1壊目 ボクらのファンタジア
――花の都・ジャルダン・ドゥ・フルール――
って、いきなり地名を書かれても意味不明だよね?
ここは『現在』ボクが住んでいる場所だ。
ボクは魔女である『ツムギ』から、この都を守る守備隊の隊長。若干、12才にして剣の達人。
街は『花の都』と名付けるに相応しい景色で包まれている。
色とりどりの花が道端を埋め尽くすように咲き誇り、家の代わりとなっている大木からは小鳥の囀りが聴こえる。
それに伴って静かだが耳に残る音が流れてきた。
中央の広場にある大樹からだ。中心に風が吹き抜けて音を生む、という不思議な大樹なのだ。
ボクはこの街、この世界が好きだ。だから命に換えても守ってみせる。
決意を宿した直後、何の前触れもなく街が炎に包ませた。
魔女の仕業だ。
「おーっほっほっほ!」
耳障りな甲高い哄笑が屋根から響いてくる。
黒いとんがり帽子に黒マント。正しく魔女の風体である。
「やめろ! 『ボクの世界』を壊すな! 姉さん!」
実は魔女はボクの姉だ。
人の物を壊すのを嗜好とする、ブッ壊れガール。
「諦めなさい、キュロット! 大体こんな詰まらない世界で何をするの? 退屈で『リセット』したい気分よ」
キュロットとはボクのあだ名。
なぜかキュロットスカートから取った名称だ。
「何って……、皆で平和に暮らして、可愛いお嫁さんと少し貧しいけど愛のある家庭を築くんだ!」
「あんた若いクセして、誰もが現実に挫折した上で辿り着く普通の夢を語るんじゃないわよ。それにまだ甘いわ。可愛いお嫁さんは王子さまに乗っかって玉の輿よ。んでもってピーの部分は省かれながら、沢山の次世代王子候補を出産して幸せに暮すのよ」
「お下劣だよ、姉さん」
「黙らせなさい!」
誰を!?
会話をしている間に、灰の都になってしまった。
ボクの理想郷が……。
仕方がないから、セーブポイントに行こう。
近くにあった三角形の浮遊物に触れる。
浮遊物には『分かっているのか!?』との文字が書かれている。
「ユニバース!」
叫ぶと世界が白色の光に包まれた。
目を開けると、そこはファンタジーな匂いもしない世界。
普通のマンションの一室。机を挟んで正面には姉さんの紬がいた。
「相変わらず、地味な世界を創造してるわねー。もっとマシな世界はないの!?」
「人の細やかな楽しみを奪っておいて、その言い草はひどいよ」
「あっ! あるじゃない! この本格派RPGのやつ」
「人の話、聞いてる?」
「聞いてるわよ。そんでドッペルゲンガーがどうかした?」
ふざけんな。ブッ壊れ女。などと口が裂けてもいえない。
え? 話についてこれない?
嫌だな、凡人は……。
あー、うそウソ嘘!
えーと、簡単に説明すると、ボク達は『頭の中で物語を紡ぐもの――通称〈ネイン〉』なんだ。
さっきの花の都の設定みたいに、『創造』と『なりきり』をメインとする能力者。
普通の状態なら創造した世界は自分の殻のようなものだけど、デインと呼ばれるスキルを使って侵入が可能だ。
創造する内容は何でも可能。かたや世界観だけやけに大きいSFから、こってこての恋愛ものまで。
姉さんは好きだね。恋愛もの。
ボクが観察した限りじゃ、全て不倫や浮気を題材にしてる。しかも100%浮気相手である姉さん(主人公)がハッピーエンドの、エゴをブレンドした問題作ばかり。
別に文句はないけど、暇つぶしにボクの世界に来るのは止めて欲しいね。
壊した分は修復か更新しないといけない(まあ、簡単だけど)し、なにより……
ラブシーンだったら困るだろ? 坊や。
あー、うそ嘘トゥルー!
「あんた、さっきから何を創造してんの? ……はあ!? なによ、この世界? 〈ネイン〉もいないし、あたしたちを傍観することしかできない奴らのみの世界なんて意味ある?」
「こうしないと、彼らはボク達の世界すら知ることが出来ないんだよ」
「ふーん」
姉はすでに興味の失せたような表情をし、机上の煎餅を噛み砕く。
食べ終わると、自分の世界と繋いだ。
ボクが〈デイン〉を使って調べると、やはりアレだった。
悪魔的な嬌笑で、妻子持ちの上司をオトしていた。
でました、恐怖の『とりあえず連載』。 少し暖めていた作品です。気に入って頂けたら光栄です。