第三節 僕の策でいきます?
「皆さん、敵に対する僕らの強みってわかってます?」
用兵指南役って軍師みたいなもんだから、ちょっと教師じみた役割も演じておこっと。聖地サントゥアンまでの征途は長いし、ここらでちゃんとこの戦争について理解しておいてもらわないと。馬鹿は馬鹿なりにがんばってもらいたいもん。
「大神の加護と信仰心だ」
えっ、おじさん本気で言ってる? ねぇ、本気で言ってるの? ねぇねぇ?
「さらに付け加えるならば、圧倒的な兵力です」
僕が危うくユルノーラング大公を指差して笑いそうになったところで、ゾーフィーヌ主教がその妖艶な唇で正解を口にした。
それにしても、この女、本当は信仰心とかないでしょ? 今もユルノーラング大公のこと、小馬鹿にした感じだったし。
「そう、正解は兵力ですよ」
僕は頭の中に世界地図入ってるからいいけど、彼らはどうか知らないから、机の上に地図を広げてあげる。なんて優しいんだろう、僕。
「アンプロモージからエルヌコンス領に侵攻した先鋒兵団だけでも、エルヌコンス軍のおよそ倍。ドケルサントで待機中の北部兵団と僕ら本隊を合わせたら、兵力比はもうエルヌコンスの四倍にもなっちゃいます」
時が来たら北部兵団がレアンサブラン王国にもガツンと侵攻する。おそらく回廊諸国が団結することなんかないんだろうけど、それもこの一手で完全に潰せる。回廊で一番大きなレユニース王国なんかビビって神聖同盟に加わるかも知れない。
とにもかくにも、それだけの兵力を僕らは有してる。
「つまり、どんな下手くそな戦争しても、基本的に僕らは勝つんですよ」
あっ! いま、ユルノーラング大公が「なに当たり前なこと言ってんだ、コイツ。馬鹿じゃないか?」って顔した。別に、馬鹿に馬鹿にされても僕は気にしないもんね。
構わず講義を続けよう。
「でも、もし、輸送船をまとめて運用なんかして、それが一度にほとんど沈められたらどうなっちゃいます? さすがにわかってますよね? 兵站の重要性くらい」
大兵力の欠点は大飯喰らいってこと。腹が減ってはなんとやら、なんて言い出す騎士や兵士が何万といるんだから当然だよね。
「だから、分散したんですよ、輸送船は。十割を諦めても八割は維持できてるんです。兵隊も馬も飢え死にはしない」
「しかし、それでは攻城戦には不十分ではないか」
言うと思ったよ、大公殿下。
「神聖同盟の誇る巡礼軍は八割の補給じゃコンセーヴを落とせない、ってことです?」
「貴公、前線の騎士を愚弄しておるのか?」
怖い怖い、おじさん怖いってばぁ。
「やだなぁ……だーからさっきっから言ってるじゃないですかぁ」
まだわからないの? 馬鹿なの? 殉教しちゃうの?
「兵力ですよ、兵力」
なんで兵力が多いと戦いに勝てるかわかってないとか、何なんだよぅ。そっちは騎士っていう戦争の専門家なんでしょ?
「不十分でいいんですってば。その分、被害が増えたりするでしょうけど、戦果は想定通り。コンセーヴは早々に落ちる。そうでしょ?」
あっ! いまみんなして嫌な顔した!
ちょっとちょっと! 僕はみんな戦争してるんだと思ってたけど違うの? 僕だけ? 僕ひとりだけで「戦争」してたの? 違うでしょ?
「そんな嫌な顔しないでくださいよぅ。僕たちは戦争してるんですから」
「いえ、これは聖戦です」
まぁた、そんな建前言っちゃって。ゾーフィーヌ主教も可愛いとこあるよね。ちょっと、っていうか、かなりケバいけどさ。
「聖戦でも戦争でもいいですけどぉ……敵と僕らが互いに犠牲を出し合い、耐えられなくなった方が負けるっていうルールは同じですからね?」
そう、これが戦争の絶対的なルールなんだ。それこそ、大神が定めた掟と言ったっていい。僕は無神論者だけどね。
勝利を計上して勝敗を決めるなんて素人の考えもいいところ。実際には犠牲――死者を計上して敗者を決めるものなんだもん。
仮に、どんなに勝利を重ねたって兵も民も全滅したら敗北でしょ? とても単純な話でしょ?
「どれだけ犠牲を出しても帝国とか他国が介入する前にエルヌコンスを落とす。それが許される兵力を僕たちは持っているんですからね?」
しーんってしちゃった。
でも、さすがにわかってくれたよね? 僕たちはお祈りでも騎士道ごっこでもなく、戦争をしてるんだってことを。
「どうです? 僕は大主教猊下に正式に提案できますよ? この考えに基づいた、もっとも勝利に近く、敗北し難い策が僕にはありますからね」
僕はフレンドルツ王にこれを期待されて用兵指南役をやらされてる。
「僕の策でいきます?」
みんな苦い顔してたけど、異論は出なかった。
「……具体的な話を聞かせてもらおうか、サリーデス男爵」
そういう素直なところ加算五点だよ、大公殿下。
※作中に倣い、地図を掲載しました。




