7壊目 復讐
【前回までのあらすじ】
『自由』と云う名の剣を失い悲しみに暮れるキュロット。しかし宇宙で戦っている姫を救うために奮起した。辿り着いた『永遠』には新たな剣が。
姫を救ったキュロットは、もう一人の少女を救うため再び地球に……。
〈次回 天空のキュロット〉
紬
「二股を、正当化しろ。 キュロット!」
…………。なんだこりゃぁぁぁぁあああああああああっ!!
前回の話と一ミリも擦ってないし、次回予告とその題名と最後の台詞はまずいって。
ボクはとにかくローブの人物に目を向けた。
「姉さん! こんなことは、もう止めるんだっ!」
「…………」
「何か答えてよ!」
しかしボクの叫びは姉さんには届かない。
「止せ。無駄だ。今のあいつは紬ではない」
なぜか無駄に声だけ格好いい柴犬がしゃしゃりでた。しかも事情に詳しい。もしかしてレギュラー?
「私はルダ。見ての通り、銀河連邦治安公局やっぱり猫が好き第72師団隊長の特殊戦闘用柴犬だ」
「いやいや見た目じゃ分からないよ。それに『やっぱり猫が好き』って……」
「交尾には最適さ」
「いつか苦情がきちゃうよ!」
3番目の台詞だけ、いやに爽やか口調のルダを嗜める。
ローブの人物を無視していると、背後から物音がした。誰かが倒れたような。
振り向くと、そこには――
「ね、姉さん!?」
紛れもなく紬だった。ボロボロのローブを羽織っている。
地面に突っ伏し、苦しそうに呻く。
「キュ、キュロット……。そいつには……気を付けなさい……」
それだけ言い残し、気絶した。
ボクは息を呑んだ。こいつは、いったい誰なんだ?
その疑問はすぐに解決した。そいつはローブの脱ぎ捨て、あっけなく正体を晒した。
坊っちゃん刈りの少年。間違いなく、二話前まで姉さんのパシリだったソーセキさんだ。
ソーセキを顔を凶悪に歪めて言葉を吐き捨てる。
「お前たちが憎い」
本当、ごもっともな主張だよ。
殺るなら姉さんだけで勘弁♪
ソーセキさんは腰に装備していたライトな剣を抜いた。戦闘態勢だ。
「私が行こう」
ボクは咄嗟に勇敢な者の声の主を目で追った。
ただの柴犬な――えぇーーーー!
柴犬の姿は変化していた。緑色のヨボヨボに。
ソーセキさんと同じくライトな剣を抜き、飛び掛かった。
身体を回転させながら右へ左へと飛び回り斬撃。無駄に大きい動きでソーセキさんを翻弄する。
しかし決着は呆気なかった。ソーセキさんは服の袖からホネを取出し、地面に捨てた。
一瞬にして、柴犬に戻るルダ。尻尾をふりふり、アホ丸出し。
ざっしゅ! ざっしゅ! ざっしゅ! ざっしゅ!
柴犬だけにな効果音でやられた。
「失敗ったわ」
役に立たねぇー! ってかソーセキさん、つえー。
邪悪ソーセキさんが近づいてくる。もうダメだ。
「!?」
そこで気付いた。
背後に倒れていたはずの姉さんが、ソーセキさんの背後に。しかもソーセキさんより邪悪な笑みの浮かぶ顔で。
「あたしが倒れた方が緊張感があると思って」
とことん悪魔な姉さんがケロッと言う。
「なんでボクの首に手を持ってくるの?」
「いや、なんか悪口いわれた気がして」
「お前たちが憎い!」
もはやボロ雑巾にされたソーセキさんが負け犬の遠吠えを。
「ダークサイドなど、そんなモノだ」
それ以上に負け犬だったルダが偉そうに言った。
ボクは彼の処分について迷った。普通なら即刻死刑だけど、今回はボクたちが悪い。
姉さんに目配せをする。
その姉さんは珍しく悲しみの色を全面に出していた。やがて一歩前に出て、口を開いた。
「選ばれし者だった!」
パシリに!? ボクでも反乱するよ。
「さて言いたいことは言ったし……埋める?」
「こいつの身柄は私たちが拘束する」
答えたのはルダだった。
ボクと姉さんが意外に思い視線を送ると、
「これで昇進してハーレムを作るぞ。ビバ、キャットヘブン」
ボクはファンタジー世界に戻り、スコップで埋めた土を叩いて固めた。
「さあ、帰るわよ。キュロット。ソーセキ」
「うん!」
「は、はい」
ソーセキさんから邪気は無くなっていた。自分の世界以外だと従順な犬。
犬か〜。今回の一件で、ボクは確実に学んだものがある。それは『やっぱり猫が好き』ってことだね。
あの、腐れ犬が。