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短編集  作者: ヒロ
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きっと素晴らしいであろう今日

「私はループ物が好きだ。あぁいや好きだは違うな。好きだった。日夜、寝る間を少しずつ削って、毎日毎日小遣いをつぎ込んだループ物のシナリオゲーをするのが習慣だった。


 傍から見れば稀有な趣味だと思われるかもしれない。シナリオゲーはソシャゲに比べればプレイ人口が少ない。それに基本的に続編・プレミアム版でも出ない限り話題の発展性に大きく欠けている。なぜなら、シナリオが増えないからだ。これからもどんどん増えていく更新の早いソシャゲや漫画に、買い切り読み切りゲーが、話題性で勝てる線は極めて薄い。何が良いたいのかと言うと、学校・SNSでの会話のネタになりにくい。  


 おまけに、シナリオゲーはそれなりに長い。私が遊んだ内では丸一日分はある作品が大半だった。寝る間を二時間削って短くて2週間。会話のネタに成りうる話題を日夜探しているであろう社交力の高い皆々様が、それほどの時間をかけてネタに成りにくい所業をするとは思えない。だからきっと稀有であろう。そうに違いない。


 聡明な皆々様方のお察しの通り、私の社交性は欠けている。日夜ネタ探しに時間をかける気のない人間と、わざわざ仲良くするようなヤツはそうはいない。おまけに、私は浮気者。一つの作品を5周も10周も出来ない。2周すらロクにした覚えが無い。誰かと語れるような愛が無い。


 ループ物に手を出したのだって興味があったからじゃない。明日が来るのが嫌だからだ。勉強が得意じゃなくて、交流が得意じゃなくて、自分磨きが得意じゃない。そんな人間にとって、学校という社会の縮図は居心地が悪いだろう。せめて、今日起きるハプニングが、今日言われる陰口が、なにか知っておきたいと思う事もあるだろう。そうじゃ無いと、心構えの一つも出来ないであろうから。


 事実、私はそうだった。現実がループ物のように、同じ日が巡って来てくれたら。授業の内容にも簡単についていける。だって知っているのだから。教師からの嫌がらせにも等しい名指しにも対応できるだろう。だって知っているのだから。だから、現実逃避をするために、ループ物を読み漁った。


 明日は怖い、未知だから。昨日は怖くない。既知だから。もしも仮に毎日が過ぎた今日ならきっと私は怖い事が一つ減るだろう。そう思っていた。事実、一つ減った。今の私は今日、何が何処で起こるか分かる。どの交差点で人身事故が起きるか。どの家から火が出るか分かる。では、なぜ私はそんなことが分かるのか?聡明な皆々様はお気づきだろう。


 私は今日、2024年9月27日金曜日に閉じ込められてしまったからだ。私は、自分が寄り縋って、支えにしていた存在に成ってしまったからだ。最初は飛んで跳ねて、母に叱られる程に喜んだ。なぜって?今日どんなことをされるか知っているからだ。既知ならきっと対応出来るだろうと、そう思ったからだ。実際、対応できた。出された足を自然に避けれた。問題にも、しどろもどろにはなったが、答えられた。私に構ってくるかまってちゃん共の鼻を、明かしてやった。


 さて、ここで問題だ。皆のカワイイ玩具がある日突然、思惑通りに動かなかった。そしたら玩具で遊んでいた皆々様らは、いったいどうするだろうか?出来損ないのあの子が、あれを避けた、素晴らしいと。あの問題を当てた。流石だ。とでも言って、そうもてはやしてくださるだろうか?


 答えはそんな素晴らしくお優しいものでは無い。壊れた玩具は叩いて直す。答えはコレだ。


 私は今日、昨日までよりもずっとひどい目に遭った。だから、今日は大人しくいつも通りカワイイ玩具を演じる事にした。それは昨日よりも苦痛だった。いつもよりも無意識にへりくだっていたのだろう。弱弱しかったのだろう。おかげで、どんなことをされるか知っていても、いや、知っていたからこそこの上ない苦痛であった。


 だから逃げ出した、今思えば、今日まで逃げなかったのが心から不思議であった。昨日までも違うことなく苦痛であったのだから。


 でも、逃げられなかった。ループ物ではあるあるの設定だ。無いモノを見た覚えが無い。なぜなら?ループ物で死亡エンドなんてくそつまらないからだ。


  私は1回で信じられるほど素直な人間じゃない。でも、逃亡経路は死ぬほど辛くてキツかった。2度目を試す気が起きないくらいにはキツかった。なぜゲームの中の君たちはあんなにも死の苦痛を、軽く笑い飛ばせたのだろうか?是非ともご高説賜りたい所だ。


 何十時間も寝込んで、漸く部屋を出た。扉が開かないようにしておくグッツを自作してある事をこれほど喜んだことは無かった。きっと、母と対面していれば、何があったか無理に聞き出した挙句、一ミリも信じる事無く吐き捨てていただろう。そういう母だ。自分の子供に耳にタコが出来るまで教育論を語りながら、たったほんの少し出来ないだけで、やたら長ったるいご高説を語る。そんなよくいる教育ママの模範のような母だ。


