あさ
少女は、走っていた。
教科書のたくさん詰まったスクールバックを振り回し、
さらさらの肩まで伸びた髪を振り乱し、
整った顔をゆがめながらも、
一生懸命に走っていた。のだが、
少女は悲劇的に走るのが遅かった。
小学生には軽く抜かされ、自転車をこいでいる老婆にも抜かされ。
はたから見ると軽くジョギングをしている様にも見えるが、
これが少女の本気なのである。
そんな走るのが苦手な少女がなぜ走っているのかというと、
理由は単純である。寝坊したのだ。
いつも一緒に行く友達を迎えに行ったが、先に行ってしまったようだ。
もう、薄情なんだから。とは思いつつも、少女はそこまで怒ってはいなかった。
その友達がそんな性格であることを理解していたからである。
前に人影が見えた。
薄情な友達、もとい、石神 凛である。
石神はさらさらの黒髪にきりっとした大きな目、
雪のような白い肌となかなかの美少女である。
だが、能面のように無表情で、口は堅く真一文字に閉ざされている。
どこか妖しい雰囲気があり、それがよりいっそう魅力をかきたてている。
「凛ちゃん!」
少女が明るい声で呼びかける。
石神はくるりと振り向き「遅い」と独り言のように呟くと、
そのまま歩き出した。
「あはは、ごめんごめん」
少女はそう言うと、石神をあわてて追いかけた。
「凛ちゃんは何時に起きたの?ゆず…わたしなんか、6時40分だよ」
少女は自分の事を名前で呼んでしまう癖があり、矯正しようと頑張っているが
ときどき無意識に口走ってしまう。
「5時。家を出たのは6時45分」
石神が呟く。
6時45分に家を出たのにまだあの場所を歩いてたってことは…
ゆっくり歩いて、待っててくれたのかな?
少女がそんなことを考えながらにやにやしていると、
「何だ」
石神が少し恥ずかしそうに言った。
「ううん、なんでもない」
少女はこぼれる笑みを隠せないまま返した。




