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麦を育てる者を下賤とお呼び? 麦のない冬を、お試しくださいませ

作者: 歩人
掲載日:2026/05/02

飢饉の兆しが三年越しに王国全土を覆った春、王都エイルハイムの執務室の窓は、朝だというのに薄暗かった。


 街路樹の若葉がうまく開かないまま、黒ずんで縮れていた。街の広場からは子供の泣く声が届く。『パンがない』という大人の小声が続く。石畳の隙間に落ちていた麦の粒を、痩せた犬が拾って走り去った。

 王立農務監督官セルヴァン第一王子は、机の上の一通の手紙を、もう三度読み返していた。

 辺境ノルドハイム伯爵領からの通商依頼。形式的な文面。ただし末尾に、同封の栽培記録ノートの写し、と書かれていた。

 手書きのノート。折りたたまれた麻紙を開いた瞬間、セルヴァンの指先が凍った。

 その筆跡を、彼は知っていた。

 細く、ほとんど無装飾で、行頭の字だけがわずかに長い独特の運筆。三年前、公爵家の農園の脇で書き物をしていた彼女が、土で汚れた指先で握っていた羽根ペンの筆跡だった。

 セルヴァンは手紙を机に置いた。音を立てないように。

 窓の外で、また子供が泣いた。その声の向こうに、枯れた街路樹の影が揺れていた。

「——馬車の支度を」

 副官が戸口で控える。セルヴァンは目を閉じたまま、短く言った。

「辺境ノルドハイムへ。……リーディア嬢に、お会いしたい」

 副官の息が一瞬止まったのが、気配で分かった。

 三年前の春、私は公爵家を出た——扉の外で、時間がそう呟いたように聞こえた。


---


 三年前の、あの春の午後のことを、わたくしはまだ、一枚の葉のように覚えている。


 グランフェルト公爵邸の応接室。春の日差しが東の窓から斜めに差し込んで、絨毯じゅうたんの模様に明るい帯を作っていた。

 わたくしは、農園から戻ったばかりだった。三年越しに試していた冷害耐性小麦の交配第十一世代の、新しい芽の出方を確かめていたからだ。土の匂いをまだ袖口に残したまま、応接室に呼ばれた。

 淡い苔色のドレスの袖口に、指三本ぶんの土の筋。手のひらには、麦の若葉を撫でた青い汁の跡。わたくしはそれを隠さなかった。隠す必要を、感じたことがなかった。

 婚約者の第一王子セルヴァン・エイルフォート殿下は、すでに先に着いておいでだった。

 わたくしを見た瞬間、殿下の目が、わたくしの袖口で止まった。

 そして、殿下の顔から血の気が引いた。

「——その手は、なんだ」

 声が、震えていた。

「農園から戻ったところでございます。小麦の交配第十一世代が、今朝ようやく発芽いたしまして」

 わたくしは静かに答えた。殿下の前に一度、膝を折る。いつもの挨拶。

 殿下は、わたくしの挨拶を受けなかった。代わりに、立ち上がって、声を荒げた。

「公爵令嬢が、農婦の真似事など、するな」

 部屋の空気が凍った。壁際に立っていた公爵家の執事が、一歩下がる気配がした。

「土いじりは下賤な農婦の仕事だ。公爵令嬢の威厳を汚す。——そんな手で、私の前に立つな」

 殿下の頬が、赤かった。怒りでも、羞恥でもなく、ただ絵面への嫌悪だった。土のついた指。それが彼の『公爵令嬢』の像を、壊した。

 わたくしは殿下の顔を見た。静かに、一拍、見た。

 そして、短く答えた。

「そうですか」

 それだけだった。

 殿下が婚約破棄を告げた声は、わたくしの耳を素通りして、窓の外の柳の若芽に吸い込まれていった。春先の柳の若芽は、まだ開ききらず、一枚ずつ拳のように握られている。わたくしはその拳の一つ一つが、土から養分を吸い上げるのに、どれほどの時間をかけているのかを、知っていた。


 応接室を下がるとき、父のグランフェルト公爵が、廊下の向こうから一度だけ、わたくしの方を見た。

 父は、何も言わなかった。

 わたくしも、何も言わなかった。

 ただ、父は一度だけ、ごく短く頷いた。


---


 翌朝、夜明け前の厨房の裏口。


 わたくしは、革の鞄を一つだけ手に提げていた。

 中身は、麻の作業着三着。交配記録のノート一冊——十年分の、小麦と葡萄と芋の観察帳。羽根ペンの予備三本、インク壺、種芋の観察日誌、それだけ。

 種は、一粒も持ち出さなかった。

 公爵家の農園の種は、父の記録にも、王家の記録にも、わたくしの筆跡で書かれている。それでも、それは公爵家の財産だった。盗んで辺境に持っていくことは、わたくしの中で選択肢に入らなかった。

