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月燃金  作者: 下町
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月が燃えた金曜日

 赤い石。拳よりも若干大きい。透き通った中に、白い模様が浮いている。丸いようだが、真円ではない。満月よりも数日痩せた月のような形だ。

 そう、クリスタルにレーザー彫刻を施したキーホルダー。あれを彷彿とさせる。透き通った石の中に模様を彫りつけた、あれだ。手の中の石は透明ではなく、赤いのだが。

「くれぐれも、扱いには注意を払ってくださいよ。」

これを渡しながら、骨董屋は確かそんな事を言っていた。


 トオルは歩きながら、しばらく眺めていたその石を懐にしまった。上着の内ポケットには少しばかり大きかったようだが、押し込んだらどうにか収まった。

 既に暗く、空に月が浮かんでいる。何気なく上空を見上げて、先ほどまで見ていた石の中にある月と似た形だと改めて気付いた。白っぽい月明かりが広がり、雲の黒い模様を浮かび上がらせている。地上に灯る数々の明かりの中から眺めているというのに、空の模様が判る。

 商品の仕入れ先、時折訪ねる胡散臭い店からの帰りだった。トオルの商っている古物屋も大概胡散臭いのではあるが。たまに胡散臭い人間が出入りして、怪しい壺や掛け軸などを買っていく。そういった所へのおあつらえ向きの商品を仕入れに行くのである。

 交差点で立ち止まる。仕事用にかけていた、丸い眼鏡を一度外した。ポケットに入れてあったハンカチを取り出し、無造作に拭く。信号はまだ変わりそうにない。車が風を切る音を幾重にも響かせながら、目前を掠めてゆく。

 眼鏡を拭きながらもう一度、空を見上げてみる。眼鏡を外せば、月が二重にも三重にもぶれて見える。ハンカチをポケットに戻し、眼鏡を通して月を見た。今度ははっきりと見える。眼鏡の縁の両脇をつまみ、しっかりとかけた。そろそろ信号が変わりそうだ。

 歩行者信号が青になる直前に、足を踏み出した。特に急いでいるというわけでもないのだが、早めに進んでしまう方だった。


 耳をつんざく音。身を切り裂くような鋭い音と共に、ひどい衝撃がトオルを飛ばした。あっと思う間もなく、視界は覆われていた。何だろうか、黒く輝く壁に。体が浮いたと気付く前に、どさりと落ちた。

 胴が熱い。体どころか、顔も動かない。視界の横の方に止まっているのは、トラックか。

 真正面、真上に月が見えた。


 赤い。月が、燃えている……。


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