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第29章|捕獲された未来

白かった。


目を開けた瞬間、

シオンはそれだけを認識した。


天井。

壁。

床。


影がない。

境界もない。


音が、遠い。


自分の呼吸だけが、

少し遅れて聞こえる。


「……収容、完了」


声がした。


優しい。

柔らかい。


それが一番、怖い。


視界の端に、人影が立つ。

白衣。

管理局の標章。


カリナだった。


「おはよう、シオン」


彼女は、穏やかに微笑んだ。


「体調は?」

「鎮静は最小限にしてあるわ」


シオンは、身体を動かそうとする。


動く。


拘束されていない。


それが異常だった。


「……拘束、しないんですか」


カリナは首を振る。


「必要ないもの」

「あなたは、もう理解しているでしょう?」


シオンは黙る。


理解している。

だからこそ、ここにいる。


抵抗しなかった。

逃げなかった。


“残す”ために、捕まった。


部屋の中央に、ホログラムが浮かぶ。


数値。

波形。

分岐図。


未来の枝。


カリナはそれを指差す。


「これが、あなたのΔ」

「希望収束」


名前を、さらりと言った。


公的には、まだ伏せられているはずの名称。


「……内部共有は、早いですね」


「ええ」


カリナは否定しない。


「だって、あなたは“成功例”だもの」


成功。


その言葉が、胸に刺さる。


「あなたは救った」

「同時に、救えない未来を確定させた」


「とても効率がいい」


シオンは、視線を逸らさない。


「それは……」

「効率じゃありません」


「ええ、知ってるわ」


カリナは、穏やかなままだ。


「でもね、管理は効率でしか動けない」


ホログラムが切り替わる。


Δ適合値。

AAA。


「あなたは、Δを“制御できる側”よ」

「少なくとも、暴走型ではない」


それは褒め言葉ではない。

分類だ。


兵器化の第一歩。


「ユウとアルトは?」


シオンは、静かに聞いた。


カリナは、少しだけ間を置く。


「無事よ」

「今のところは」


“今のところ”。


「彼らは、あなたほど素直じゃない」


「特にアルトは厄介」

「正しさを壊すΔは、管理に向かない」


シオンは理解する。


だから自分だけが、ここにいる。


扱える。

交渉できる。

“残す判断”ができる。


管理にとって、最も危険で、

最も便利な存在。


カリナが続ける。


「あなたに、提案があるの」


ホログラムが一つに収束する。


一本の線。


「あなたがここにいれば」

「境界のΔは、整理できる」


「戦争にはならない」

「犠牲は、最小限で済む」


シオンは息を吸う。


「……その“最小限”に」

「私は、含まれない」


カリナは、静かに頷いた。


「ええ」


嘘をつかない。

それが、彼女の誠実さだ。


その時、

シオンははっきりと感じた。


未来が、閉じていく。


このまま受け入れれば、

多くは救える。


境界は管理され、

Δは制度になる。


でも――

“逃げ道”は消える。


ユウの拾う未来。

アルトの壊す正しさ。


それらは、不要になる。


シオンは、目を閉じた。


そして、短く宣言する。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン


部屋の空気が、微かに揺れる。


ホログラムの線が、一本だけ残る。


“拒否する未来”。


代償は、重い。


誰が救えなくなるか、

まだ分からない。


だが、これだけは確定する。


自分は――

管理の中に、逃げ道を残す。


シオンは目を開け、言った。


「その提案は、受けません」


カリナは、初めて表情を変えた。


困ったように、

そして少しだけ、悲しそうに。


「……そう」


「残念だわ」


彼女は端末を操作する。


「なら、次の段階に進みましょう」


部屋の壁が、静かに変形する。


白の中に、赤いライン。


《再評価開始》


《Δ適合値:再算出》


《処理方式:分離》


シオンの胸が締め付けられる。


分離。


それは、

“壊さずに使う”ための処理。


管理は、決して諦めない。


その頃。


別の場所で、

ユウは血を拭いながら歩いていた。


アルトは、震える手で端末を握りしめていた。


二人とも、同じ予感を抱いている。


“シオンが、何かを選んだ”。


そして次の瞬間。


管理放送が、世界に流れ始めた。


《Δ適合者の保護運用を開始》


《新評価基準を導入》


《Δは、未来を守る》


アルトは、声を絞り出す。


「……始まったな」


ユウは、ただ一言。


「取り返す」


戦争は、

もう宣言を待たない。

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