 厨房の棚の下で、父が立っていた。

 寝間着のまま、片手に温かいパンを持っていた。

「——どこへ行く」

「辺境ノルドハイムへ、と存じます」

「誰を連れていく」

「誰も、連れません」

「遠いぞ」

「ええ、父様。遠いほうが、ちょうどよろしゅうございます」

 父は、しばらく黙った。厨房の窓から、夜明け前の青い光が差し込んで、父の頬の皺を薄く照らしていた。

 そして、父は一度だけ、わたくしの手を握った。

 土で汚れた、肉刺まめだらけの娘の手を、父は迷いなく握った。

「——好きな場所に行きなさい」

 それだけだった。

 父は、わたくしの表向きの処遇について、一つだけ付け加えた。

「王家には、こちらから勘当の形で届けを出しておく。貴族院の手続きは追っていく。お前は、それを待たずに発ちなさい」

 わたくしは、頷いた。娘の自由を残すために、父が『家の恥』をあえて引き受ける——その一言で、公爵家の向こう三年の沈黙の重さが、わたくしにも分かった。

 わたくしは、父のパンを受け取って、鞄に入れた。

 馬車は乗合いの交易便。王都から辺境ノルドハイムまで、九日。

 乗合いの客に紛れて、少し離れた前後の馬車に、見覚えのある顔が三人乗っていた。公爵家の影——父が密かに付けた護衛だと、わたくしは気配だけで気づいた。彼らは九日のあいだ、わたくしと一言も言葉を交わさなかった。それが、父にできる最後の護りだった。

 最初の一日の夕方、王都の城壁が、地平の向こうに沈んだ。乗合いの客たちは皆、振り返って城壁を眺めた。

 わたくしだけが、進行方向の窓を見ていた。

 窓の向こう、街道沿いに、グランフェルト公爵領の小麦畑が流れていく。

 冷害耐性小麦第十一世代。今朝、わたくしが芽吹きを見届けた畑。

「——元気にね」

 わたくしは、誰にも聞こえない声で、そう呟いた。

 それから、振り返らなかった。


 馬車の中で、わたくしは十年を思い返した。時間はたっぷりあった。


---


 十二歳の春のことだった。


 わたくしは公爵領の農園の端で、老農夫のクラウスと並んで、麦の株を一本ずつ地面から抜いていた。

「お嬢さん、この畝の麦は、去年より茎がかたいですな」

 クラウスは七十を越えていて、腰が少し曲がっていた。それでも、指先の動きだけは若者より正確だった。

「ええ、クラウス。去年の冬が寒かったから、凍らなかった株だけが、種に残ったのですわ」

 わたくしは指の腹で、麦の節を一つずつ確かめていた。節が太く、指で押すと押し返してくるような手応え。冷害耐性の、第一歩。

「先生、それでうちの爺さまの時代より、強い麦ができるんですかね」

「ええ。三年かかりますの。三年、この選抜を繰り返せば、凍っても折れない茎ができますわ」

 クラウスは、ふっと笑った。

「三年だけで、うちの爺さまを越えるんですかい」

 わたくしは、笑わなかった。

「いいえ、クラウス。三年では越えません。十年、かかります」

 クラウスは、もう一度、笑った。今度は目尻に皺が寄った。

「——お嬢さんは、よくえる目をしなさる」

 わたくしは、その言葉を、覚えている。

 十二歳で種の選抜を始めて、最初の三年は、ただ畑を歩くだけだった。百株の麦のうち、どの十株が一番堅い節を持つか。どの五株が、一番深く根を張るか。わたくしは、収穫の時期に、父の農園の全ての畝を一本一本指で押し、節の音を聴いた。節を指で押したときに、堅い音で押し返してくる株だけを、種に残した。

