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遥かなるかな空と海 第一部  作者: 嘉野 令
第四章 西方同盟巡礼軍
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第一節 所詮は賊

「西方同盟に雇われし船乗りたちよ!」

 凛とした呼び声が船上に響き渡る。

「命惜しくば降伏せよ!」

 この三週間で五隻目ともなれば、プラニエも慣れたもので。

「貴公らの安全は我が家名とウサギの海賊旗にかけて万神の元に誓おう!」

 今やすっかり大将っぷりが板についてきた。

 ま、うちもあっちも腕っ節だけは一流だから、あの子自ら手を汚すような事態になってないのは幸いっちゃ幸いか。騎士気取りの彼女は不満なんだろうけど。

 あんな女の子が返り血浴びるようなことになったら、さすがのあたしも寝覚め悪い。そこら辺は侍従の爺さんも騎士たちもなんとなく配慮してるようで。

 そうこうするうち、獲物の旗がするすると降ろされる。先月下旬からの三週間でキャラック三隻、キャラベル二隻――

 ちょっとやり過ぎたか。

 正直、うちの儲けとしては充分なんだけど。むしろ、ハイペース過ぎるくらいなわけで。たとえば、これを帝国沿岸でやらかしたら、南方組合の制止も聞かず帝国海軍が動員されるようなレベル。

 プラニエの熱気に当てられたか。

 あたしとしたことが、この戦争に本気で勝とうとしてた。エルヌコンス王国が西方同盟に蹂躙されるのなんか、火を見るより明らかなのに。

 エルヌコンスにとってヴァンサン平野に投入した六万が全戦力で、欠けることはあっても増えることはない。

 一方、西方同盟巡礼軍は先鋒だけで十万。後方の本隊は日に日に増強されてる。たとえ、一回や二回の会戦で勝ったところでどうにもならない。

 あたしがエルヌコンスの私掠免許を得たのは、何も彼らに勝算があると踏んだ訳じゃない。この稼業、勝ち馬に乗ったって儲けが少ないからに他ならない。

 結果、エルヌコンスが負けて免許が失効したって、別に損はない。今までと同じように海賊稼業を続ければいい。うまくいけば敗戦間際の大盤振る舞いにありつけるかも知れないし。帝国や組合の商船をこっそり襲うより断然お得。

 だから、私掠船なわけで。

 全力で戦争に協力したってしょうがない。むしろ、西方同盟を本気にさせて、クレンヘルゲルの空飛ぶ艦隊が動員されたりしたら命が危うい。

 誰かさんたちとは違って、あたしたちはエルヌコンスなんかと心中するつもりはない。

「そろそろ危険、か……」

 海風があたしの呟きを攫う。

 確かに、まだクレンヘルゲル艦隊が来援するまで時間はある。西方統一戦争は泥沼に嵌ってるし、あっちから戦力引き抜いて南方洋に回航するのはまだ先になる。

 とはいえ、あたしたち三月のウサギ号の存在を、巡礼軍本営はもう感知してるでしょうね。

 兵站が限界を迎える前に、あたしたちを排除する必要を感じてるはず。それだけの被害を与えてきたのだから、それは当然。

 巡礼軍の総大将はヴェーゲ大主教だけど、よぼよぼの坊主が指揮執ってるわけじゃない。輸送船の運用を見るに、そこそこの頭を持った軍師がいるはず。

 そいつはどんな手であたしたちを落としにかかる?

 空飛ぶ船を持つ海賊を雇う? あの狂信者共が異教徒を雇うことはないか。

 飛龍兵の大量投入? ガレオン落とすだけの飛龍兵をすぐに用意できるとも思えない。

 焼き討ち気球? なくはないけど、こちらの動きを完璧に読む必要があるし。

「なんにせよ、何もしないなんて選択肢はないはず」

 このままじゃ、巡礼軍の進軍は鈍る。さらに、彼らの次の目標は王都コンセーヴ。仮にも王城と城壁を持つ都への攻城戦。物資も準備も存分に欲しかろう。

 もたもたしてれば、どっから援軍が現れるかわからない。レユニースを始めとする回廊諸国なり東方帝国なりが参戦すれば、同盟の有利は変わらないものの確実にバランスは崩れる。

 ま、あたしはどこからも援軍なんて来ないと思ってるけどね。だとしても、奴らはそれが怖いはず。そして、そんな事態を引き起こせるのはエルヌコンス軍じゃない。

 うちの船――三月のウサギ号しかない。

「悪いけど、こっちは逃げの一手で充分なわけで」

 そう、それがこっちの強み。あたしたちは騎士じゃない。軍隊でもない。強敵が現れたら逃げてしまえばいい。無理せずとんずら。

 あたしたち、所詮は賊だし。

 海賊と騎士が獲物から続々と引き上げてくる。一団の中心にはプラニエ。ベリスカージとルードロンなんか肩くんでやがる。すっかり、仲良くなっちゃって。

「リツカさーん!」

 さっきの降伏勧告が嘘みたいな無邪気な呼び声。

 いざ逃げるとなったら、この子、どんな顔するんだろ? どんな声出すんだろ?

「うん? どうか、しました?」

 あたしの視線に首を傾げるお姫様。

「別に」

 所詮は賊、正直である必要もない。

「なんでもない」

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