FILE3 ドS剣士と、プチ推理。 ~part3~
「今ここで」という部分を特に強調して、俺は言った。加えて薬指も立てる。
少女は訳が分からないという風に、首をかしげてみせた。
本当に気付いてないのか、お前・・・
少々呆れながら、俺は口を開く。
「その三。お前の真後ろに、『笑顔の』エリザベートさんが立っている」
少女は、ひっと小さく悲鳴を上げ、みるみる顔を青ざめていった。少し身体も震えている。
ギギギ、と油を差していないロボットのように、彼女はゆっくりと首を動かし後ろを見た。
そこには、魔王もビックリの、素晴らしく禍々しい気を放った、冷たく眼鏡を光らせる成人女性が、立っていた。彼女がエリザベートさんだ。
顔は、笑っている。確かに笑っているが、何というか、目が笑っていないような気がする。
「・・・お嬢様」
「な、何ですの? エリザベート先生?」
彼女は貴族らしい笑みを返す。ただし、右頬がピクピクと痙攣しているのを、俺は見逃さなかった。
「この前のテストの結果、いかがでした?」
ギクリ。
いや、別にそういう音がしたのではないが、彼女には今、この効果音が一番似合うな、と思った。
先にも確かに青くなった彼女の顔が、さらにまた青さを増す。人間はここまで青くなれるのかと、驚いた。
「あ、えーっと、まだ返ってきてないような・・・」
「昨日、返ってきましたよ」
彼女の声にかぶせて、俺は言ってやった。彼女の、あの、「裏切ったな!」という顔も、もちろん頭にインプット済みだ。
というか、別に何も裏切ってないのに、どうして「裏切る」事になるのだろうか?ま、今は関係ないけど。
「そう、情報ありがとう、キルア君。さてお嬢様、テストの結果、楽しみですわね」
「そ、そうですわね~・・・」
エリザベートさんの、極上スマイル(脅し風味)が炸裂した。「お嬢様」はというと、こちらも極上スマイル(泣)だった。
「さて、帰って早速答案を見せて下さいませ。そのために一日早めて来たのですから」
やっぱり、俺の推理、的中。
エリザベートさんは、腹を空かせたハイエナが獲物を掴むように、もう一生離す気はないような力で、「お嬢様」のしなやかな腕を鷲掴みにした。
そして、引きずっていった。
「後ろにいるって分かってたなら、早く言ってよおおぉぉぉおっ!!」
半分泣きながら、半分恐怖に怯えながら、彼女は悲痛な叫び声を上げた。
「何で? 俺には関係ないし」
俺はしれっと答える。ちょっぴり、笑いながら。
「この・・・っ! ドS剣士ぃっ!!」
彼女の、怒りと憎しみとその他諸々が詰まった悲痛な叫びは、このアリエスタ国内に響き渡ったことだろう。