 三年で茎の強度が安定した。五年で収量が同等になり、七年で王家穀倉地帯の主要品種の一つとして採用された。冷害の年でも立ち続ける麦の茎。

 選抜を始めて九年目の冬のことだった。大陸の北半分が、記録的な寒波に見舞われた。他の領地の小麦は、ほとんど地面に倒れた。凍って茎が折れたのだ。

 グランフェルト公爵領の麦だけが、雪の下で、立っていた。

 冬明けに雪を掻き分けたクラウスが、凍えた指で、わたくしのところに一枚の麦の茎を持ってきた。

「お嬢さん、——立っておりますよ。うちの畑の、全ての畝の麦が」

 クラウスの、目の縁が濡れていた。

 わたくしは、その茎を受け取って、指の腹で節を押した。

 押し返してきた。冬を越えても、押し返してきた。

 王立農務庁の公式記録には、『王家の農学者たちの長年の努力により』と書かれた。わたくしの名前は、一字も残らなかった。

 わたくしは、それで構わなかった。茎が立てばよかった。


---


 九歳の秋のことだった。


 わたくしは公爵領の葡萄畑を、夕暮れに歩いていた。秋の葡萄は、収穫の時期が一日違うだけで、糖度も香りも、別物になる。

 その夕刻、わたくしは一枚の葉を、指先でくるりと返した。

 葉の裏——産毛が、一斉に、いつもと違う方向に立っていた。

 葉脈の中央から両端に向かって、細い白い毛が、逆立ったように斜めに並んでいた。

 わたくしは、それを三本の畝で確認した。どの葉も、同じ方向に産毛が逆立っていた。

 わたくしは、農園長を呼んだ。

「明朝、霜が降りますわ。今夜のうちに、収穫をお願いします」

 農園長は、空を見上げた。空は雲一つなく、星が冷たく瞬いていた。

「嬢、今夜は霜の兆候はありませんよ。天の雲もない」

「それでも、降りますの。葉の裏の産毛が、向きを変えましたわ」

 農園長は、長く、わたくしを見た。

 わたくしの目の中に何を見たのかは、わたくしにも分からない。ただ、農園長は、黙って、村人たちを呼んで、夜のうちに葡萄を収穫し始めた。

 翌朝、公爵領の葡萄畑の土は、白かった。霜だった。

 近隣の村の葡萄畑は、ほぼ全滅していた。

 わたくしの畑の葡萄だけが、前夜のうちに倉庫に入っていた。

 それ以来、わたくしは毎年の秋、葡萄の葉裏を見続けた。産毛の向き、露の玉の並び、根元の土の色。それは予知ではなく、十年分の観察表の中から、その年の葉に最も近い一枚を探し出す作業だった。

 けれど、わたくし自身は、それを『声』と呼んでいた。

 葉が、逆立つときに、小さく震える。その震えが、わたくしの手のひらの中で、一つの言葉になる。

 ——今夜、わたしたち、こおります。

 その声を聴いているだけだった。


---


 十七歳の夏のことだった。


 わたくしは公爵領の芋畑を歩いていて、一枚の葉の端に、直径二ミリの褐色の斑点を見つけた。

 円形の小さな斑。中心が少し陥没していて、縁が茶色く縮れていた。

 わたくしは、しゃがみ込んで、その葉を顔の高さまで引き寄せた。

 ——この斑点を、わたくしは知らなかった。

 公爵家の書庫にある全ての農書、大陸の全ての病害図鑑、そのどれにも、この斑点は載っていなかった。

 けれど、葉の震えが、わたくしの手のひらの中で、はっきりと言っていた。

 ——私たち、このままだと、腐ります。

 わたくしは、その畝の全ての株を抜き、根から全て焼却するよう指示した。隣の二畝も予防で隔離し、土ごと掘り返して消毒した。

 農園長と父は、わたくしを信じた。わたくしの『分からない』を、信じてくれた。

 わたくし自身も、半信半疑だった。斑点の意味が、わたくしにも、分からなかった。ただ、葉の震えが、わたくしの手のひらの中で、『腐ります』と言ったから、焼いた。

 三週間後、近隣の領地で、芋の腐敗病が一斉発症した。

 黒く溶けた芋が、葉の下から次々に出てきた。大陸の北半分が、その年の秋、芋の収穫を失った。

 王家穀倉地帯だけが、無事だった。

 わたくしが、あの二ミリの斑点を、焼却したからだった。

 秋の収穫祭の日、公爵領の村々は、例年通りに芋を掘った。黒い溶けた芋ではなく、白く重い、健やかな芋だった。村の子供たちが、掘りたての芋を抱えて、畦を走っていた。

 わたくしは、その光景を、畑の端から、しばらく見ていた。

 葉の端に二ミリの斑点を見つけるために、わたくしは三年、毎朝すべての芋畑を歩いた。歩いて、しゃがんで、葉を一枚ずつ指で返した。誰にも報告する必要はなかった。ただ、葉の裏を、見ていた。

 それだけのことで、村の子供たちは、秋に芋を抱えて走っていた。

 王立農務庁の公式記録は、『名もなき農学者たちの早期対応により、王家穀倉地帯は腐敗病の被害を免れた』と書いた。

 農務庁には数十人の職員がいたが、皆わたくしの帳面の数字を書き写すだけで、自分の指で葉を返そうとはしなかった。後任を育てようと、二度ほど若い農学生を公爵領に招いたこともあった。けれど、どの者も『農婦の真似事』を一週間で辞めて王都に戻った。

