第一節 エルヌコンス西部戦況
ヴァンサン平野の会戦からおよそ二ヶ月――
時に開闢暦二九九七年地牛節。
当初、兵力十万で健軍された西方同盟巡礼軍も同盟各国から続々と集結した援軍により、今や総兵力公称二十四万に至っていた。
初戦で主力である騎兵を失った巡礼軍先鋒兵団もその傷を癒し、虎視眈々とエルヌコンス王都コンセーヴを狙う。
だが、彼らの歩みを阻む遊撃戦力があった。
エルヌコンスの私掠船。空飛ぶガレオン。三月のウサギ号である。
同船の活躍により、南方洋沿岸の海上輸送路――後年で言うところのシーレーンは徐々にだが、確実に脅かされ、巡礼軍はコンセーヴへ攻城戦を仕掛けるための物資にも困る有様であった。
一方、巡礼軍本営はそのような緩やかな膠着状態を脱すべく新たな作戦を決行した。
すなわち、王都コンセーヴへの強攻である。
文字だけならば無謀にも思える作戦だが、進軍する巡礼軍を見た者ならば彼らの勝利を確信したに違いない。
なぜなら、その陣容は先鋒兵団に後方の本隊が加わったおよそ十八万の大軍であったからだ。
これには王都のエルヌコンス軍も驚愕した。迎撃か、籠城か。若き王が判断するには酷なほどの大軍である。
なにせ、二ヶ月前は十万の敵に殲滅されかかったのだ。
王から一兵卒に至るまでが蒼い顔で武具を纏い、王都の民は荷車に家財道具を積み始めた。
時に開闢暦二九九七年地牛節下旬。
季節は春から、熱気溢れる夏へと移り変わろうとしていた。
※誤字を修正しました。




