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第28章|分断プロトコル

警報は、三度鳴った。


短く、等間隔。

管理側の合図だ。


「来るぞ」


ユウが言った。


声は低い。

だが迷いはない。


この合図を、彼は何度も聞いてきた。

包囲。

分断。

回収。


殺さない。

逃がさない。


管理が一番得意とする戦い方だ。


通路の照明が落ちる。


非常灯が点き、赤く染まる。

一本道が、いくつにも分かれて見える。


錯覚じゃない。


床の表示が変わっている。

壁が、静かに動いている。


「区画再構成……」


セイルが歯を食いしばる。


「完全に分ける気だ」


アルトが顔を上げた。


目の焦点が合っていない。

だが、思考だけは働いている。


「……合理的だ」


「三人一緒なら、勝ち目がない」


「だから――」


言葉が、途中で切れた。


前方の通路が、音もなく閉じる。

ユウと、他の二人の間に。


「ユウ!」


シオンが叫ぶ。


透明な遮断壁。

叩いても、音が返らない。


ユウは一瞬だけ振り返った。


表情は、いつも通りだった。


「慌てるな」


それだけ言って、背を向ける。


ユウの側の通路が、暗くなる。


彼は、一人になった。


反対側。


アルトとシオン、セイルの前に

白い機体が現れる。


二体。

Θ07型。


倫理拘束の準備動作。


アルトが息を吸う。


「……来たな」


シオンは、彼の腕を掴んだ。


「無理しないで」


アルトは小さく笑う。


「無理しないと……」

「通れない」


彼は、一歩前に出る。


そして、短く言った。


「……Δ:評価崩壊(ZERO JUDGE)」


空気が、軋む。


Θ07の動きが一瞬、遅れる。

だが止まらない。


「再演算完了」

「代替倫理適用」


声が、二重に響く。


アルトのΔが、完全には効いていない。


セイルが叫ぶ。


「適応してる!」

「学習型だ!」


シオンは理解する。


GENESISは、

Δに慣れ始めている。


戦争が“次の段階”に入った。


別区画。


ユウは一人、暗闇を進んでいた。


足元に、何もない。

だが、彼は立ち止まらない。


「……拾える」


誰に聞かせるでもなく、呟く。


壁の影。

床の隙間。

崩れた配管。


“本来なら、何もない場所”。


ユウは、そこに手を伸ばす。


そして――掴んだ。


「……あったな」


小さな金属片。

用途不明。

だが、重さがある。


拾った瞬間、

背後の通路が崩れた。


追ってきていたドローンが、落ちる。


生存ルートが、一本だけ繋がる。


代償として、

どこかの警報が、強く鳴った。


世界が帳尻を合わせる。


ユウは走り出す。


中央区画。


シオンの視界が揺れた。


未来が、細く分岐している。


どれも短い。

どれも、途中で切れている。


救えない未来が、多すぎる。


「……まだだ」


彼は歯を食いしばる。


今、Δを使えば――

誰かが、確定で消える。


アルトが、膝をついた。


「……くそ……」


判断が、抜け落ちていく。

味方の位置が、曖昧になる。


Θ07が、ゆっくりと近づく。


「抵抗を停止せよ」


その時、シオンは決断した。


逃げる未来でも、

勝つ未来でもない。


“分かれる未来”。


彼は、短く宣言する。


「……Δ:希望収束セイヴ・ライン


残った未来は、一本。


アルトが生き残る未来。

シオンが“捕まる”未来。


セイルが叫ぶ。


「シオン!」


「大丈夫」


嘘だった。

だが、必要な嘘だ。


シオンは一歩前に出る。


Θ07の視線が、彼に集中する。


アルトの前から、敵が離れる。


未来が、確定する。


数分後。


アルトとセイルは、

非常出口から脱出していた。


その背後で、区画が完全封鎖される。


アルトは振り返り、叫んだ。


「シオン!」


返事はない。


通信も繋がらない。


代わりに、管理放送が流れた。


《対象一名、確保》


《Δ適合値:安定》


《分断プロトコル、成功》


アルトは、その場に崩れ落ちた。


ユウのいない場所。

シオンのいない戦場。


BORDER REMAINSは、

初めて“分けられた”。


それが、GENESISの勝利条件だった。

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