 わたくしは、それで構わなかった。

 芋が残ればよかった。


---


 十年分のそれを、わたくしは、馬車の窓の外を流れる景色の中で、一つずつ思い返していた。


 九日目の朝、馬車は辺境ノルドハイムに着いた。

 わたくしは馬車を降りた。

 冷たい風が吹いていた。春だというのに、まだ王都では感じなかった冬の残りの匂いが、土の中から上がっていた。

 駅馬車の小さな広場で、背の高い男が一人、立っていた。

 濃い茶の髪を首の後ろで結び、作業着に革の前掛け、指の節に土の皺。

 辺境伯ヴァルター・ノルドハイムは、わたくしを見ると、一度だけ、ごく短く礼をした。

「ご足労、ありがとう」

 声が、低かった。響かない声だった。

 わたくしは、礼を返した。

「こちらこそ、畑を一畝、貸してくださるとのこと」

「行こう」

 ヴァルター様は、馬車も荷車も用意しなかった。代わりに、自分の足で、村の端まで歩き始めた。

 わたくしも、革の鞄を抱えて、後に続いた。

 途中、道端の石が転がるたびに、わたくしは靴の先でそれを拾って、畑の隅に積んだ。辺境の土地は石が多い。畑を耕す前に、石を拾う。そういう土地だった。

 ヴァルター様は、振り向いて、わたくしが石を拾っているのを見て、ごく微かに、目を細めた。

 口には出さなかった。

 村の北の端、痩せた北向きの斜面に、一畝のいた畑があった。

 ヴァルター様は、その畑の端で止まった。

「——君の畑だ」

 それだけだった。

 わたくしは、畑の中央まで歩いて、土を一握り、手のひらに持ち上げた。

 土の匂いを嗅いだ。泥炭でいたんと、冬の残りの霜と、微かに鉄の匂い。

 指の腹で、土の粒を押してみる。堅い粒。根が深く張れない質。けれど、霜の抜けたあと、水を含む力が強い。

「冷害耐性の小麦の種を、お願いしたく存じます」

 わたくしは、静かにそう言った。

「ノルドハイム領で、自家採種されている麦の種を、いただけますか」

 ヴァルター様は、短く頷いて、倉庫の方へ歩き始めた。

 そして、帰り際に、一度だけ、わたくしの方を振り向いた。

「——君の麦は、なぜ健やかなんだ」

 わたくしは、少し、驚いた。

 初対面の男が、たった一畝の畑を見ただけで、そう聞いた。

 初対面の男が、土の匂いを嗅ぐわたくしの指を見て、そう聞いた。

 わたくしは、ゆっくりと、微笑んだ。

 微笑んだのは、久しぶりだった。

「——声を、聴いているだけですわ」

 ヴァルター様は、何も言わず、倉庫の方に歩いていった。

 けれど、その背中が、ほんの少しだけ、柔らかくなったように見えた。


---


 辺境での最初の半年は、土を覚える日々だった。


 わたくしは毎朝、畑に出て、土を一握り持ち上げて、匂いを嗅いだ。朝露の残り方、土の粒の大きさ、根を張らせたい部分の堅さ。公爵領の土とは、まるで違う。公爵領の土は肥え、辺境の土は痩せていた。けれど、痩せた土には、痩せた土に合った種がある。

 ノルドハイム領で自家採種されてきた麦の種——ヴァルター様が倉庫から持ち出した種——は、想像以上に良いものだった。代々の辺境伯たちが、細々と、冷害に強い株を選抜してきた痕跡があった。

