5壊目 ソーセキ死す
巨大人食い花との再戦。
ボクは必死に触手攻撃を避け、新しい剣で反撃する。姉さんは相変わらず、空の人。
やがて巧みに迫る触手を避け切れず、剣が弾かれる。絶対絶命だ。うねうねと数十本ものを動かし、近づいてくる。
「そ、そこまでだ」
思いもよらない援軍が駆け付けてきた。坊っちゃん刈りのソーセキさんだ。
実はアイテムが切れたので、以前から姉さんが鉱山都市までパシらせていたのだ。
「遅いわよ、ソーセキ! さっさと『正義のそろばん』を使いなさい」
「だから埋めようよ! 姉さん」
「それもそうね」
珍しく気味が悪いほど素直な姉さん。
降下してきて、ソーセキさんを殴って気絶させ、穴掘って……。
「って、何やってんの!?」
「え? 左舷の掘り方が甘い?」
うわっ。もう何が『それもそうね』なのか分からないし、この人の存在も分からない。
そこで非常に存在感のある中ボスがいたことを、思い出した。
タンッ! タタンっ!
姉さんが自慢の拳銃で射撃すると、中ボスは断末魔をあげて倒れた。
「すごいや。姉さんって強いんだね?」
「まーね。こういうときのために腕力を鍛えてるのよ」
「銃だよね!?」
「とりあえず、早く埋めなさい」
姉さんはまだソーセキさんを埋める気だ。
埋める意味が分からないしさ。それにもし埋めるなら、
金目の物を根こそぎ頂け。
ボクはシャベルで地面を軽く叩き、程度に土を固める。
「さあ、行くわよ」
姉さんが中ボスを倒した位置に現れていた扉を指差した。
あんな扉、あったかな?
なんだか疑わしいが、入ることにした。
開けると隙間から白い光が漏れ、辺りに拡散していく。意識が薄れ、次にはブラックアウトした。
「うっ……ん……」
瞼を開く。ぼやけた視界が徐々に鮮明となる。
気付くと、そこはファンタジー世界ではなかった。
普通の校舎に、制服姿の生徒。
ボクは立ち上がり、広がる景色を眺めた。ボクの格好も制服に変わっている。
「どうしたの? きゅーくん?」
可愛らしい声が隣から聞こえた。
そちらに顔を向けて、驚いた。
美少女だ。雪のような白い肌に、切れの長い目。茶色の髪を左右で結っている。
「大丈夫? 保健室いく?」
心配なのか、瞳の奥に波紋が浮かぶ。キューくん、とか首を捻りながら何度も言う。
萌えー。
名前を聞きたかったけど、今は冷静にセーブポイントに。
窓から入る微風がボクの前髪を蹴上る。
正面には、にへら、と笑う姉さんが。
「引き込んだんだよね?」
「そうよ。ファンタジー飽きたし」
早っ! まだ三回分だよ!しかも学園恋愛モノっぽい時点で、あの世界は危ない。絶対に何かある。
「あたしはね、もっと格好いいキャラが良かったのよ」
いきなり話題変化。
「例えば?」
「最後は方は裏切ってしまう美少年剣士のような」
「それで正体バレバレの仮面戦士を演じ、裏切ってしまった人物の息子と共に戦うの?」
「そう! 120個ね」
「十ダース」
ボクはその場に寝転がり、穏やかな音色を鳴らす風鈴を見た。
揺れはするも、ボクたちの世界よりは安定している。