特に変化ない様子だった。体型も、胸の豊かさも変わりない。
「うん、ナツに異変は感じられない。」
「……ちょっ、そんな触ったら……。」
ナツが顔を赤くして身をよじる。トオルは手の平でナツの胸を撫でていた。指先で揉んでみる。柔らかくて程よい弾力がある。トオルにとって、手に馴染みのある感触だ。
トオルはぺろりとナツの口元を舐めた。
「可愛いな、ナツは。」
ナツは口先を尖らせた。
「ん、もう。」
トオルを見上げる瞳が、不意に何かに気付いた様子を見せた。トオルにもたれかけた体が、一度動きを止める。
「トオル、牙が吸血鬼みたい思ったんやけど、それだけじゃなくて……眼鏡どうしたん? あの胡散臭い眼鏡。」
反射的に、トオルは自分の顔に触れた。目と目の間に指先を這わせ、肩透かしを食ったような感覚を味わう。そういえば眼鏡をかけていない。近視の上に乱視で、眼鏡なしではよく見えなかったはずなのに。
思い当たる場所がない。眼鏡をどこに置いたのか。
店の方から、声が聞こえた。来客だ。
トオルは立ち上がり、考えを中断する。ナツはその様子を座ったまま眺めている。
雑然と物が佇む店内で、中年の男が手頃な商品を眺めていた。時々やってくる客だと、トオルは相手を確認した。相手もトオルが出てきた事を察し、普段と変わらぬ様子で2、3品物を買ってゆく。
トオルの顔を見ても、特に何事かに気付いた気配もない。
商売が片付くと、トオルはナツの居る奥の部屋へ戻った。
「お客さん?」
トオルを見上げて、ナツが尋ねる。トオルは頷いた。
「ああ。俺達だけじゃないな……。」
ぼんやりとした呟きに、ナツは首を傾げた。その顔を見つつ、トオルはもう一度頷いて見せた。
「外見が変わった事に気付いてない。多分。」
ぽん、とナツは手を打つ。その動きに合わせて、前髪が揺れた。
「ああ、トオルの顔について何も言わんかったね。」
「そうだ。ここに来た時のナツも気付かなかったろ?」
こくりとナツの頭が動くのを横目に、トオルは自分の顎に親指を当てた。軽く押さえながら部屋の中に視線を泳がせる。古びた襖の波模様を見るともなく眺めた。
眼鏡がない。そういえば赤い石もなくなったままだ。どこへいったんだろう。店の中を探しても、見付からない気がする。
数年来、眼鏡はかけていたが。現在よく見えているのでなくとも問題はない。顔も髪の色も変わったので、視力が変わったのも別段疑問はない。考えてみれば目や髪の色が突然変わるのも、それが町を歩く多くの人がそうであるのも、そしてその事について違和感を抱かないのも全てがおかしいのではあるが。