 おかげで、私はそれなりに背伸びした高校に入らされた。そんな環境で、特進科志望に無理矢理させられた自分磨き下手がやっていけると思うような御方がいるなら会わせて欲しい。弑してやる。


 同じような親を持つ子が居そうな環境で、落ちこぼれがどうなるかなんて語るまでも無いだろう。私がいい例だ。


 父はヒステリックをお抱えになられた母から逃げるように仕事に没頭している。もう何年もまともに話していない。毎日、母が起きる前に家を出て、寝る頃に家に帰ってくる。もはや帰ってくる意味が分からない。


 部屋を出て、着の身着のまま外へ出て、誰も居ない所で救いの光が差す時を待とうとした。何の意味も無いというのに。だって、今日が終わって、新しい今日が来た時、何もかも初めからやり直しなのだから。寝巻のまま飛び出て、針の筵にされるのも、素足のまま飛び出て、真っ赤な靴を履くことになるのもに2度とゴメンだ。


 かといって、制服を着ず、家を出る事なんて、母が止める。サボるだなんて許さない。白い靴を履く間もなく止められる。


 学校に行かず、サボっても職質されて親に連絡が行って、ありがた~いご高説を滾々と聞かされて、船を漕ぐたびに叩かれて今日が終わった。


 鞄に私服を仕込んで外で着替えるという、小学生はおろか、園児でも思いつきそうなことを思いつくのに随分と時間がかかった。それほどに私は低能極まるらしい。


 それからは少し気楽だった。鳴り続けるスマホを投げ捨てた時の解放感に勝る快感は感じたことが無かった。全財産5293円を握りしめて好きに過ごす今日はとても楽しかった。でも、1日と経たずして飽きてしまった。何もかも目新しいだけ。ファミレスの温かいご飯も、喫茶店のにっがいコーヒーも、すぐに飽きてしまった。


 たった4桁半ばの全財産で、この低能な頭で、貧相なこの体で、遊べるだけ遊んでから色々な事が分かった。


 なぜ、ループ物の登場人物には必ず、金持ちの人がいたのだろうか?それは簡単。社交性に満ち溢れた素晴らしき皆様にとって、日常の延長にしかならないつまらい物語にしないためだ。私がいけない遊園地に、水族館に、行くためだ。


 なぜ、ループ物の登場人物には、明日を恐れる事など微塵もなさそうな貴く、素晴らしきお方が多いのか?それは簡単。笑顔を浮かべさせるためだ。私がするような辛気臭い表情をさせないためだ。


 なぜ、ループ物の登場人物は同じ穴の貉を探すのがあんなにも上手いのは何故か?それは私なんか比べ物にならない程に聡明極まる皆々様は、一人遊びなどという下らない行為に現を抜かす事が無いからだ。共感性の極めて乏しいシナリオが売れるわけがない。それに聡明英知極まる皆々様が私のような愚物を慮るってくださるとは到底思えない。そのような事をして下さるなら、私の唄はもっと華やいだ物であった事だろう。

 

 そんな気付きを喉が枯れる程にした頃には、拠り所が何一つ無くなってしまっていた。あんなに羨ましく、欲しくて欲しくて堪らなかったこの玉座が、心の底から要らなくなった、


 でも、どうやって捨てようと、手放すことなどできなかった。よくあるマリーさんの怪談のようなモノよりもずっと早く手元に戻ってきた。  


 いや、もしかしたら私のような低能では一度も適切に処理出来ていなかったのかもしれない。でもそんな些細な違い、今更どうだっていい。


 前例を探しもした。でも、どう調べれば望むものが出るか分からなくて、仮に探し当てたとしても、その者はきっと私と同じように狂っているだろうからして、その末路を見るのが怖くて、得られるものは何一つ無かった。


 そう。私は狂っている。逆に、こんな奇天烈な口調で、独りずっと語り連ねるイカレ女が狂って無いと出てきてくださる心優しき方が居るなら逢わせて欲しい。私が優しく弑して差し上げよう。御前が現代を生きるのは辛き事この上ないであろう。


 今日は私がこの呪われた玉座について、記念すべき???日目だ。何?日数が分からない?当たり前だろう。私は廻る今日が何回目か分かる程素晴らしき頭脳なんて無いのだから。


 そんなことはどうでもいい。さあこの独白をお聞きになられた聡明英知極まるいと貴く素晴らしき皆々様。願わくば、御前らの明日に遍く主の祝福あらんことを。


 She you again]


 少女は一人きりの、廃墟の屋上での独白を終えた。カリスマの欠片も無く、高説とはかけ離れた醜き語りは終わりを告げた、さあ、こんな愚物の語りに耳を傾けた聡明英知極まる皆々様。願わくば彼女に救いの言葉を。


「早く明日にならないかぁ」


 ほら。少女も明日を望んでる。

かわいそうってカワイイね。

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