電人M
ドル『電人M』は、故江戸川乱歩さんのポプラ社から発行されていた少年探偵団シリーズ、明智小五郎シリーズのお作品のタイトルから拝借いたしました。
探偵事務所のドアを豪快に蹴破って現れたのは、全身を銀色のラメ塗装で塗られた男――自称・世界唯一のロボット探偵「電人M」だった。
「よう助手、今日も事件の匂いがプンプン丸だな!」
事務所のデスクで紅茶を飲んでいた僕(ただの貧乏学生)は、静かに溜息をついた。
電人Mはロボットではない。ただの重度の特撮マニアで、ダンボールとアルミホイルで自作した謎の甲冑を着込んでいるだけのおじさんだ。胸元には赤く点滅するダイソーのLEDライトが両面テープで貼り付けられている。
「Mさん、鍵はかかってなかったんだから普通に入ってください。それと、胸のランプが点滅してますよ」
「なにッ!? ピコンピコン言っているということは……エネルギーが残り3分、あるいは重大な事件が接近している証拠だ!」
「単に電池切れなだけです。で、何の用ですか?」
Mはバッとドラマチックに腕を組み、重々しい口調で語り始めた。
「街を震撼させる凶悪事件が発生した。商店街の『山田精肉店』から、看板商品の特製コロッケが3個、跡形もなく消え去ったのだ……!」
「警察に行ってください」
「警察などに頼っていられるか! これは人類の未来を揺るがす『コロッケ消失事件』だ。行くぞ、相棒!」
押し切られる形で現場へ連行された僕は、精肉店の店主から話を聞くことになった。
被害にあったのは昼過ぎ。揚げたてのコロッケを店頭のトレイに並べて目を離した隙に、3個だけ消えていたという。
電人Mは虫眼鏡を取り出し、床に這いつくばって捜査を開始した。
「ふむ……見ろ助手! ここに謎の微粒子が落ちている!」
「それ、ただのパン粉です」
「バカめ、これは怪盗が残した特殊な通信物質……いや待て! 匂いを検知する! 我が『電人センサー』が犯人の足取りを捉えたぞ!」
Mはブツブツと「ピピッ、ピピピ」と口で効果音を鳴らしながら、鼻をヒクヒクさせて路地裏へと突進していった。僕も半信半疑で後を追う。
路地の奥、空き地のベンチにたどり着いたMは、ピタリと足を止めた。
「そこまでだ、コロッケ泥棒!」
ベンチに座っていたのは、近所のノラ猫……ではなく、公園のハトたちを眺めながら口のまわりにパン粉をつけている、商店街の会長(72歳)だった。会長の手元には、油の染みた紙袋が転がっている。
「あっ……Mちゃん、見つかっちゃった?」
会長はバツの悪そうな顔で頭をかいた。
「いやね、孫に買って帰ろうと思ったんだけど、揚げたてのいい匂いに負けて、ついうっかりその場で3個とも食べちゃってね……お金を払い忘れて店を出ちゃったのを思い出して、ここで反省してたんだよ」
事件は一瞬で解決(?)した。会長は平謝りしながら精肉店へ代金を払いに行き、店主も「なんだ、会長か」と苦笑いで許した。
夕方、事務所に戻った電人Mは、満足そうに胸を張った。
「見ただろ助手! 電人Mの科学的捜査の前に、解決できない謎などないのだ!」
「はぁ……まあ、嗅覚だけで会長を見つけたのはすごいですけどね。で、今回の報酬は?」
「ふふふ、店主から感謝の印にもらったぞ。揚げたてのコロッケだ!」
Mは紙袋からホカホカのコロッケを取り出し、口へ運ぼうとした。その瞬間――胸のLEDライトが激しく点滅し、完全に消灯した。
「あッ! エネルギーが尽きた……!」
Mは棒立ちのまま、スローモーションで床に倒れ込んだ。単にアルミホイルの衣装が重すぎて足が痺れただけである。
「助けてくれ助手……手が動かん……コロッケを口に入れてくれ……」
僕はやれやれと首を振りながら、コロッケを自分の口に放り込んだ。
「犯人を捕まえたのはMさんですが、コロッケを回収したのは僕ですからね。事件解決の報酬としていただきます」
「なぁぁぁにぃぃぃ!? 悪の組織の罠かーーーっ!?」
夕暮れの探偵事務所に、電人Mの情けない絶叫が響き渡った。
【了】
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
江戸川乱歩先生の名作タイトルに敬意を表しつつ、バカバカしくも温かいコメディミステリーを目指して執筆いたしました。自称ロボット探偵の電人Mと、苦労人の助手のドタバタな日常を楽しんでいただけていれば幸いです。
また機会がありましたら、電人Mたちの新たな「事件(?)」をお届けできればと思います。作品への感想や評価もいただけますと大変励みになります!
改めまして、お付き合いいただきありがとうございました。