「この種は、悪いものではありませんの」

 わたくしはある日、ヴァルター様に言った。

「ただ、選抜の手順が、途中で止まっていますわ。ここから先は、三年ほど、選抜を続けさせてください」

 ヴァルター様は、しばらく、土を見ていた。

 そして、短く頷いた。

「——頼む」

 それだけだった。

 後で知ったことだが、ヴァルター様は王立大学で農学を修めた方だった。独自に、ノルドハイム領の冷害耐性品種の交配に、十年を費やしておいでだった。

 わたくしが畑で土の匂いを嗅ぐのを、ヴァルター様は、遠くから見ていた。わたくしが葉の裏を返すのを、見ていた。わたくしが茎の節を指で押すのを、見ていた。

 ある夕刻、ヴァルター様が、畑の端でぽつりと呟いた。

「——僕の十年は、君の一年に、追いつかないな」

 わたくしは、驚いて、振り向いた。

「ヴァルター様の、選抜の手順は、正確ですわ」

「手順は、正確だ。ただ、葉の裏を見ていなかった」

 ヴァルター様は、自分の手のひらを、一度、開いて、閉じた。

「手順だけではなく、目が要るのだな、と、君を見て分かった」

 わたくしは、答えられなかった。ヴァルター様は、その答えを求めていなかった。ただ、自分で、自分に言い聞かせていたのだった。


 半年後、辺境の老農夫ハンスが、村の井戸端で、わたくしに一礼した。

 ハンスは七十を越えていて、腰が少し曲がっていた。クラウスに、よく似ていた。

「お嬢さん、あんたの眼は、うちの爺さまの眼だ」

 ハンスは、そう言った。

 わたくしは、前掛けで泥だらけの指を拭って、微かに笑った。

「——クラウスにも、同じことを言われましたわ」

「クラウス、って誰ですい」

「公爵領の、老農夫でした」

 ハンスは、ふっと笑った。

「眼のある爺は、どこにでもおりますのう」

 わたくしは、その言葉を、覚えている。


 同じ頃、王都からの噂が辺境に届き始めた。

『公爵令嬢が、辺境で、農婦の真似事をしているらしい』

『出戻ってくればいいものを』

『あれは、本当に公爵家の娘なのかね』

 噂は、風のように、村の井戸端や、酒場の隅で、ひそひそと流れた。

 わたくしは、その噂を、聞かなかったふりをした。顔色を変えなかった。

 けれど、ある日、村の若者の一人が、酒場の帰りに、わたくしに向かって半分酔った声で言った。

「嬢さん、王都に戻ったらどうですかね。こんな田舎で土いじりなんか、もったいないでしょう」

 わたくしが返事をする前に、ハンスが、若者の後ろから、太い腕を伸ばして、若者の肩を押さえた。

「おまえ、一度、嬢さんの畑を見てから、その口を叩け」

 ハンスの声は低かったが、村の井戸端の空気が一瞬で冷えた。

「嬢さんの畑の麦は、うちの爺さまの時代でも、見たことがないほど健やかだ。それを見ないで、王都に戻せとは、おまえ、何を言っている」

 若者は、黙った。

 ハンスが、わたくしの方に、一度だけ目で礼をした。わたくしも、一度だけ、目で礼を返した。


---


 辺境での三年目の、早春のことだった。


 わたくしは、ある朝早く、村の葡萄畑を歩いていた。

 辺境でも、小さな葡萄畑がある。ノルドハイム領の葡萄は、糖度は低いが、寒さに強い品種だった。

 その朝、葡萄の葉裏の産毛が、一斉に、逆方向に立っていた。

 わたくしは三本の畝で確認した。全ての葉で、同じ向きに、産毛が逆立っていた。

 わたくしは、村の鐘楼しょうろうに向かって歩き、番人に頼んだ。

「鐘を鳴らしてくださいませ。今日中に、葡萄の収穫をお願いしたいのです」

「——霜ですかい」

「ええ。今夜、降りますわ」

 番人は、空を見上げた。空は雲一つなかった。辺境の春の、澄んだ空だった。

 けれど、番人は、鐘を鳴らした。

 三年前、辺境の村人は、わたくしの予測を半信半疑で聞いていた。

 けれど、この三年で、わたくしの予測は一度も外れなかった。

 村人たちは、鐘の音を聞いて、即座に葡萄畑に集まった。半信半疑ではなかった。誰もが麻袋を背負って、葉の下に手を入れた。

 その日のうちに、村の葡萄の大半が倉庫に運び込まれた。

 翌朝、葡萄畑の土は、白かった。

 辺境の春の、突然の遅霜だった。

 村人たちは、倉庫の前で、誰も何も言わなかった。黙って、麻袋の葡萄を数え、それから一人ずつ、わたくしのいる畑の方に、一礼をして帰っていった。


 その夕刻、ヴァルター様が、わたくしの小屋の戸を叩いた。

 小屋は、ヴァルター様が三年前に、わたくしのために整えてくれた小さな一軒家だった。三年のあいだに、わたくしはそこに、棚板を一枚ずつ増やしてきた。棚には、小麦の交配記録、葡萄の霜害観察帳、芋の病害日誌が、丁寧に並んでいた。

 ヴァルター様は、黙って、温かい茶の椀を差し出した。

「——手が冷えたろう」

 低い、響かない声で、そう言った。

 わたくしは、椀を受け取った。

 ヴァルター様の手の指に、わたくしと同じように、土の皺が永遠に消えずについていた。

 指が触れた瞬間、わたくしは、その皺の堅さを、自分の指の腹で確かめた。

 ヴァルター様は、それを見て、ごく微かに、目を細めた。

「——辺境の冬が、少し、短くなった」

 と、ヴァルター様は呟いた。

 わたくしは、茶碗に指を添えたまま、答えなかった。

 答えなくても、よかった。


---


 そして、今朝のことだった。


 わたくしは、畑のあぜで、ヴァルター様と並んで、麦穂を見ていた。

 辺境の麦は、今年、ようやく王家穀倉地帯の収量に並ぶ水準まで育った。冷害耐性は元々辺境のほうが高かったから、病害耐性を足せば、王家穀倉地帯を越える、とヴァルター様は静かに言った。

