2壊目 アイスのような世界
ボクと姉さんは様々な速度の足並みが列を成す、商業地区に来ていた。
ここはボクの世界。
基本的にファンタジーはボクが担当している。
これは属する得意分野で映像などのクオリティが高いとの理由からだ。
因みに姉さんは恋愛(不純に限る)とSF。
「どうしたの? 姉さん」
歩く速度が僅かに遅くなった姉を見る。
姉は額の辺りを手で擦り、頻りに気にしている。
「ねえ、キュロット。ちょっくら絆創膏を買ってきて。大きいのを二つ」
いきなりパシリ扱いだ。
「何で?」
「なんか、おデコに第三の目ができちゃった」
奇想天外♪
「別にハテナのブーメランは飛ばさないけど、気になるし」
バッテンマークの封印を施し、ボク達は歩きだす。
するとまたもや姉さんの歩む速度が鈍りだした。
「キュロット! なんか、なんか生まれる!」
後ろを振り向くと、びっくり仰天。姉さんの額に張ったバッテンマークが角みたいに盛り上がっている。
ついに本性を現したか、悪魔め。
「うああ……。どうしよう」
姉さん、マジで慌ててる。
「そうだ。こんな時はラマーズ法よ。……ヒッヒーブラカタブラ、ハッハーブラカタブラ」
「いやラマーズさんってフランス人だし、そんなエジプトみたいな呪文は言わないでしょ!?」
「もうダメ……。おデコが、おデコが……」
「大丈夫?」
姉の潤む瞳を見て、さすがに心配になってきた。
「キュロット……。助け……プッ、アハハハハハハ!」
そこで姉さんは角を外し、抱腹絶倒。
ボクは報復執行――は出来ない。返り討ちに遭うのがオチだ。
三度、歩きだす。
商業地区を抜けると、前方に広がるのは広大な草原。奥の眺めは山に遮られ、これからの旅路に冒険の匂いを感じさせる。
「うわー、こういうの見ると、かったるいわねー」
「姉さん……、せめてもう少しだけ夢やロマンを求めようよ」
「あんた題名、知ってんの? ってか、分かっているの!?」
ユニバース……何の条件反射?
姉さんはいつの間にか出現した敵を、リボルバー式の拳銃を使ってロマンごと破壊した。
「姉さんのジョブって、何?」
「見て分からない? 魔法使いよ」
奇想天外♪
姉さんの思考には、とてもついていけないのでセーブポイントへ。
チリン、チリン。
風鈴の音がする。
姉さんは麦茶を飲み干すと、プハーッと一息ついた。
「あんたの世界って、ほんとショボショボよね」
「また荒らしといて、そういうこと言う……」
「え? マナ粗探し?」
搾取されちゃえーーー!
ボクは冷蔵庫からカップのアイスを取り出す。
「たまにはボクも姉さんの世界に行きたいよ。SF系統も好きだし……」
「あん? 拷問されるわよ?」
「やっぱりやめとくー♪」
アイスを口に運んでると、珍しく姉さんが溜息を吐いた。
「ねえ、キュロット? あたし達が創造する世界ってアイスみたいなものよね? 作るけど、やがて溶けて無くなってしまう……」
「どうしたの? 急に」
「キュロットは自分の我儘で多くの世界が消えるって、嫌じゃない?」
これまた珍しく真剣な口調だ。
「確かにね。でも創造することによって何らかの意味があると思うよ? 架空だけど人々が幸せな想いをしたり……。だから消えるまで、味わってあげるんだよ。アイスみたいに」
姉さんは考え込む仕草をした後、どこか納得したような笑顔を作った。
「じゃあ、キュロットの世界を存分に味わい尽くさなきゃ。フルセットで消えるまで!」
揺るがない決意を秘めた言い方だ。
うん!
…………ふざけんな。