巻末記録|評価不能領域・増殖ログ
記録は、残っていた。
完全ではない。
欠落だらけで、改ざんの痕跡も多い。
それでも――
消えなかった。
GENESIS第七解析室。
隔離された端末に、
一つのグラフが映っている。
数値ではない。
評価軸でもない。
「……増えているな」
観測官が、低く呟く。
“評価不能領域”。
Δが発生した地点の周囲に、
管理が届かない空白が広がっている。
制御できない。
登録できない。
回収も、最適化もできない。
「想定より速い」
別の声が答える。
「BORDER REMAINSの影響だ」
同時刻。
NIGHTは動き始めていた。
Δは商品になる。
恐怖は、需要だ。
名前を変え、
形を変え、
闇に流す。
誰も“正体”を説明できないからこそ、
売れる。
ORBITでは、
遺物との融合実験が再開された。
Δは力ではない。
だが“差分”は、技術と相性がいい。
失敗例は山ほど出た。
それでも、やめない。
宇宙は、
管理の外にあるからだ。
境界。
瓦礫の街で、
子どもが一人、座っている。
年齢は不明。
登録なし。
履歴なし。
ただ、そこにいる。
近くの大人が、声をかける。
「名前は?」
子どもは、首を傾げた。
少し考えてから、答える。
「……まだ、ない」
それだけで、
空気が揺れた。
遠く離れた場所。
ユウは、拾えるはずの装備を拾わずに通り過ぎる。
アルトは、端末を見ずに判断を下す。
シオンは、
救えない未来を一つ、
静かに受け入れる。
三人はもう、
同じ場所にはいない。
だが、
同じ“方向”に進んでいる。
Δは止まらない。
管理は追いかける。
制度は遅れる。
世界は歪む。
それでも――
評価不能領域は、確実に増えていく。
最後のログに、
手書きの一文が残されていた。
勝たなくていい。
定義しなくていい。
残せ。
その署名は、
どこにも記録されていない。
次作予告的な一文(文庫ラスト)
世界は、
Δを巡る戦争に入った。
そして次に問われるのは、
こうだ。
――残された未来は、誰のものか。




