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プラニエの終章

「リツカさんっ!」

 聞こえたと思うのだけど、船上のリツカさんは私を一瞥しただけで応えてはくれなかった。そうだよね。まだ戦いは続いているものね。

 でも、少しだけわがまま。そっと呟く。

「爺や、リックをお願いね」

 返事は待たない。今の私には心配なんて許されないから。

「ルードロン! ブロージ殿! 生きておるかッ!」

 気持ちを切り替えて声を張り上げる。

「ここにッ!」

「おうよッ!」

 頼もしいふたりの戦士が駆け寄った。ふたりとも血塗れ泥塗れずぶ濡れだけど、動きも声音も力強い。

「兵を集めよ! 今一度突撃を図り、敵を追い討つ!」

 敵も味方も、もはや半数が戦えない。見たところ、七十対三千といったところだと思う。でも、敵は潰走してる。空には三月のウサギ号。再起される前なら討てる。

 それに、困難を振り払って助けに来てくれたリツカさんたちの想いにも応えたい。騎士として応えなければならない。あとはお任せじゃあ駄目に決まってる。

 避けた帆布、焦げ付いた船体――傷ついた三月のウサギ号を見れば、どれほど過酷な道程だったかなんてわかるのだから。

「しかし、プラニエ様! あの砲撃です!」

 今も砲声が轟き、砲弾が容赦なく敵を裂く。

「邪魔になりますし危険なのでは?」

 ルードロンともあろう者が何を。思わぬ援軍の登場で心が揺らいじゃったのかな? 大丈夫。大将の私が率いてあげるから。

「操船の癖も砲撃の癖も余はまだ覚えておるぞ?」

 どちらも高度な算術に基づくから細かいことはわからない。でも、あの船で覚えたのは、もっともっと大切なもの。

 信頼。

「それに、我らが多少へまをしたところで、三月のウサギ号ならなんとかしてくれる……そうだろう?」

 血風の傭兵団も三月のウサギ号への乗船経験がある。私の軍のふたりの副将は笑顔さえ浮かべて応じてくれた。

「我が君の仰せの通りに」

「馬鹿、あなたの主君は父上でしょ」

 おどけて傅くルードロンに、私もまたおどけて応えた。わかってる。これもまた、彼の私に対する大切なもの。

 信頼。

「さぁ! 戦列を組み直すのだ! 三月のウサギ号に遅れを取ってしまうぞ!」

「ははッ!」

 さすがは敗北必須の戦いに臨んだ者たち。雨に打たれ、砲声轟く中、すぐさま力強い戦列を組んで見せた。

 誰も彼もが血に塗れ、泥に塗れている。これぞ戦士の誇り。

 雨で重くなった旗――クロンヌヴィル侯爵ランサミュラン=ブリュシモール家の旗印を掲げる。ヴァンサン平野で、南方洋の船上で、ルヴィシーの丘で、この旗が翻ったことは歴史に刻まれるだろう。

 そんな大役をいま私が果たせるのは、戦友のおかげ。仲間のおかげ。そして、リツカさんのおかげ。

 だからこそ、歩みを止めたりはしない。

「総員突撃ッ! 我に続けェ!」

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