第6話「初めての男装デート」
放課後の教室を出ると、夏の光が照りつけて汗がじんわりにじむ。
あたし、純はリュックを背負ったまま、柚穂と待ち合わせていた。
「遅れてごめんね、純」
柚穂が笑顔で手を振る。制服のリボンは少し乱れているけれど、それが妙に可愛らしい。
「大丈夫。あたしも今着いたところ」
柚穂は小さく笑い、リュックから紙袋を取り出す。
「まずは男装用の服を見に行くの。街歩きデート、完璧にしたいから」
「……わ、わかった」
心の中で「完璧って、どうなるんだろう」と思いながらも、頷く。
◆◆◆◆
駅前のショッピングモールに着くと、通りには夏休み前の賑わいがあった。
人ごみの中、柚穂はあたしの腕に軽く手を置き、ぐいっと引く。
「人が多いけど、大丈夫?」
「う、うん……」
普段より背筋を伸ばして、男装の“純”として歩く。
柚穂は楽しそうに服屋を覗き込みながら、あたしの身長や肩幅を観察する。
「サイズも合いそうね。あと、帽子も似合いそう」
「そ、そう……?」
少し赤面しつつ、試着室へ向かう。
試着室の中、あたしは制服の上にシャツとジャケットを羽織り、ズボンも履き替える。
鏡に映る自分は、確かに男の子っぽく見える。
「……いい感じよ、純」
柚穂の言葉に胸の奥がざわつく。
嬉しいけど、やっぱり緊張する。
「でも、まだ靴も選ばないと」
二人で靴コーナーを歩くと、柚穂がスマホを取り出す。
「この写真、SNSにアップしてもいい?」
「えっ!?」
思わず声が出る。
街中での男装姿を撮られるのは初めてだから、ドキドキする。
「大丈夫よ、純。顔は少し隠すし、写す角度も工夫するから」
「そ、そう……」
覚悟を決めてスマホを向けられる。
何枚か撮られるうちに、自然と少し笑ってしまった。
◆◆◆◆
街歩きデートの途中、カフェに入る。
冷房の効いた店内に入ると、ほっと一息つける。
「ふぅ、やっと涼しい」
柚穂はメニューを眺めながら、あたしの肩に軽く寄り添う。
「純、やっぱり背が高いから男装だと存在感あるわね」
「え……そんなこと言われると照れる」
二人分のアイスを頼み、窓際の席に座る。
外の光と涼しい店内の温度差で、少し汗が引いていく。
「……昨日、友達に話したの?」
「あ、うん。あおいと恵理那には、付き合うことになったってだけ伝えた」
「ふむ。じゃあ、二人とも知ってるのね」
「うん。でも、偽恋人とか男装とか、そういうのは秘密」
柚穂は微笑み、あたしの手をそっと握る。
「安心して。あたしも守るから」
「……ありがとう」
街を歩きながら、あたしは少しずつ自信をつけていく。
男装デートは、思ったよりも自然にできるかもしれない。
でも、帰り道、心のどこかで思う。
「……あおいと恵理那、いつかバレるんだろうな」
それでも、今はただ、柚穂と一緒に過ごす時間を楽しむことにした。




