堅パンとヴェリオニ風エンドウ豆のスープ
あたしは基本的に朝が苦手。血圧も低いし、血糖値も足りてない。夜更かしはいつものことだから起きるのが辛い。冷え性で手先も足先も感覚が怪しくなるほど冷たいし。
そのうえ、昨日の戦闘からこっち海の上だから船酔いが酷い。空の上にいる間に忘れてたあの強烈な不快感が戻ってきた。
さらに言えば、いや、男所帯の船内じゃ口に出して言わないけど、つきのものが近いのか、なんか、だるい。
でも、悔しいかな、今朝は気分だけはいい。
いつもだったら食欲とかないのに、目の前に並べられた朝食も、なんとなくおいしそうに思える。
メニューは堅パンと暖かいエンドウ豆のスープ。船員連中はもっと粗末なもの食べさせられてるけど、ラッキも彼らもあたしにはなるべくいいものを食べさせようとする。
普通、船長はさらにいいもの食べるらしいけど、別にあたし、食に興味がない。下戸だから、船乗りが大好きなラムも麦酒も葡萄酒もいらない。
毎日毎食堅パンだけでもいいんだけど、健康がどーの、痩せすぎでどーのとか言われて、何かと食べさせられる。あたしの食事に関してだけは、ベリスカージもラッキもフォルシも口を揃えていいもの食べろという。なんなの、あいつら。
今朝も、暖かいスープが並んでるのは、下手すると歯が欠けるくらいの堅パンを食べやすくする配慮なのだろう。それくらいの気配りができるなら、ラッキの野郎は口を閉じることを覚えればいいものを。
「船長、今日のスープの味、どうッスか?」
自信でもあるのか、ラッキはいつものうざさで訊いてきた。ただ、今朝のあたしはすこぶる機嫌がいい。
「まあまあじゃない」
褒めてやった。いつもなら、「知らない」って答えるか、無言。
「へへっ! 俺の故郷の料理は食べると恋に落ちるって評判なんスよ!」
ほら、来た。ちょっと褒めるとすぐこれだ。うざい。
「うるさい、黙れ」
「ちぇー! 船長、よーやっとデレたと思ったのになぁ」
デレってなんだ、デレって。くそが。
「いやー、船長! 俺って男も結構アリだと思うんスよね!」
「知るか」
海賊相手はないって決めてんの、こっちは。そうじゃなくても、お前だけはない。
「食わず嫌いはよくないッスよ!」
確かにそれは一理ある。食わず嫌いはよくない。スープも、人も。
「それは、そうね」
どんなに嫌いでも、一度話してみるもんだって、思った。
「うひょ! じゃあ、いよいよ俺と? 俺との愛を――」
「お前じゃない、黙れ」
だから、あたしは昨夜から気分がいい。