「来年の春、東の斜面に、新しい畑を拓こうと思う」

 ヴァルター様が、畦の端で立ち止まった。

 わたくしは、麦穂の重さを指で確かめながら、ヴァルター様を見た。

 そのとき、馬車の音が、村の道を上がってきた。

 四頭立ての、重い馬車。

 わたくしたちは、畦の端から、それを見た。

 車体の側面に、金糸の双頭獅子——王家の紋章。

 馬車は、わたくしの小屋の前で止まった。

 そして、一人の男が、馬車から降りた。

 金髪、痩せた頬、仕立てはいいが所々ほつれた上着。革靴の爪先に、辺境の道の泥がついていた。

 第一王子セルヴァン・エイルフォート殿下だった。

 三年ぶりの顔だった。


---


 ヴァルター様は、一歩、わたくしの後ろに下がった。

 それは、警護の構えではなく、選択を尊重する構えだった。

 わたくしは、麦穂から指を離して、前掛けで泥を拭った。

 そして、静かに一礼した。

「お久しぶりでございます、殿下」

 殿下は、わたくしの顔を、長く見た。

 三年前に侮蔑した同じ顔だったはずなのに、殿下の目の中のものは、三年前とは違っていた。

「——リーディア嬢」

 殿下は、畦の端に立ったまま、声を震わせた。

「話を、聴いてほしい」

「どうぞ」

 殿下は、自分の足元を見た。革靴の爪先の泥を、見ていた。

「三年前の春、私は君を公の場で侮辱した。あの言葉を、取り消すために来たのではない。取り消せないことは、分かっている」

 殿下の声は、震えていた。

「王家穀倉地帯の小麦が、赤錆さびやまいに罹った。葡萄は遅霜で全滅した。芋は腐敗病で全廃棄だ。王国の半分が、今、飢えている」

 わたくしは、麦穂の上を通り抜ける風を聞いていた。辺境の春の風は、王都の風より、まだ冷たかった。

「私は、過去十年の記録を、自分で辿った」

 殿下の声が、さらに低くなった。

「王家穀倉地帯の品種改良の記録。霜害予知の記録。病害発覚の記録——その全てが、君の筆跡で書かれていた。公式記録には君の名前は一字も残っていなかったが、実務の帳面には、全部、君の字があった」

 殿下は、顔を上げた。

 目の下に、深い隈があった。

「三年前、私が、君を、下賤と呼んだ。——私たちは、自分の足元に何が敷かれているかを、知らなかった」

 殿下は、膝を折ろうとした。

 辺境の畦の土の上に、膝をつこうとした。

 わたくしは、一歩、後ろに引いた。

 その動きで、殿下は膝を止めた。

「種を、分けてほしい。王国の飢えを、止めるために」

 殿下は、両手を前に差し出した。空の両手だった。

 わたくしは、静かに、手ぬぐいを取り出して、もう一度、指先の土を拭いた。


 そして、答えた。

「種は、差し上げます」

 殿下の顔に、わずかに、安堵の色が浮かんだ。

 わたくしは、その色を、見届けた。見届けてから、続けた。

「——ですが、育て方は、教えませんの」

 沈黙が、畦に落ちた。

 ヴァルター様も、黙っていた。辺境の春の風だけが、麦の穂の上を、ゆっくりと渡っていった。

「——どういう、ことだ」

 殿下の声が、喉の奥で潰れた。

「殿下」

 わたくしは、ごく静かに、続けた。

「種というのは、土に蒔けば勝手に育つものではございません。土の匂いを嗅ぎ、葉の裏を返し、根の張りを指の腹で確かめながら、毎日毎日、十年かけて育てるものですの」

「…………」

「冷害耐性小麦を一つ作るのに、十二歳から選抜を始めて、七年かかりました。葡萄の霜害予知は、九歳から葉裏の産毛を見続けて、十年以上。芋の腐敗病の早期発見は、何年の観察の先に、ようやく、あの二ミリの斑点が見えるようになりました」

 殿下の顔から、血の気が引いていった。

「種をお渡ししても、それを蒔く土を見分けられる方が、もう王国にいらっしゃいませんわ。わたくしが三年前に王国を出てから、誰が、葉裏の産毛の向きを読めますか。誰が、朝露の玉の並びで、翌朝の霜を当てられますか。誰が、芋の葉の端の二ミリの斑点を見て、一畝ぶんを焼く判断ができますか」

