覚えれない本
私の部屋の本棚には
ある、一つの本が置いてあります
私は昔から
何度もその本を読んだことがあります
あるときは部屋の中で
あるときは電車で
あるときは学校で
一度読んだ本を繰り返し読むこと自体は
特におかしいこともないと思うのですが
私の場合
少し、違ってるんです…
覚えていない
内容どころか
あらすじの一つすら
何度も読んだ本なのに
読む前も読んだ後も
記憶は残っているはずなのに
なぜか本の内容だけが
すっぽりと頭から抜け落ちるような
思い出せない夢の感覚と近い
だから私は
その本が面白いかどうかが分からない
タイトルを検索しても
同じような本は見つからない
作者もわからず
一体だれが書いた本なのか
それすらもわからない
それを知るには本を読むしかない
たとえ記憶を失ったとしても
だから私は
学校の友達に協力を頼んだ
私が本の内容を声に出して読むので
それをまとめ、あとで教えてほしいと
友達は二つ返事で了承してくれたので
その週の日曜日に
友達の家に本を持っていき
私はゆっくりとページを開く
声に出していくうちに
だんだんと視界が狭くなる
眠りに落ちるあの瞬間が
とてもとても長い時間続くような
思考以外のすべての感覚が消えたような
そんな時間が過ぎていく
私は気が付くと本を閉じており
やっぱり本の内容を思い出すことができない
私は本を机に置き、本の内容を聞こうと
ゆっくりと友達の方を見る
そこには、本を読む前とは全く違う雰囲気の友達がいた
体育座りの姿勢で
膝の間に顔をうずめながら
ガタガタと体を震わせている
大丈夫かと肩を叩くと
体を大きく震わせ
小さく悲鳴を漏らす
ホラー小説だったのか
そんなに恐ろしい内容だったのか
私は気になって、友達に本の内容を問いかける
友達は少しの沈黙の後
ゆっくりと机の上に置かれたノートを指さす
事前にメモを取ると言っていたノート
なぜか少し乱れているというか
乱暴に扱われた痕跡がある
私はそのノートを開くと
最初の方には本のあらすじが書かれている
ーーこの本を読むことができたあなたへ
ーーあなたはとても幸運です
ーーなぜならこれから起こるすべてを
ーーあなたは知ることができるのだから
よく、分からない
あらすじにしては支離滅裂だ
私は次のページをめくる
ーー私にこの本はもう必要ない
ーーこれを読んだ君にももう必要ないだろう
ーーその理由はもうじきわかるさ
ーーあともう少しでね
やはりよくわからない
心なしか、最初の時より筆跡が乱れている
私は次のページをめくる
ーーきっとこの内容を君は覚えていないだろう
ーーだから何度も君は読み返す
ーー何度も何度も
ーーだけど覚えることはできないよ
私が今まで本の内容を覚えていないこと
そして、何度も読み返したこと
ノートには、それらを全て知っているかのようなことが書かれている
筆跡は、さらに乱れている
私は次のページをめくる
ーーだがもしこの内容を覚えるために
ーー第三者の協力を取りつけた場合
ーーそれは間違いだ
ーー君にとっても
ーーその子にとっても
友達の様子が変わってことに関係があるのか
それとも、この先を読んでいけば分かるのか
私は、この先に書いてある内容が
なぜか取り返しのつかないもののように感じる
筆跡の一部が、彼女のモノとは少し違っている
私は、次のページをめくる
ーーきっと君は止まらないだろう
ーーページをめくる手も
ーーめくりたいと思う気持ちも
ーー止まらないものは止められない
私は迷っている
ページを開いていくことが
本当に正しい選択なのか
全身が警告を発している
止まれと体中が叫ぶ
筆跡に、彼女の要素はもうない
私は次のページをめくる
ーーそれじゃあ見せてあげるよ
ーー君のこれからを
ーー止まらない欲に負け
ーー他人を巻き込んだ君に
明らかに、これまでのページとは雰囲気が違う
白と黒のモノクロなノートに
何か得体のしれないものがある
私はここで止まりたい
でも、次のページに手をかけている
この文字は、私の知っている文字じゃない
私は次のページをめk----
ページを開こうとしたその瞬間
横から飛んできた手が
勢いよくノートを閉じる
見ると、目の血走った友達が
ものすごい力でノートを抑え込んでいる
読んじゃ、ダメ
これ以上は、ダメ
彼女の発する言葉は小さく
とても、力がこもっていた
私は咄嗟にノートから手を離すと
友達はノートを抱え
部屋から出ていく
私はそれを唖然としてみていることしかできなかったが
やがて日も暮れたので
友達には申し訳ないが先に家に帰ることにした
その次の日
友達は亡くなった
すぐ近くの川で
冷たくなって浮いているところを近所の人が見つけたらしい
胸にはあのノートをがっしりと抱え
強い力で握っていたのか四隅がぐしゃぐしゃになっていたと
間違いなくこの本のせいだろう
内容を知ったせいで、友達はあんなことになったのだろう
だからこそ気になる
この本の内容が
あの後繰り返し自分で読んだが
やはり内容を覚えることはできない
他人から与えられたものでなきゃ
内容を知ることはできない
だからどうするか
次は誰に頼もうか




