全壊 ボクたちの明日は……
剣同士が打ち合い、甲高い声を上げる。それは姉弟の心を痛める、悲しき旋律。姉さんの剣の切っ先がボクの頬に擦った。
「本気を出しなさい、キュロット!」
振り下ろされた剣を受け止める。
「いや、姉さん。最終回だからって、裏切るの止めようよ」
冷めた視線を送ったが姉さんは全く意に返さない。
「良く聞きなさい。この世には二通りの人間しかいないの。裏切りが美と、裏切りが徳!」
「世界中、裏切り者だらけじゃん!?」
「それが人だよ、キュロット君」
何か急に口調に変わった!
「裏切り、裏切り、裏切り、また裏切って表になる」
ならない、ならない。
「そんな、それしか知らない姉さんが……」
ボクもノッテりんだ。
「ああ、そうさ。人は己の知ることしか知らん」
新しいクローンが生まれちゃってるよ。
「ついでに自分のことも知らん」
記憶喪失!?
「ついでに言語も計算式も文字すらも全て知らん」
それただのバカだよ!
ボクは剣の軌道を見切り、姉さんの剣を弾き飛ばした。
「まだまだ、これからよ」
懐から得意の自称魔法使い専用装備である拳銃を二挺取出した。
ボクは物陰に隠れ、一息吐いた。
ここは、ある王国の城。RPGで良くありがちな内装をしている。
最後にセーブを取った山を下り、飛行船で世界一周すれば見えてくる場所だ。
なんて説明文してる内に銃撃が止んだ。
ボクは物陰から正面を覗く。見ると姉さんが病んでいた。
「ごほっ……あ、あたしは生れ付きテロメアが短いのよ」
出たー!
「ついでに自分のことも知らん」
「また!?」
ボクは銃を落した姉さんに歩み寄る。
「まだよ。切り札は最後まで取っておくもの……」
姉さんはポケットから、全長5メートル程の、灰色のタンクだった。
四〇元ポ〇ットかよ。
「これで全ては終わる」
姉さんがリモコンを取出し、ボタンを押した。
その瞬間、世界に衝撃が走る。比喩ではない。
「キュロット……。実は、あなたは……」
白い光に飲み込まれ、何もかもが消滅を迎える。逆らうことは許されない。絶対の破滅。
ジェ〇ド並みに気になる台詞だった。
「……姉さん」
「なぁに?」
ボクは机上で執筆を進める姉さんが、どうしても気になった。
もちろん、小説の内容が。
「いや最終回だけ明らかに変でしょ。展開といい結末といい」
「いいのよ。分かりゃしないわよ」
「読者を嘗め過ぎだよ!?」
「ああ、そうさ。人は己の知ることしか知らん」
「えぇ!?」
姉さんはその後も自分勝手に物語を紡いでいく。ありとあらゆる、ロマンたちにメスを入れ……。
ボクは、そんなプロ小説家志望の姉さんを見守る12歳。
壊れゆく『それら』を監視するもの。
ブッ壊れロマン憚 Fin.
いやいやいやいやいやいやいやいや……。
ボクは塗り替えられた世界を抜け出し、帰ってきた。木製の椅子に机。その机の対面に座る姉さん。
コップは冷汗を掻きながらボクらを見つめ、透明の瞳に姿を映す。
「勝手に妙な終わらせ方にしないでよ!」
「あー、ねむ……」
聞く気ゼロ。
姉さんは立ち上がり、自分の部屋に向って歩きだす。
「待ってよ、姉さん」
「うっさいわね。あたしは今から布団で睡眠モード――眠 寝転よ」
「中国人!?」
扉が閉まる。
…………。
静けさや、最終回の、香りする(字余り)。
「さてと、世界の再構築でも始めるかな」
浮かび始める世界。
ボクは全身に備わったありったけのロマンをに盛り込んでいく。
また面白くなるぞ。
奴が壊すまでは、ね。
最後までお付き合い下さり、誠に有難うございます。ハチャメチャな話でしたが、私なりに楽しみました。皆様にも、例え少しだけでも楽しんで頂けたら光栄です。