 殿下は、答えられなかった。

「わたくしが焼いていた二ミリの斑点を、誰も見ていなかったから、今年、王国の芋畑は、黒く溶けたのですわ」

 わたくしは、麦穂に、そっと手のひらを添えた。

 麦穂の先が、わたくしの手のひらの中で、微かに震えた。

 ——元気ね。

 そう、麦が言った。

「殿下」

 わたくしは、顔を上げて、殿下を見た。

 静かに、微笑んで、言った。

「土に頭を下げられない方に、麦は育ちませんのよ」

 殿下は、その場で、ふっと、膝が抜けた。

 辺境の畦の土に、殿下の膝が、初めて、ついた。

 けれど、それは、土に頭を下げるための膝ではなかった。ただ、力が抜けただけの膝だった。

 殿下は、土の上で、両手のひらをついて、しばらく、顔を上げられなかった。

 わたくしは、それを、見ていた。

 ヴァルター様も、見ていた。

 辺境の風が、殿下の背中を、冷たく撫でていった。


---


 殿下は、小さな麻袋に入れた種を、わたくしから受け取って、馬車に戻った。

 ノルドハイム領で、わたくしとヴァルター様が三年かけて選抜してきた、冷害と病害に強い麦の種。

 殿下は、袋を両手で持ったまま、馬車に乗り込むとき、一度だけ、こちらを振り向いた。

 振り向いて、何か言いたそうに口を開いて、けれど、何も言えずに、閉じた。

 ヴァルター様が、一歩下がった位置で、殿下に一礼した。

「殿下、お気をつけて」

 殿下は、礼を返せなかった。

 馬車の扉が閉まった。

 車輪が動き出した。

 枯れた街道の向こうに、馬車の影が小さくなっていった。

 馬車の窓の向こうに、遠く、王都の方向の空が、春だというのに、灰色に曇っているのが見えた。

 わたくしは、見送らなかった。

 馬車の影が視界から消えるまで、わたくしはただ、麦穂を撫でていた。

 殿下は、帰り道の馬車の中で、袋の重さを、一人で抱えることになる。

 種はある。けれど、蒔き方が、分からない。

 殿下が三年前に捨てたのは、女ではなかった。

 王国の、十年だった。


---


 夏の夕暮れだった。


 辺境ノルドハイムの麦畑は、夕陽を浴びて、金色に揺れていた。

 わたくしは、畑の真ん中で、一本の麦穂に、頬を寄せていた。

 麦穂の先が、わたくしの頬を、くすぐるように撫でた。

「——元気ね」

 わたくしは、麦穂に、小さく囁いた。

 麦穂は、微かに震えて、答えた。

 ——ええ、今日も。

 ヴァルター様が、隣に立っていた。

 黙って、わたくしの手を、そっと握った。

 土だらけの、肉刺だらけの、わたくしの手を、迷いなく、握った。

 ヴァルター様の手の皮も、同じくらい、堅かった。

 指の皺に、同じくらい、土が入っていた。

 わたくしは、王都のことを、もう遠くに感じていた。

 風が、麦畑を、ゆっくりと渡っていった。

「——来年の春」

 ヴァルター様が、低い声で、言った。

「東の斜面に、新しい畑を拓こうと思う。君の名前で」

 わたくしは、少しだけ、首をかしげた。

「それは、仕事のご提案ですか。それとも」

 ヴァルター様は、夕陽の方を、少しだけ目を細めて見た。

「——両方だ」

 わたくしは、笑った。

 笑ったのは、久しぶりだった。

 目の縁に、ほんの少しだけ、温かいものが滲んだ。三年かけて、やっと、流せる涙だった。悲しみでも、悔しさでもなく、ただ、ここにたどり着いた、という安堵の涙。

 ヴァルター様は、それを、見なかったふりをしてくれた。

 握った手の力を、少しだけ、強くしてくれただけだった。


 麦畑の向こう、辺境の山の稜線に、陽が沈んでいった。

 遠く、王都の方向の空は、もう見えなかった。

 見えなくて、よかった。

 わたくしは、もう一度、麦穂に頬を寄せて、夕陽の中に、ゆっくりと、呟いた。

「麦を育てる者を、下賤とお呼び? 」

 麦穂が、わたくしの頬の上で、微かに震えた。

「でもわたくしは——」

 わたくしは、目を閉じた。

「麦とお話しする方が、よほど、好きですわ」

 ヴァルター様の手が、もう一度、わたくしの手を、強く握った。


 辺境の夕陽は、長く、しずかに、麦畑の上に残った。


---


【あとがき】


最後まで読んでいただきありがとうございました。


 「Tier S 専門職型」の、少しだけ独自設定を足したざまぁです。剣も魔法も使いません。リーディアが持っていたのは、土の匂いを嗅ぐ鼻と、葉裏の産毛を逆光で透かす目と、十年分の観察帳——それだけでした。


 「植物の声が聴こえる」という力を、わたくしはあえて、魔法や精霊の加護としては書きませんでした。九歳のときに葡萄の葉裏を見た。十二歳のときに麦の節を指で押した。十七歳のときに芋の葉に二ミリの斑点を見つけた——その一つ一つの積み重ねが、彼女にとっての『声』でした。

 わたくしたちが『才能』と呼ぶもののかなりの部分は、実は、長く続けた観察の、別の名前だと思っています。リーディアは自分の力を、最後まで『才能』とは呼びませんでした。彼女にとっては、ただ、長く見てきた、という事実だけがあった。


 「土に頭を下げられない方に、麦は育ちませんのよ」——この台詞をリーディアに言わせるために、わたくしはこの短編を書きました。食を支える者を『下賤』と呼ぶ国は、必ず飢える。当たり前のことのようで、歴史の中で、人間は何度もこの当たり前を忘れてきた気がするのです。麦を育てる手の皮の堅さを、『威厳を汚すもの』と呼んだ瞬間、国は足元を失う。


 セルヴァン殿下が辺境の畦で膝をついたのは、土に頭を下げるためではなく、ただ力が抜けただけでした。最後まで、彼は土に頭を下げることができなかった。——だから、麦は、彼のところには戻りません。それが、この物語のいちばん、静かな罰だと思っています。


 リーディアの涙を、最後の一粒だけ、安堵として流しました。三年かけて、やっと流せた涙。悲しみでも悔しさでもなく、ただ、たどり着いた、という涙。ヴァルター様がそれを見なかったふりをしてくれるところが、書いていて、いちばん好きなシーンでした。


◇◆◇ 「捨てられ令嬢は最後に笑う」シリーズ ◇◆◇


婚約破棄・追放・裏切り——捨てられた令嬢たちが、それぞれの方法で最後に笑う短編シリーズです。


▼ 公開中


・「お前は道具だった」と笑った婚約者が、5年後に物乞いになって戻ってきた件

・「偽物の聖女は要らない」と追放された私、隣国で本物の奇跡を起こしたら元の国が滅びかけていた件

・「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

・「愛される価値がない」と言われ続けた伯爵令嬢、無口な騎士団長に拾われて初めて「おかえり」を知る

・「『お前の取り柄は計算だけだ』と笑った公爵家が、私を追い出した翌月に財政破綻した件」

・「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」

・公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

・『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした

・「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた

・婚約破棄の翌日から、辺境で簿記を教えてきた三年後——「戻ってきてくれ」と言われても、もう王都の帳簿は動きません


毎日19時、新作更新中!

☆評価・ブクマ・感想をいただけると次作の励みになります!

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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 「植物の声が聴こえる」という力を、わたくしはあえて、魔法や精霊の加護としては書きませんでした。九歳のときに葡萄の葉裏を見た。十二歳のときに麦の節を指で押した。十七歳のときに芋の葉に二ミリの斑点を見つけた——その一つ一つの積み重ねが、彼女にとっての『声』でした。

 わたくしたちが『才能』と呼ぶもののかなりの部分は、実は、長く続けた観察の、別の名前だと思っています。リーディアは自分の力を、最後まで『才能』とは呼びませんでした。彼女にとっては、ただ、長く見てきた、という事実だけがあった。


 「土に頭を下げられない方に、麦は育ちませんのよ」——この台詞をリーディアに言わせるために、わたくしはこの短編を書きました。食を支える者を『下賤』と呼ぶ国は、必ず飢える。当たり前のことのようで、歴史の中で、人間は何度もこの当たり前を忘れてきた気がするのです。麦を育てる手の皮の堅さを、『威厳を汚すもの』と呼んだ瞬間、国は足元を失う。


 セルヴァン殿下が辺境の畦で膝をついたのは、土に頭を下げるためではなく、ただ力が抜けただけでした。最後まで、彼は土に頭を下げることができなかった。——だから、麦は、彼のところには戻りません。それが、この物語のいちばん、静かな罰だと思っています。


 リーディアの涙を、最後の一粒だけ、安堵として流しました。三年かけて、やっと流せた涙。悲しみでも悔しさでもなく、ただ、たどり着いた、という涙。ヴァルター様がそれを見なかったふりをしてくれるところが、書いていて、いちばん好きなシーンでした。


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・「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」

・公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

・『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした

・「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた

・婚約破棄の翌日から、辺境で簿記を教えてきた三年後——「戻ってきてくれ」と言われても、もう王都の帳簿は動きません


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似たお言葉をおっしゃって射た方がおりますね。 「どうやら島侍は物の道理を知らぬと見える。百姓こそ国の基(もとえ)よ!百姓がいなければ、武士とて飢えると知らぬか!」 たぶんこんな分だったかな?うろ覚えだ…
 馬鹿王子はモノを知らぬと見える。百姓こそは国の基よ。彼らなしで国が成り立つものかよ。  追伸。後書きが何故か二重に投稿されているようです。
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